第4話 「勇者」達の中心グループ
今回はいつもより短めの話になります。
「良いじゃないですか、先生」
と、爽子に向かってそう言ったのは、クラスメイトの1人である薄い茶髪のイケメン顔の少年だった。
その言葉を聞いて、
「ま、正中?」
と、爽子は驚いたように目を大きく見開き、爽子に続くように、
(正中……君?)
と、水音は心の中で「正中君」と呼んだその少年をジッと見つめながら、彼について思い出し始めた。
彼の名は、正中純輝。
水音のクラスメイトの1人で、6人いるクラスの中心グループのリーダー的存在だ。
去年(高校1年生の時)一緒のクラスだったので、多少ではあるが水音は彼の事を知っていた。
成績は優秀、スポーツも出来る方で、教師達から高い評価を受けていて、イケメンであるが故に女子に結構モテていてるが、反対に同じクラスの男子達からは尊敬と妬みが入り混じったかのような視線を受けていた。
ただ、彼にはとある「よくない噂」があるというのだが、本当かどうかは定かではない。
水音自身も、クラスの事や学校行事以外ではなるべく純輝に関わらないようにしていたので、そんな噂があると言われても、
「ふーん。ま、どうでもいいけど」
と、特に気にならなかった。
因みに、この「よくない噂」については何かの形で語る予定なので、今は伏せておこう。
それから2年に上がってまた彼ーー以降は純輝と呼ぶ事にしよう。とにかく、また純輝と同じクラスになって暫くすると、彼の周りには、ナンバー2の裏見切人に、東谷龍護、西町白穂、江南朱翼、宮北玄次と、純輝と似たような感じの少年少女が集まって、いつしかクラスは彼らが中心となっていた。
そして今、水音と同じく「勇者」として召喚された純輝ら6人の中心グループは、爽子の傍に集まった。
「ど、どうしたんだ正中? それに、『良い』とはどういう意味なんだ?」
と、困惑している様子の爽子が、純輝に向かってそう尋ねると、純輝は「ふふ」と笑って、
「そのままの意味ですよ。さっきまで国王様が言ってたように、この世界は滅亡の危機に陥っていて、どうにか出来るのは『勇者』である僕達しかいない。だったら、力を貸すのは当然じゃないですか?」
と、純輝はまるで小馬鹿にしたような感じでそう答えた。
その答えを聞いて、
(いや、正中君。君は一体何を言ってるんだ?)
と、水音がそう疑問に思っている中、爽子は「な、何を言って……!」と、純輝を問い詰めようとしたが、2人の間に立つように、5人の中心グループのメンバー達が割り込んできて、ジッと爽子を見つめてきた。
そんな彼らを、
(ちょ、ちょっと裏見君達まで何してるんだ!?)
と、水音は内心ハラハラした様子で見ている中、純輝はメンバー達に「ありがとう」とお礼を言うと、今度は水音を含めたクラスメイト達向かって、
「みんな、大丈夫だよ。僕達はこの世界の神々に選ばれた『勇者』で、その神々から『力』を授かったんだ。今は知らない事とかわからない事とかが多いけど、頑張って強くなって、みんなで力を合わせて、一緒にこの世界を救おうじゃないか!」
と、声高々にそう言った。
その言葉を聞いて、爽子が「ちょっと待て……!」と止めようとしたが、
「……そ、そうか。そうだよな」
「う、うん、私達なら出来るよね?」
「こ、怖いけど、頑張れる……かも」
と、一部のクラスメイト達は怯えた様子から一変してだんだんやる気に満ち溢れ出した。
そして、
(……『選ばれた勇者』、か)
水音も純輝の言葉を聞いて、
(何言ってんだこいつ?)
と、最初はそう思ってたが、クラスメイト達と同様に、
(うん、良いかもしれない)
と、思い始めた。
(ここで『勇者』として頑張れば、少しは『あの記憶』に苦しめられる事はなくなるかもしれない)
そう考えた水音の脳裏に浮かんだのは、とある過去の「記憶」だった。
それは、今も水音を苦しめている、絶対に忘れる事が出来ない忌まわしい「記憶」で、この世界で「勇者」として頑張れば、その「記憶」に負けない強い意思を持てるようになるんじゃないのかと水音は考えた。
その後、
「おお! それでは其方達は、この世界を救ってくれるのだな!?」
と、表情を明るくしたウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「ま、待ってくださ……!」
と、爽子が「待った」を、
「はい、もちろ……!」
と、純輝が「OK」を出そうとした。
そして、
(あ、そうだ。春風はどう思ってるんだろ……)
と、水音はハッとなって春風の方へと振り向こうとした、まさにその時、
「あのぉ」
という声が上がったので、ウィルフレッド、爽子、純輝、水音、そしてクラスメイト達や周囲の人達が、
『え?』
と、皆、頭上に「?」を浮かべながら一斉にその声がした方へと振り向くと、
(え? 春……風?)
と、水音が大きく目を見開いたように、
「ちょっとよろしいでしょうか?」
(春風……なんで眼鏡を外してるんだ?)
そこには、「はい」と手を上げている、分厚い眼鏡を外した素顔の春風がいた。
どうも、ハヤテです。
というわけで、今回の話は、本編で語られなかった正中らクラスの中心グループについて語らせてもらいました。