第64話 衝撃的な話・3
「ギデオンを破ったの者の名は雪村春風。固有職能『見習い賢者』の固有職保持者だそうだ」
「……何だと?」
(……え? 春風?)
ウィルフレッドが告げたその名前を聞いて、ヴィンセントと水音は「信じられない!」と言わんばかりに目を見開いた。
いや、2人だけではない、キャロラインら皇族達や、進ら勇者達も、まさかの人物の名に目を大きく見開いていた。
それからすぐに、
「……おい、ウィルフ。それは一体何の冗談だ?」
と、ヴィンセントがそう尋ねると、
「信じられないと思う気持ちはわかるが、冗談ではない。ギデオン本人も、相手がそう名乗ったと報告している」
と、ウィルフレッドはかなり真剣な表情でそう答えた。
「え、待って、ギデオンまだ生きてんの?」
「何を勘違いしている? 重症は負ったが、彼も彼の部隊の隊員達も生きてるぞ」
「お、おう、そうか。『最強』は伊達じゃねぇって事か……」
と、ヴィンセントとウィルフレッドがそんな話をしている間、
(……春風が? 何だって?)
と、水音は未だウィルフレッドが何を言ってるのか理解出来ないでいると、
「水音君……」
と、水音の傍に立っている祈が、水音の服を軽く引っ張りながら声をかけてきたので、
「はっ!」
と、水音は漸く我に返った。
「ど、どうしたの祈さん?」
と、水音はちょっとだけ驚きながらも、祈の事を苗字ではなく名前で呼ぶと、
「水音君……大丈夫?」
と、祈が心配そうな表情でそう尋ねてきたので、
「……うん。もう大丈夫。ありがとう」
と、水音はにこっと笑ってそう答えた。
するとそこで、
「な、なぁ水音。『固有職保持者』って……」
と、進が恐る恐るそう言ったので、
「うん。五神教会……いや、人々から『悪魔』と恐れられてる存在だ」
と、水音はこくりと頷きながらそう返した。
その言葉が聞こえたのか、
「む、水音殿達よ。もしや、其方達はもう……」
と、ウィルフレッドが尋ねるようにそう言ってきたので、
「はい。ここにいる全員、『固有職能』の事も、それを持つ『固有職保持者』の事も知ってます」
と、水音は真っ直ぐウィルフレッドを見てそう答えた。水音だけではない、進達も真っ直ぐウィルフレッドを見つめた。
実は水音達が帝城内の資料室で勉強している最中、偶然にも「固有職能」と「固有職保持者」について記された資料を発見していたのだ。
当然、その中には「最初の固有職保持者」である「賢者」についても記されていた。
水音達はその事をウィルフレッドに話すと、
「そうか。知ってしまったのだな」
と、ウィルフレッドは表情を暗くすると、
「騙していて、本当にすまなかった」
と、水音達に向かって深々と頭を下げて謝罪した。
その謝罪に対して水音は、
「ウィルフレッド陛下、顔を上げてください。あなたの立場を考えれば、『固有職能』の事を隠さなければならない理由も理解出来ますから」
と言うと、最後に「お気になさらないでください」と付け加えた。そして水音の横では、進達も「うんうん、気にすんな」と言わんばかりに頷いていた。
そんな水音達を見て、ウィルフレッドは小さく「そうか……」と言うと、
「ありがとう」
と、お礼を言った。
因みに、そんなウィルフレッドの近くで、
「ううぅ。桜庭達、少し見ない間に立派に成長して……」
と、担任教師の爽子が感動の涙を浮かべていた。
まぁ、それはスルーするとして、
「しっかし、『見習い賢者』かぁ。『賢者』だけなら『始まりの悪魔』と同じような存在だと思うんだが、『見習い』ってのは一体どういう意味なんだろうなぁ」
と、ヴィンセントが「意味がわからん!」と言わんばかりに「うーん」と唸っていると、
「うむ。ギデオンの報告によると、『力に目覚めたばかりに未熟な見習い賢者だ』と本人がそう名乗ったという」
と、ウィルフレッドがそう言ったので、
「おいおい、何だよ『未熟』って? なんか嘘くせぇなぁ……」
と、ヴィンセントが呆れたようにそう返した。そして傍で聞いていた水音達も、
『え、えぇ?』
と、皆、「ま、まじで?」と言わんばかりの表情で首を傾げた。
するとそこへ、
「陛下、ちょっと表情がだらしないですよぉ」
と、キャロラインがそう注意してきたので、ヴィンセントは「む?」となった後、
「……そうだな。ここからは、真面目になりますか」
と、小さく呟いた。
その瞬間、執務室がしんと静まり返ると、
「ウィルフレッド、詳しい話を聞かせろ」
と、ヴィンセントはウィルフレッドをニックネームではなく本名で呼びながらそう言ってきたので、ウィルフレッドは無言でこくりと頷き、
「事の始まりは……」
と、ヴィンセントや水音達に、ギデオン・シンクレアの「報告」について詳しく話した。
まことに勝手ながら、本編第2部第3章第74話の一部の文章を修正させてもらいました。
本当にすみません。




