第176話 救出
「俺に力を貸せ! 彼岸花ぁ!」
そう叫んで、春風はその日本刀ーー彼岸花を抜いた。
その瞬間、春風の全身を赤いエネルギーが包み込み、
「うあああああああっ!」
と、春風は苦痛に満ちた叫びをあげた。
それを見て、
(あ、ああ……春風)
と、水音が悲痛に満ちた表情を浮かべていると、春風を包んでいた赤いエネルギーが、ボンッと大きな音を立てて弾けた。
それ見て水音をはじめとした周囲の人達が視線を逸らし、その後ゆっくりと春風が立っていた場所を見ると、
「……春風……なの?」
と、レナそう呟いたように、そこにいたのは、変貌した春風だった。
空のように青いローブを纏い、手には禍々しいオーラを放つ真紅刀身を持つその日本刀、彼岸花を握る姿は間違いなく春風なのだが、その髪は腰まで長く伸びているだけでなく色も彼岸花の刀身と同じく真紅に染まっていた。これだけでも驚きなのだが、何よりも特徴的なのは、春風の右目がボゥッと彼岸花の刀身や長く伸びた髪と同じ真紅の炎に包まれていたのだ。
そんな春風の姿を見て、
(お、同じだ……あの時と)
と、水音は変貌した春風を初めて見たあの日の事を思い出して、再び悲痛に満ちた表情を浮かべた。
そんな水音を前に、変貌した春風は彼岸花を構えると、
「さぁ行こう、彼岸花。俺達で、みんなを助ける!」
と、真っ直ぐ水音達を見てそう言った。
そして、彼岸花をグッと握り締めて力を込めると、素早く水音達やループス達を包むドームに近づいて、その彼岸花を振るった。
次の瞬間、バリィンッとドームにヒビが入り、
「うぎゃあああああっ!」
「いやあああああああ!」
と、カリドゥスとアムニスの悲鳴が響き渡った。当然、ラディウス、ワポル、カウムも苦しそうな表情を浮かべていた。
そんな中、水音はというと、
(ああ、アイツら凄く苦しんでる……)
と、ラディウス達をチラリと見た後、すぐに顔を下に向けて、
「ザマァ見ろ」
と、小さく呟いた。
それからも春風は、苦しむラディウス達を無視して、
「でりゃあああああっ!」
と、何度も彼岸花を振るってドームを斬りつけ、幾つもの斬撃痕を刻みつけた。
そして、春風は一旦ドームから少し下がると、再び彼岸花に力を込めて、
「これで、終わりだぁあああああああ!」
と、ドームに向かって駆け出しながらそう叫び、力いっぱい彼岸花を振るった。
その瞬間、ドームがバリィインと大きな音を立てて砕け散り、
「「「うぐあああああああっ!」」」
「「ああああああああああっ!」」
ラディウス達の悲鳴が響き渡った。
それと同時に、
(ああ、変なドームが消えていく……)
と、水音は苦痛から解放されたかのよう感覚に陥った。
そして、アマテラスは水音達を苦しめたドームが完全に消滅したのを確認すると、
「さぁ、おチビちゃん達の『力』を返してもらうわ!」
と、苦しむラディウス達に向かって手を伸ばしたが、
「チィ!」
と、ラディウスは「させるか!」と言わんばかりに自身の体を発光させたので、
「うわ! 悪あがきを……!」
と、あまりの眩しさにアマテラスだけでなくツクヨミとスサノオ、そして、
(ま、眩しい!)
水音達までもが、腕で自身の顔を覆った。
それから少しすると光が弱まったので、アマテラス達や水音達はゆっくりと腕を顔から離して、ラディウス達がいた場所に視線を向けると、そこには既にラディウス達の姿がなかったので、
(あ、アイツらがいない!)
と、水音は目を大きく見開き、
「く、逃したか」
と、アマテラスは悔しそうな表情を浮かべた。
そんなアマテラスを他所に、
(お、終わったんだ……)
と、水音は全部が終わった事に安心したのか、その場にへたり込もうとしたが、
「う……あ……あああああっ!」
と、春風の悲鳴が聞こえたので、
「あ、春風!」
と、ハッとなった水音はどうにかその場に踏ん張ると、すぐに春風に視線を向けた。
そこには、苦しそうに地面に片膝を突く春風の姿があり、よく見ると手に持っている彼岸花からバチバチと真っ赤な稲妻のような光が出ていたので、
(まずい!)
「は、春風!」
と、危険を感じた水音は急いで春風の元へと駆け出した。
本日はこの後、皆様に活動報告があります。