第181話 ランクアップ・2
「俺は、ランクアップします!」
そう言って、ウインドウ画面に記された「はい」に手を触れた春風。
その瞬間、そこから溢れ出てきた黒いエネルギーに、彼は助けに入ったグラシアと共に包まれてしまった。
そして現在、残された水音達の目の前には、その春風とグラシアを包み込んだ黒いエネルギーが変化した黒い球体がある。
大きな卵を思わせるその黒い球体に向かって、
「は、春風ぁ! 春風ぁあああ!」
「春風ぁ! グラシアさーん!」
「フーちゃあああああん!」
「春風くーん!」
「ハニー!」
と、水音、レナ、歩夢、美羽、そして凛咲が必死になって叫んでいた。
いや、水音達だけではない。
「ゆ、雪村!雪村ぁあああああ!」
「先生! 気持ちはわかります! でも落ち着いてください!」
「いや、これ、落ち着けってのが無理だろ!?」
「ど、ど、どうすれば良いんだぁ!?」
「割るか?」
「いや、『割るか?』じゃないから!」
と、爽子とクラスメイト達や、
「あ、アニキ! アニキィイイイイイ!」
「ハル兄ぃ! グラシアさーん!」
「兄さん! 兄さぁあああん!」
「え、エステル、落ち着いて、ディックにピートも!」
と、ディック、ピート、エステル、アメリアの4人、
「お、お、オイオイオイ! コレ、大丈夫なのか!? なんかヤベェんじゃねぇのか、ウィルフ!?」
「わ、わからない! 私もこんなのは初めてだ!」
「は、は、春風ちゃーん!」
「お、お、落ち着いてください母上!」
「う、うん! 落ち着いて……!」
「春風様ぁー!」
と、更には王族、皇族達までもが、春風とグラシアを包み込んだ黒い球体を前に慌てふためいていた。
その時だ。
「ハイハイ! みんな、取り敢えず落ち着こうね!」
と、アマテラスが手をパンパンと叩きながらそう言ったので、それを聞いた水音達はハッとなって気持ちを落ち着かせようと深呼吸した。
その後、全員が落ち着いたのを確認すると、アマテラス、ツクヨミ、スサノオ、そしてループスとヘリアテスは、それぞれ黒い球体を調べ始めた。
暫くすると、アマテラス達が黒い球体から離れたので、
「あ、あの、春風は……どうなってしまったんですか?」
と、水音が恐る恐るアマテラスに向かってそう尋ねると、
「大丈夫、2人共無事よ」
と、アマテラスはニコッと笑いながらそう答えたので、
『よ、良かったぁ』
と、水音達はホッと胸を撫で下ろした。
それからすぐに、
「あの、アマテラス様。これって一体何なのですか?」
と、今度は爽子がそう尋ねてきたので、
「結論から言うと、これは見た目が『卵』っぽいけど、『卵』というより『繭』と言った方が良いわね」
と、アマテラスは『繭』と呼んだ黒い球体を見てそう答えた。
その答えを聞いて、
「ま、繭……ですか? もしかして、春風はこの中でランクアップをしている……という事なのですか?」
と、水音が更にそう尋ねると、
「ええ、そういう事ね。その証拠に、中で2人の反応が少しずつ大きくなっていくのを感じたから、このぶんだと、案外すぐに終わるかも……」
と、アマテラスは黒い球体を見て目を細めながらそう推測すると、ピシッと音を立てて黒い球体が割れ始めたので、
『あ!』
と、水音達がそれを見て目を大きく見開くと、黒い球体はどんどん割れていき、やがて白い光の粒となって消え、その中から1つの人影が現れたので、それを見た水音達は、
「は、春風ぁ!」
と、皆、一斉にその人影……否、春風に向かって駆け出した。
そして、
(あれ? なんか、服装が微妙に変わってる?)
と、水音はジィッと春風を見つめながらそう疑問に思った。
確かに、水音の言うように、黒い球体から出た春風の姿は、ランクアップ前比べて少し変わっていた。
青いローブと黒いズボン、革製のグローブとブーツ、そして頭のゴーグルには銀で出来た装飾が各所に施されていて、それらには赤、青、緑、オレンジ、黄色、紫の宝石が付いている。
左腕装着された銀の籠手も、ループスとの戦い前までは多少ゴツい見た目だったが、今はスッキリした感じの見た目になっていた。
そして最後に腰のベルトには、革製の小さなポーチと春風の武器である杖が入っている革製のホルダーが付いていた。
そんな春風の今の姿を見て、
(もしかして、コレもランクアップの影響なのかな?)
と、水音がそう疑問に思っていると、
「春風! 春風ぁ!」
と、レナがそう春風に声をかけたので、
「ふえ!?」
と、春風はハッと目を覚ました。
ただ、それまで意識がなかったのか、その目は何処か虚ろな感じだった。
その後、
「あのー……どうしたんですか皆さん?」
と、漸く意識がハッキリしてきた春風が、周囲を見回しながら恐る恐るそう尋ねると、その質問に、
(……あ?)
と、水音はピキッとなったのか、
「『どうしたんですか?』じゃないだろ! 春風がいきなり変な黒いものに包まれたんだから、みんな心配してたんだよ!」
と、顔を真っ赤にしながら、春風に向かってそう怒鳴った。
そして、そんな水音に続くように、歩夢やレナといった他の人達も、
『うんうん!』
と、力強く頷いた。
それを見て、春風は「ああそうだったんだ」と状況を理解したのか、
「皆さん、心配かけてすみませんでした!」
と、深々と頭を下げて謝罪し、それを見た水音は、
(全く、本当に心配したんだからな)
と、心の中で呆れつつ、再びホッと胸を撫で下ろした。




