第52話 「鍛治師」の少女ブレンダ
エレクトラと「ブレンダ」と呼ばれていた少女のじゃれ合い(?)の後、水音達は一軒家の中へと通された。
レクシー曰く、この一軒家はブレンダの家兼仕事場で、彼女はここで「鍛治師」として生活しているという。といっても、主な仕事は特別なもの以外は、帝都の住人から持ち込まれた壊れた道具の修繕か、他の鍛治師のちょっとしたお手伝いみたいなものだが。
それはさておき、家自体は大きい方で、手入れが行き届いているのか中はとても綺麗だった。そして現在水音達は、家の中にある客間のような広い部屋で、家主であるブレンダが来るのを待っていた。その理由は、
「ひと仕事終えたばっかだから、ちょっと体洗ってくる」
だそうだ。
因みに、
「あ、じゃあ私も行くぞ!」
と、何故かエレクトラもブレンダについて行こうとしたが、
「テメェは来るな!」
「行けません!」
と、ブレンダとレクシーに止まられてしまい、エレクトラは今、客間にある椅子の1つにロープで縛り付けられて、
「うぅ……ブレンダァ……」
と、目をうるうるとさせていた。
そんな彼女を見て、
『はぁ……』
と、水音達が溜め息を吐いていると、客間の扉が開かれて、
「待たせたな」
と、さっぱりした様子のブレンダが、何やら白い布に包まれた長い棒のようなものを持って入ってきたので、それを見たエレクトラは、
「おお、それは!?」
と、先程まで目をうるうるさせた表情から一気に明るくなった。
そのあまりの変わりように思わず水音達はびくっとなると、
「ほらよ、約束のもんだ」
と、ブレンダは「やれやれ……」と言わんばかりの表情でその棒のようなものをエレクトラに見せると、
「ふん!」
と、エレクトラはそう力んで自身を縛るロープを千切るように外し、素早い動きでその棒のようなものをブレンダから受け取ると、包んでいた白い布をばっと剥がした。
それは、飾り気のないシンプルな見た目の槍だった。
いや、穂先は普通の槍よりも多少大きくて長く、「突く」だけじゃなく「斬る」事も出来そうで、おまけに付け根あたりに青い宝石が嵌め込まれている為、全く飾り気がないという訳ではないが。
とにかく、ブレンダから受け取ったその槍を見て、
「会いたかったぞぉ、我が相棒よ!」
と、まるで愛しいものを見るような表情になってるエレクトラを前に、ブレンダは再び「やれやれ……」と言わんばかりの表情になると、
「さてと……」
と、水音達の方を見て、
「レクシー。彼らがそうかい?」
と、水音達の隣にいるレクシーに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「ええ。こちらにいる水音様達が、異世界から召喚された『勇者』達よ」
と、レクシーは真っ直ぐブレンダを見てそう答えた。
その答えにブレンダが「ふーん」と返事すると、
「自己紹介が遅れたな。あたしはブレンダ・カーター。ここで一応『鍛治師』として暮らしている。よろしくな。口調については……悪いが、あたしはいつもこんな感じなんだ。そこは勘弁してくれるとありがたい」
と、水音達を見てそう自己紹介した。
それに対して、水音達もそれぞれブレンダに向かって自己紹介すると、
「あんたらの事は陛下から聞いている。で、確認してぇんだが、今日ここに来たのは、あんたらの『武器』を私に造ってほしいから……で、いいんだよな?」
と、ブレンダは未だにうっとりとしているエレクトラに向かってそう尋ねたので、
「ああ。ブレンダにしか出来ない事なんだ」
と、エレクトラは真面目な表情でそう答えた。
ブレンダはその答えを聞いて、
「はぁ……。そうかよ」
と、頭を掻きながら呟くと、
「あー、勇者さんとやら達、ちょっとあたしに『手』を見せてほしいんだが、いいかい? ああ、左右の『手』だからな、勿論」
と、水音達に向かってそうお願いしてきたので、水音達は「え?」と首を傾げながらも、自分達の両手をブレンダに見せた。
それから暫くすると、じぃっと勇者達の手を見たブレンダは、
「おいおい。一度も『武器』を持った事がねぇ手じゃんかよ……」
と、ぼそりとそう呟いたが、最後に水音の方に視線を移して、
「……ん?」
と、まるで怪しいものを見るかのように目を細めた。
そんなブレンダを見て、
「な、何ですか?」
と、水音が若干引き気味になっていると、ブレンダはそんな水音に構わずずかずかと近づいて、その顔……というよりも体全体をじぃっと見つめた。
「え、えぇ? 本当に何なんですか?」
突然の事に水音は頭上に大きな「?」を浮かべていると、
「水音っつったっけ?」
と、ブレンダが顔近づけながらそう尋ねてきたので、
「は、はい……そうですが」
と、水音がそう答えると、ブレンダは更に目を細めて、
「あんた……体に何か飼ってるだろ?」
と、更にそう尋ねてきた。
突然の質問に、水音は一瞬「何を言ってんですか?」と尋ね返しそうになったが、
「……」
無言で自分を見つめてくるブレンダを見て、水音は尋ね返すのやめた。
すると、隣に座っている進が、水音の腕を肘でつつきながら、
(な、なぁ桜庭。彼女もしかして……)
と、小声でそう話しかけてきたので、
(う、うん。多分、気づいてると思う)
と、水音も小声でそう返した。
水音は自身の事を話すべきか迷ったが、
「……」
それでも自分を見つめてくるブレンダを見て観念したのか、「はぁ……」と深く溜め息を吐いて、
「わかりました。信じてくれるか自信ありませんが、僕……いえ、僕達『桜庭家』の人間についてお話しします」
と言うと、ブレンダだけでなくエレクトラとレクシー、そして他のクラスメイト達を見回しながら、自身親族についての説明を始めた。