第177話 救出後
ラディウス達を退け、水音達を助け出した春風。
しかしその後、彼はは苦しそうに悲鳴をあげながら、その場に片膝をついていた。
それを見て、
(ああ、春風。あんなに苦しそうに……!)
と、水音は仲間達と共に春風に駆け寄りながら、悲しみと悔しさに満ちた表情になった。
それから間もなくして、
「し、師匠……」
「大丈夫、私も手伝うから」
と、春風は凛咲と共に彼岸花を鞘に納めた。
すると、春風の右目の炎が消え、伸びていた真紅の髪も、元の長さに戻り、色も真紅から本来の黒に戻った。
(ああ、春風の姿が元に戻っていく……じゃなくて!)
その時には水音達も春風の傍まで来ていて、
「春風、大丈夫!?」
と、水音は慌てた様子で春風にそう尋ねると、
「あー、俺は大丈夫。それより、水音達は平気なの?」
と、春風にそう尋ね返されてしまった。
その質問を聞いて、
(『それより』? 『それより』だって!?)
と、水音はカチンと来たのか、春風の両肩を掴んで、
「どうして……どうして彼岸花を抜いたんだよ!? 『やめろ』って言ったのに!」
と、怒鳴りながら問い詰めた。
そのあまりの剣幕に、
「ごめん……」
と、春風が申し訳なさそうに謝罪すると、
「お、オイ落ち着けよ水音」
「そうだよ、春風君のおかげで僕達は助かったんだから……」
と、進と耕が「どーどー……」と水音を宥め始めたので、その言葉に水音はハッとなると、それ以上何も言わなくなったが、
(わかってる……わかってるよ。でも……)
それでも、水音の顔から悔しさが消える事はなかった。
すると、
「っ! そうだ、ループス様達!」
と、春風は思い出したかのようにハッとなってループスとヘリアテスを見たので、それにつられるように水音も、
(あ、そういえば!)
と、一緒にループス達に視線を向けると、
(ああ! 凄いグッタリしているぅ!)
2柱ともグッタリしていたので、
「お、お父さん! お母さん!」
と、レナはすぐに2柱のもとへと駆け出し、水音達もその後を追った。
「お父さん! お母さん! 大丈夫!?」
と、レナが2柱に向かってそう尋ねると、
「うぅ……レナ、私は大丈夫。でも、ループスが……」
と、ヘリアテスはチラッとループスを見ながらそう答えたので、
「まさか! お父さん! お父さぁん!」
と、レナは顔を真っ青にしながら、何度もループスに声をかけた。
すると、
「……れ……レナ」
と、ループスが弱々しくそう返事したので、
「お父さん! しっかりして!」
「ループス様!」
と、レナと春風は必死にループスに声をかけた。
そんな2人を見て、
「な、なぁ水音。これ、ヤバくないか?」
と、進が小声で水音にそう尋ねると、
「わかんない……わかんないよ」
と、水音は暗い表情でループスを見ながらそう答えた。
その時。
ーーパキッ!
(あ!)
突然、ループスの体にヒビが入ったのだ。それも、全身にである。
それを見て、
「な、何これ!?」
と、レナが驚いていると、
「どう……やら……限界のようだ」
と、ループスは弱々しい口調のままそう答えたので、
(え……『限界』って?)
と、水音がその言葉を理解出来ないでいると、
「私達が閉じ込められていた間、ループスはずっと、私を守ってたんです」
と、ヘリアテスは悲しみに満ちた表情でそう答えたので、
(え? それって、まさか!)
と、水音が思い出したかのようにハッとなると、
「ちょ、ちょっと待ってよ。お父さん、春風達との戦いのダメージがまだ残ってたんだよ!?」
と、レナは顔を真っ青にしながらそう言ったので、
「……あはは」
と、ループスはそう苦笑いしながら、レナからフイッと視線をずらした。
その様子を見て、
「そ、そんな……!」
と、春風も顔を真っ青にし、
「オイ水音! これ、マジでヤベェんじゃねぇのか!?」
「ど、どうしよう! ねぇ、どうしよう!」
と、進だけじゃなく耕までもが小声で水音にそう話しかけたが、
(そ、そんなの……僕だってわかんないよう!)
と、水音も顔を真っ青にするだけで、2人の問いに答える事はなかった。