第73話 出発前夜
水音達がフロントラルに行く事を決めてから、その後の話はスムーズに終わった。
なんでもルーセンティア側は翌日、歩夢と美羽、そしてイヴリーヌの他にフロントラルへ行く者を話し合って決めてから、更に翌日に出発する予定との事だったので、ならばこちらもと翌日準備をしてから更にその翌日に出発するという事に決まり、その日は解散となった。
翌日、水音達は訓練とハンター業をお休みして、予定通りフロントラルへ向かう為の準備に取り組んだ。といっても、やったのはそれぞれの装備の点検と、必要な持ち物を揃える事なのだが。
そして、準備を終えたその日の夜、水音はというと……祈と共にエレクトラの部屋にいる。
(何でこうなったぁあああああっ!?)
と、心の中でそう悲鳴をあげた水音は、自身が何でここにいるのかを思い出していた。
遡る事数分前、準備を終えて自室で一休みしていると、とんとんと扉を叩く音がしたので、
「はーい」
と、水音はそう返事して扉を開けると、
「あれ? エレクトラさま……ってうわぁ!」
と、扉の向こうにいたエレクトラに胸ぐらを掴まれて、そのまま彼女の部屋に連れ込まれたのだ。
何故か祈も一緒に、だ。
そして現在、エレクトラの自室で、水音と祈はエレクトラを前に体を小刻みに震わせていた。
逆に連れ込んだ本人であるエレクトラはというと、2人を前に何処か落ち着いた様子だった。ただ、その服装は、薄い寝巻き姿なのだが。
そんなエレクトラを見て、
「あ、あのぉ、エレクトラ様……」
と、水音は震えた声で恐る恐る話しかけると、
「……いよいよ明日だな」
と、エレクトラは落ち着いた口調でそう言ってきたので、
「え? ああ、そうですね、明日出発です」
と、水音はびくっとなりながらも、エレクトラに向かってそう返事した。
そんな水音を祈が「水音君……」と心配そうに見つめる中、
「不安じゃないのか?」
と、エレクトラがそう尋ねてきたので、
「え、何がですか?」
と、水音はそう尋ね返すと、
「勿論、雪村春風との再会だ」
と、エレクトラはそう答えたので、水音は少し考え込んだ後、
「それは……不安ですね。この世界で春風、どれだけと強くなってるのかわかりませんし、もしかしたら、もう僕達の手の届かないところにいるかもしれないと思ったりもしました」
と、真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、エレクトラが小さく「そうか……」と呟くと、
「ですが……」
「?」
「それでも僕は、あいつに会いたいです。会って……色々と言いたい事とかありますからね」
と、水音は「はは……」と弱々しく笑いながらそう言ったので、
「ははは、そうかそうか」
と、エレクトラも笑いながらそう返した。
その後、
「あ、あのぉ、要件ってそれだけですか?」
と、今度は祈がエレクトラに向かってそう尋ねると、エレクトラは真剣な表情になって、
「明日から、私達は暫くの間離れ離れになるよな?」
と、水音達に向かってそう尋ねてきたので、
「え、ま、まぁそうなりますよね……」
と、水音がそう答えると、
「っ」
と、エレクトラはがばっと2人を抱き寄せた。
「ちょ、エレクトラ様!?」
「え、あ、あの……!」
と、突然の事に2人が戸惑っていると、
「……頼む、今日は……一緒に寝てくれ」
と、エレクトラは力を強くしながらそう言ってきた。
その言葉に水音が「は、はぁ!?」と驚いていると、
「頼む」
と、エレクトラは震えた声でそう言ってきたので、水音と祈はお互い顔を見合わせた後、
「僕達で、いいんですか?」
と、水音はエレクトラに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、エレクトラはこくりと頷くと、
「水音、私はお前が好きだ。それは、今も変わりはない」
と、抱きついた状態でそう言ったので、
「えっとぉエレクトラ様、一応言っときますけど、ここには祈さんもいるんですけど」
と、水音はちらっと祈を見ながらそう言った。そんな水音の言葉に、祈は頬を赤くした。
しかし、
「それは問題ない。というか、水音、気付いてるだろ? 彼女の想いと、自分の想いに」
と、エレクトラも祈をちらっと見ながらそう言ってきたので、水音は「う!」と呻いた。
以前にも語ったと思うが、水音達は帝国で暮らしていくうちに、お互いの絆は深まっていった。
そう、それには当然、水音と祈の事も含まれていて、共にハンター活動などをしていく内に、水音は祈が、自身に好意を持っている事に気付き始めたのだ。
そしてその事を意識していく内に、やがて水音も、祈に対して少しずつ好意を持ち始めるようになったのだ。
そして現在、その事をエレクトラに指摘された水音は、
「……本当に、僕達でよろしいのですか? こんな僕達なんかで」
と、恐る恐るエレクトラにそう尋ねると、
「ああ、問題ないよ。お前達だからいいんだ」
と、エレクトラはそう答えて、
「だから、頼む。一緒に寝てくれ」
と、改めて水音と祈にそう頼み込んだ。
その言葉に、水音は再びちらっと祈を見ると、
「(こくん)」
と、祈は笑って頷いたので、
「わかりました、エレクトラ様……」
と、水音がそう言うと、
「あと、私の事は『エレン』と呼んでくれ。敬語はなしだ」
とエレクトラがそう言ってきたので、
「……わかったよ、エレン」
と、水音は優しくそう言った。
その後、3人がどう過ごしたかについては……ご想像にお任せする。




