第172話 絶体絶命からの……
突如、水音達の前に現れたラディウス達の手によって苦しめられるループスとヘリアテス。
そしてそれは、2柱だけでなく、
「うあああ……!」
「ううう……」
「く、苦しい」
水音をはじめとした勇者達も同様で、彼らは今、ラディウス達に操られる形でループス達を封印しようとしている最中、彼らにつられるように苦しそうな表情になっていた。
(ううう。こ、こんなの……こんなの嫌なのに!)
と、水音はそう思いながら必死にラディウス達に抵抗しようとしていたが、体が思うように動かず、目の前で苦しむループス達を前に何も出来ない状況に、悔しそうな表情になった。
そして、
(ど、どうすれば……どうすれば良いんだ!?)
と、水音が心の中でそう呟いていると、
「ガアアアアアッツ!」
という叫び声が聞こえたので、
(え、な、何今の叫び声!?)
と、疑問に思った水音が思わず声がした方へと振り向くと、
「……あ、動けた」
(は、春風ぁ!?)
そこにいたのは、ラディウスらによって誰もが動けずにいる中、自由に動けるようになった春風だった。
そしてその瞬間、どうやら先程の叫び声が春風によるものだったと理解して、
(は、はは。相変わらずやってくれるよ春風)
と、水音は苦笑いを浮かべた。
その後、
「ループス様! ヘリアテス様! 今、お助けします!」
と、そう叫んだ春風に向かって、
「え、ちょっと、僕達は!?」
と、水音がそうツッコミを入れたが、それを無視した春風は自身の武器である杖を手に取ると、それに魔力を込め始めた。
そして、
「えい!」
と、春風はその杖で水音達やループス達を包む光のドームをぶっ叩いたが、
「はぁ、はぁ。全然、びくともしない」
幾ら叩いてもドームにダメージを与える事が出来ず、春風は辛そうに肩で息をしていた。
そんな春風に向かって、
「無駄だ。幾ら固有職保持者の貴様でも、我々と勇者達を止める事は出来ない」
「ハッ! そこで大人しく見てやがれ! こっちが終わったら次はテメェの番だぜ!」
と、そう言い放ってきたラディウスとカリドゥスの言葉にカチンときたのか、
「だったら……!」
と、春風はそう呟くと、今度は水音の方へと駆け出した。
そして、水音の背後に立つと、
「水音、苦しんでるところ悪いけど、ちょっとごめん!」
と言ってきた春風に、
(え、な、何をする気なの春風!?)
と、水音が若干不安になっていると、なんと春風は水音の腰に腕を回して抱き付くようにしがみついて、
「ふんぬぅううううう……!」
と叫びながら、水音をその場から引き剥がそうとしたのだ。
しかし、中々動かす事が出来ないので、
「だ、駄目だ……逃げてくれ春風!」
と、水音は春風に向かってそう言ったが、春風はその腕を離す事なく、
「水音! 本当に申し訳ないけど……俺に『力』を貸してくれ!」
と、再びそう言ってきたので、それを聞いて水音は一瞬「え?」となったが、
(……あ! も、もしかして!)
と、水音はその言葉の意味を理解して、
「……わかった、やってみる」
と、静かにそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。
そして、
「僕の中の『鬼』よ、ほんの少しで良いから……僕に力を!」
と叫んで、自身の中にある「鬼」の力を使おうとした。
しかし次の瞬間、水音の全身を白い鎖状のエネルギーが巻きついて、
「うああああああっ!」
と、水音を更に苦しめた。
(ち、ちくしょう……)
と、苦しみながら心の中でそう呟いた水音だが、
(こ、こんなものなんかに、負けるかぁ!)
と、更に心の中でそう叫ぶと、
「お、鬼……もう1人の僕! 根性、見せてくれぇ!」
と、今度は実際に声に出してそう叫んだ。
次の瞬間……。
ーーグオオオオオオオッ!
という叫び声が聞こえたような気がしたので、それに水音が「あ……」と声をもらすと、水音の全身から、青い炎のようなエネルギーが出てきた。
それを見て、
「「「「「何ぃ!?」」」」」
と、ラディウス達が驚いていると、
「うおおお! う、動いたぁ!」
と、水音が驚きのあまりそう叫んだように、なんとそれまで動けなかった水音の右足が僅かに動き出したので、
「よーし、これなら……!」
と、それを見た春風はニヤリと笑い、もう一度水音を動かそうとした。
すると、今度は少しずつではあるが、水音の体をその場から動かす事が出来たので、
「うん、いけるよ水音!」
「あ、ああ!」
と、春風と水音は必死になってその場から離れようとした。
だが、
「「「「「させるかぁ!」」」」」
と、ラディウス達はそう叫ぶと、更に自分達の力を強くした。
そしてその瞬間、バチッという音と共に、
「うわあああああ!」
「は、春風ぁあああああ!」
春風は水音から剥がされるように吹っ飛ばされてしまった。
そしてそれと同時に、
「うぐあああああ!」
水音の体に巻き付いていた白い鎖状のエネルギーも、水音を締め付ける力を強くした。
(ううう、さっきよりも更にキツくなってきた)
と、水音が苦しそうに表情を歪めた、まさにその時、
「春風ぁあああああっ!」
(え、レナ……さん?)
少し離れた位置で、レナの叫び声が聞こえた。




