第183話 もう2つのランクアップ
「……あれ?」
(ん? どうしたんだ春風?)
ランクアップした自身のステータスを確認し終えた春風が急にそんな声を出したので、
「ん? 春風、どうしたの?」
と、レナがそう尋ねると、
「ぐ、グラシアさんがいない!」
と、春風は慌てた様子でそう答えた。
それを聞いて、水音が「え?」となると、
(……あ! そういえば確かにグラシアさんがいない!)
と、改めて春風の周りを見てハッとその存在を思い出した。
その後、
「ぐ、グラシアさーん!」
と、春風と一緒にグラシアを探すレナがそう叫ぶと、
「ここですよ」
と、2人の背後でそう声が聞こえたので、
(よ、良かった、グラシアさんが見つかった……)
と、ハッとなった水音が2人の背後を見ると、
(え? グラシアさん?)
そこには確かにグラシア本人がいたが、雰囲気が春風がランクアップする前と何処か違うように感じたので、
「えっと……何かあったんですかグラシアさん?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、グラシアは気まずそうな表情になって、
「あーその……どうやら、私もランクアップしたみたいです」
と答えると、最後に「はは……」と苦笑いした。
それを聞いて、春風やレナだけでなく水音達までもが、
『……はい?』
と、一斉に首を傾げると、アマテラスが「ちょっと失礼」と言ってグラシアの前に立ち、彼女をジィッと見つめると、
「驚いたわね。あなた『精霊』になってるじゃない」
と、目を大きく見開きながらそう言ったので、それを聞いて、
(……は? な、何だって?)
と、水音達が「え?」とポカンとしていると、
「はい、この度私、グラシア・ブルームは、『幽霊』から『精霊』にランクアップしました」
と、グラシアはニコッと笑いながら、水音達に向かってそう言った。
その後、
「あ、あの、コレってつまり、俺の所為で一緒にランクアップしちゃったって事で良いんでしょうか?」
と、春風が再び恐る恐るそう尋ねると、
「うーん、そうなるんでしょうが、コレは私の意志で決めた事の結果ですから、春風様は何も気にしなくて良いですよ」
と、グラシアは優しくそう答えたが、それでも春風は申し訳なさそうな表情をしているので、
「もしかして、こんな私はお嫌いですか?」
と、グラシアは悲しそうな表情でそう尋ねてきた。
その質問に対して、
「いいえ、そんな事はありません! 寧ろ、幽霊の時よりも存在感ありまくりですし、結構美人になったと思います!」
と、春風は真顔でそう即答し、それに続くように、
(うん! 確かにそうですね!)
と、水音をはじめとしたその場にいる男子・男性陣も「うんうん!」と力強く頷いた。
因みに、そんな水音達を、レナや祈達女子・女性陣がジト目で見ていた。
すると、グラシアは顔を赤くしながら、
「ふふふ、ありがとうございます。ですが、春風様だって随分と立派なお姿になってますよ」
と、春風に向かってそう言ってきたので、その言葉を聞いた春風が「え?」と自身の格好を見ると、
「あ、本当だ! 確かに服装が変わってる!」
と、大きく目を見開きながら驚いたので、
『いや、今頃気付いたのかよ!?』
と、水音を含めた周囲の人達はそうツッコミを入れた。
その時だ。
「あれ!? ない!」
と、自分の姿を確認した春風が、何かに気付いたようにハッとなったので、
「え、は、春風、どうしたの?」
と、水音が恐る恐るそう尋ねると、
「ない! 彼岸花がない!」
と春風は焦った様子でそう答えたので、水音は改めて春風を見て、
「あれ? そういえば……」
と呟くと、
「師匠。あの刀、春風から受け取ったりしてませんか?」
と、凛咲に向かってそう尋ねた。
それを聞いて、凛咲は「あーそれなら……」と返事すると、
「ハニー、大丈夫よ。彼岸花なら、そこにあるじゃない」
と、春風の腰のホルダーに入ってる杖を指差しながらそう答えた。
その言葉を聞いて、水音は「え?」とポカンとなり、春風は「まさか……」と思って杖を手に取って調べ出すと、
「……ん?」
と、杖について銀の装飾が気になったのかそれを指でいじり出した。
すると、装飾がカチリと外れて、その後すぐに杖の握りと柄が外れたので、「もしや!」と思った春風がその握りを思いっきり引っ張った次の瞬間、春風の黒髪が真っ赤に染まりながら長く伸び、右目が真紅の炎に包まれた。
それ見て、周囲の人達は「あ!」と目を大きく見開き、
「やっぱり!」
と、春風はニヤリと笑った。
握りの先にあるもの。それは、真紅に輝く真っ直ぐな片刃造りの刀身だった。
禍々しい雰囲気を持つその刀身を見て、
「なんだよ。彼岸花までランクアップしちゃったのかよ」
と、春風はそう言うと、最後に「はは……」と笑った。
そんな春風を見て、
(うーん。春風のランクアップに巻き込まれて、グラシアさんだけじゃなく彼岸花までランクアップしちゃったのか)
と、水音は心の中でそう呟いたが、
「いや春風! 『はは……』って笑ってないで、それしまってしまって!」
と、すぐにハッとなって、春風に向かってそう怒鳴った。