第173話 絶体絶命からの……・2
「春風ぁあああああっ!」
水音から引き剥がされるように吹っ飛ばされた春風を見て、レナはそう悲鳴をあげた。
その悲鳴を聞いて、
「れ、レナさん……」
と、水音がゆっくりとレナに視線を向けると、
「ガアアアアアアアッ!」
と、レナはまるで獣のようにそう叫び、その場から動き出したので、
(あ、レナさんも動けるように……!)
と、水音は大きく目を見開いた。
その後、
「[獣化]!」
と、レナはギロリとラディウス達を睨みながらそう叫ぶと、白い狐の獣人へと変身し、
「死ねぇえええええっ!」
と、彼らに飛びかかった。
そして、その鋭い爪でラディウスに攻撃を仕掛けたが、
「無駄だ」
「っ!?」
(え!?)
なんと、その攻撃はラディウスの体を通り抜けるだけで、彼にダメージを与える事はなかった。
(な、何だ? 攻撃が……通り抜けた?)
目の前で起きた出来事に、水音が再び目を大きく見開く中、地面に降りたレナは、再びラディウス達を睨みながら、
「なら、これでどうだぁ!」
と叫ぶと、自身の両手から真っ赤に燃え盛る炎を出した。
そして、それを槍の形に変えると、
「くらえ、『爆炎轟槍』!」
と、レナはそう叫んで、その炎の槍を何度もラディウス達に向かって投げたが、
「無駄だと言った筈だ」
その全てが先程と同じようにラディウス達の体を通り抜けるだけに終わった。
それを見て、
「ううううう……!」
と、レナは悔しそうに呻き、
(こ、コイツら、まさか『実体』じゃないのか? 立体映像みたいなものなのか!? だとしたら、どうすれば良いんだ!?」
と、水音はそう推測し、最後はレナと同じように悔しそうな表情をした。
そして、それは春風も同様で、彼も今、水音やレナと同じく悔しそうな表情を浮かべていた。
その時だ。
春風の左腕の籠手から、ジリリリという音がしたので、それに気付いた水音が「え?」と春風に視線を向けると、
「春風君、私達を呼んで」
(え? この声は……)
と、その籠手から聞き覚えのある若い女性の声がしたので、
「はい、わかりました!」
と、春風はその声に向かってそう即答した。
その後、春風は左腕の籠手……否、正確にはその内部に装着されたとあるものを空に翳すと、そのとあるものの上に1つの魔法陣が描かれて、そこから白いワイシャツと青いジーンズ姿の3人の男女が現れた。
といっても、その中の1人を見て、
「あ、アマテラス様」
と、レナがそう呟いたように、その中の1人……否、1柱は水音や春風の故郷「地球」の神の1柱であるアマテラスだった。
ただ、残る2人はというと、
(アマテラス様はわかるけど、後の2人は誰だ? 『地球』の神……なのか?)
と、水音がそう疑問に思ったように、格好はアマテラスと同じ白いワイシャツと青いジーンズ姿なのだが初めて見る人物だったので、
「あの、アマテラス様」
「何かしら春風君」
「無礼を承知でお尋ねしますが、そちらのお二方はどちら様でしょうか?」
と、春風はアマテラスに向かってそう尋ねると、
「はじめまして、私は月読命。日の本の『月』を司ってます。『ツクヨミ』と呼んで良いですよ」
と、アマテラスの隣に立つ、長い黒髪を1つに束ねた物静かな雰囲気をした男性が、穏やかな笑みを浮かべながらそう自己紹介し、それに続くように、
「俺は須佐之男命、『海』と『嵐』を司る者だ! 『スサノオ』って呼んでくれよな!」
と、同じくアマテラスの隣に立つ、春風や水音と同じ年頃くらいの、短い黒髪を持つちょっと乱暴そうな少年が、元気良さそうな口調でそう自己紹介した。
そんな2人……否、2柱の神々の自己紹介を聞いて、
(つ、月読命に須佐之男命だって!? どちらもアマテラス様と同じく日本を代表する神様じゃないか!)
と、水音が驚きに満ちた表情を浮かべる中、
「さてと……」
と、アマテラスがそう呟くと、月読命と須佐之男命……以下、ツクヨミとスサノオと共にラディウス達を睨みつけて、
「カリドゥスにアムニス、ワポルにカウム、そしてラディウスだったかしら? はじめまして、『地球』の神々です」
と、アマテラスはニコッと笑いながらそう挨拶(?)した。
それを聞いて、水音達は「あ、あれ?」と首を傾げたが、
「そんでもって。よくもやってくれたわね……この、紛いものどもが!」
と、それからすぐに、アマテラスはラディウス達に向かってそう怒鳴ったので、
(わぁあああああ! すっごく怒ってるぅううううう!)
と、それを聞いた水音は思いっきりビビりまくった。




