第74話 いざ、フロントラルへ!
第5章、最終話です。そして、いつもより短めの話です。
翌日、朝起きて朝食を済ませた水音達は、帝城の前に集まっていた。
ただ、水音、祈、そしてエレクトラの3人は、朝から何処か様子がおかしかった。
出発前だというのに、水音は何やらげっそりとしていた様子で、反対に祈とエレクトラは肌がつやつやになっていたが、両足がぷるぷると震えていたので、2人共それぞれ自分の武器である杖と槍を支えにしながら、周りに気付かれないように振る舞っていた。
そんな3人を、周囲の人達は「ん?」と頭上に「?」を浮かべながら見つめていた。中には「どうかしたのか?」と尋ねる者もいたが、
「「「だ、大丈夫です。緊張しているだけ、です」」」
と、何故か3人同時に笑顔でそう答えたので、その場にいる何人かは「只事ではないな」と気付いてはいるのだが、確証もない為に誰1人声をあげる者はいなかった。
まぁそれはさておき、帝城の前には何台もの馬車が並んでいて、フロントラルに向かう者はそれぞれ荷物を積んでいた。といっても実際に行くのは、水音ら6人の「勇者」達に、皇族のキャロライン、レオナルド、アデレード、そして少数の帝国の騎士達なのだが。
因みに何故馬車なのかというと、以前水音達を乗せた「魔導飛空船」は、まだ1隻しか出来てない上に試作の段階だったので、そう何度も飛ばす事が出来ないからである。
再びそれはさておき、各々が馬車に荷物を乗せ終わった頃、
「それじゃあ陛下、そしてエレンちゃん、行ってくるわねぇ」
と、キャロラインが見送りに来ていたヴィンセントとエレクトラに向かって笑顔でそう言うと、
「……おぅ、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい母様、兄様、姉様」
と、2人は少し寂しそうに返事したので、キャロラインは「ふぅ……」と一息入れると、
「もう、ヴィンスちゃんエレンちゃんも、そんな顔しないの。お土産、いっぱい用意するから」
と、言った後、ちらっとヴィンセントを見て、
「それに、彼もちゃんとここに連れてくるから」
と、小声でそう言ったので、それにヴィンセントは「む……」と反応すると、
「わかった。楽しみに待ってる」
と、少しだけ表情を明るくしながら言った。
キャロラインはそれを見てうんうん頷くと、くるっと後ろにいる水音達を見て、
「さぁみんな! フロントラルに行くわよぉ!」
と、元気よくそう言ったので、
『はい!』
と、水音達も元気よくそう返事した。
そして、キャロラインから順に次々と馬車に乗り込み、やがて残りが水音と祈の2人になると、
「ちょっと待ってくれ」
と、エレクトラに呼び止められたので、「何だろう?」と2人がエレクトラの方へと振り向くと、
「「うわぁ!」」
と、がばっといきなり抱き寄せられたので、それに驚いていると、
「必ず帰って来い。お前達はもう、私のものなのだから」
と、エレクトラにそう言われたので、
「「はい」」
と、2人はそう返事すると、すぐに馬車に乗り込んだ。
その後、馬車の扉が閉まると、御者の掛け声と共に馬車は帝城の前から走り出した。
そして帝都の通りを抜けると、水音達を乗せた数台の馬車は帝都の門を潜って外に出た。
それから暫く走っていると、馬車内の水音は「ちょっと失礼」と言って、窓を開けて外の景色を見た。
いつの間にか小さくなっていた背後の帝都を見て、
(行ってきます、ヴィンセント陛下。そして、エレン)
と、水音は心の中でそう呟いた後、今度は前方を見て、
「待ってろよ、春風」
と、今度は小さな声でそう口に出した。
どうも、ハヤテです。
という訳で、以上で派生作品第5章は終了です。
次回からは暫くこちらの投稿をお休みして、暫く日にちをおいた後、久しぶりの本編新章を書いていき、以後こちら一筋でいきます。
皆様、どちらの物語も、何卒よろしくお願いします。