第50話 「勇者」達、「ハンター」になる・3
「さ、ここだよ。みんな入んな」
と、ギルドマスターのマチルダにそう言われて、水音達が入ったのは、大きな楕円形のテーブルと、それを囲うように置かれた幾つかの椅子がある広い部屋だった。マチルダ曰く、そこはマチルダをはじめとしたギルド職員が「会議」に使う為の部屋で、普段は使われる事がないそうだ。
その後、「座りな」とマチルダに促され、水音達がテーブルの周りに配置された椅子に座ると、
「こちらをどうぞ」
と、ライリーが水音達の前に幾つかの書類を差し出したので、
「あのぉ、これって何ですか?」
と、耕が恐る恐る手を上げながらそう尋ねると、
「ん? ああ、そいつは『ハンター』になる為の心得とかを記したものと、新規登録の為の書類だよ。最後まで目を通したら、そこに自分達の『名前』と『職能』を書くんだ」
と、マチルダはそう答えた後、最後に「いいね?」を付け加えた。
その言葉に水音達は「わかりました」と納得した後、出された書類を隅から隅まで読み、最後の書類に自分達の名前を職能を記した。
桜庭水音、職能「神闘士」。
近道進、職能「瞬剣士」。
遠畑耕、職能「地導師」。
出雲祭、職能「剛弓士」。
晴山絆、職能「滅拳士」。
時雨祈、職能「司祭」。
そして、それぞれが書いたその書類をマチルダに提出し、マチルダが「どれどれ……」とその書類を見ると、
「ほぅ、流石は神に選ばれた『勇者』様だね。全員上位の職能ばかりじゃないか」
と、マチルダはにやりと笑いながらそう言ったので、
『いやぁ、どうもどうも』
と、水音達は照れくさそうに顔を真っ赤にした。
その後、マチルダとライリーはその書類を持って、
「すぐに戻るから、ちょっと待っててな」
と言って、2人共部屋から出ていった。
それから暫くすると、
「みんな待たせたね!」
と、マチルダが部屋の扉をばぁんと力強く開けて、ライリーと共に中に入ると、懐から「何か」を取り出して、
「はいよ」
と、水音達の目の前にその「何か」を並べた。
それは、6枚のカードのようなもので、その一枚一枚には水音達の名前と職能が記されていたので、
「これは……一体?」
と、水音がマチルダに向かって恐る恐るそう尋ねると、
「決まってんだろ、あんた達の分の、ハンターの証『ギルドカード』さ」
と、マチルダは水音に向かってそう答えた。
その答えに水音達が「おぉ!」と、そのギルドカードを見て嬉しそうに目を輝かせた。
そんな水音達を、エレクトラ、レクシー、マチルダ、そしてライリーの4人は暖かい目で見ていた。
その後、マチルダとライリーは水音達に「ハンター」について改めて説明を始めた。そして最後に、
「……とまぁ、これで『ハンター』についての説明は終わりだよ」
と、付け加えて、最後に、
「それじゃあみんな、何か質問とかあるかい?」
と、尋ねてきたので、進達が「え? えっと……」と何を聞けばいいか考えていると、
「あの、すみません。ちょっと個人的な質問なんですけど……」
と、水音が「はい」と手を上げながら尋ね返したので、
「ん? 何だい?」
と、マチルダが首を傾げると、
「その……登録している『ハンター』の中に、『レナ・ヒューズ』と『雪村春風』という人物はいませんか?」
と、水音は真っ直ぐマチルダを見てそう尋ねた。
その視線に何やらただならぬものを感じたのか、マチルダはちらっとライリーに視線を向けると、
「わかりました、すぐに確認してきます」
と、ライリーはそう言って部屋を出ていった。
暫くして、
「失礼します」
と、ライリーが戻って来ると、水音達を見て、
「すみません、調べてみた結果、『レナ・ヒューズ』の名前はありましたが、『雪村春風』の方は名前がありませんでした」
と、最後に水音達に向かって「すみません」と深々と改めてそう謝罪してきたので、
「そう……ですか」
と、水音はがくりと肩を落とした。
その後進達は水音を励ましながらも、ハンターについての質問をしていった。
そして更に暫くすると、
「じゃあみんな、明日からよろしくな!」
『ありがとうございました!』
と、お互いそう言い合うと、水音達はギルドを後にした。
余談ではあるが、実は水音達が「ハンター」になったのと同じ頃、別の都市で1人の少年も「ハンター」になったのだが、この時の水音達は勿論、マチルダやライリーも知らなかった。