第14話 揉め事の後
「あぁ、やっと痛みが引いたぁ」
そう言いながら、水音は王城内の廊下を歩いていた。
ただその表情は、疲労感や脱力感、更には行き場のない怒りなどが入り混じっていた。
(海神さん、大丈夫かなぁ)
と、心の中でそう呟いた水音は、今日の午後の訓練前に起きた出来事を思い出した。
時は遡り、
「私の大切な人を、侮辱するなぁっ!」
と、裏見ーーいや、裏見切人(以下、切人)に強烈な連続攻撃をお見舞いした海神は、その攻撃によってぶっ飛ばされた切人に向かってそう叫んだ。
その叫びを聞いて、クラスメイト達が「えぇっ!?」と一斉に驚きの声をあげると、
「お、お前……」
と、痛そうに股間を押さえながら切人が海神を睨みつけた、まさにその時、
「おい、何をしているんだ!?」
と、爽子と訓練教官役の騎士達が訓練場に入ってきたので、他のクラスメイト(主に女子)達は、爽子に今起きた出来事を説明した。
説明が終わり、爽子と騎士達が少し話し合った結果、午後の訓練は中止という事になり、怪我をした暁と切人は数人の仲間に連れられて治療室に行った。そして切人をぶっ飛ばした海神は、友人の女子クラスメイトに連れられて自分の部屋へと戻った。勿論、中止という事で、水音達もそれぞれ自分達の部屋へと戻った。
まぁ、女子はともかく、水音をはじめとした男子達は、最早訓練どころではない状態なのだが。
そしてその夜、漸くダメージから回復した水音は、あの一件後の海神が気になったので、その様子を見ようと彼女の部屋に向かい、現在に至る。
全てを思い出すと、水音は「はぁ」と溜め息を吐いて、
「……で、何で近道君達もいるの?」
と、水音は自身の背後にいる進と耕にそう尋ねると、
「『何で』ってお前、俺らも海神の様子を見に行くに決まってんだろ!」
「後はそのついでに、君と雪村君の関係について聞きたいかな」
と、2人は何故か胸を張ってそう答えた。
その答えを聞いて、
(絶対後者が1番の目的だろ!?)
と、水音は心の中でそうツッコミを入れた。
その後、
「で、お前、海神の部屋が何処だか知ってんのか?」
と、進に質問されたので、水音は「フッフッフ……」と笑って、
「ごめん、知らない!」
と、堂々とした態度でそう答えて、
「「いや知らないんかい!」」
と、進と耕にそうツッコミを入れられた。
その時、
「あれぇ? 桜庭君に近道君、遠畑君じゃないか!」
と、水音の背後でそう声がしたので、水音、進、耕は「ん?」とその声がした方へと振り向くと、
「ヤッホー!」
「よう」
「……」
そこには、眼鏡をかけた少年ーー野守と、切人に殴られた少年ーー暁。そして、彼の隣には大人しそうな感じの1人の少女がいた。
その姿を確認して、
「あ、野守君に暁君、それに夕下さんも」
と、水音達は3人の傍へと駆け寄ると、暁の口元に絆創膏が貼られているのが見えて、
「暁君、殴られたとこ、もう平気なの?」
と、水音がそう尋ねると、暁は切人に殴られた時の事を思い出したのかむっとなって、
「ああ、こっちは大した事ねぇよ」
と、ちょっと不機嫌な感じでそう答えた。
その答えを聞いて、水音は「あ、いけね!」と思ったのか、すぐに話題を変えようとして、
「えっと……野守君達も、海神さんの様子を見に行くところなの?」
と、今度は野守に向かってそう尋ねた。
急に話を振られて、野守は「ふえ!?」と驚いたが、
「あぁ、うん、まぁね。俺と暁君と夕下さんは、去年一緒のクラスだったからさ……」
と、少し焦った様子でそう答えたので、
「あれ? そうだったんだ」
と、それにつられるように耕も少し驚いた表情でそう言った。
すると、
「……海神さんだけじゃない。雪村君も一緒のクラスよ」
と、「夕下さん」と呼ばれた少女がボソッとそう呟いたので、その場が一気に暗くなった。
その雰囲気に「不味い!」と感じたのか、
「と、ところでよぉ、野守達は海神の部屋が何処か知ってんのか!? よかったら俺らも一緒に行かせて欲しいんだけどよぉ」
と、進が少し慌てた様子でそう尋ねてきたので、
「あ、うん、知ってるよ! 一緒に行こう!」
と、野守も少し慌てた様子でそう答えた。
その後、野守、暁、夕下の3人を加えた水音達は、再び海神の部屋へと向かった。
暫く廊下を進んでいると、
「あの部屋だよ」
と、夕下が1つの扉を指差した。
そして、6人が目的の場所に着くと、
「あ、桜庭君達だ!」
と、背後から少女の声がしたので、水音が「ん?」と後ろを向くと、そこには3人の少女がいたので、
「あ、出雲さんに時雨さん、それに晴山さんも!」
と、水音はその少女達をそう呼んだ。
3人の少女達が水音達の傍まで駆け寄ると、
「何々? 桜庭君達も海神さんの様子を見に?」
と、その中の1人、三つ編みをした栗色の髪の少女がそう尋ねたので、
「そうだけど、出雲さん達も?」
と、水音は「うん」と頷きながらそう尋ね返した。
すると、今度は長い黒髪の少女が、
「う、うん」
と、水音を見て緊張した様子でそう答えて、それに続くように、
「ああ、桜庭達も海神を心配して見にきたのか?」
と、1番背の高いショートヘアの少女がそう尋ねてきたので、
「そうだよ。で、丁度今来たところなんだ」
と、水音の代わりに野守がそう答えた。
その時、きぃっと扉が開く音がしたので、水音らが一斉にその扉の方へと振り向くと、
「なんだ、お前達も来たのか」
と、扉の向こうから爽子が出てきたので、
「あ、先生!」
と、水音達はペコリと爽子に「こんばんは」と挨拶した。
その後、
「あ、あの、先生。そこって海神さんの部屋で間違いないですよね?」
と、耕が爽子に向かって恐る恐るそう尋ねると、
「あ、ああ。海神の部屋で合ってるんだが……」
と、爽子は何故か気まずそうな様子でそう答えて、ちらりと後ろを振り向いた。
その様子が気になったのか、水音達は「ん?」とその部屋の中を覗いて見ると、そこにはシーツに包まった状態でベッドの上に座る海神と、そんな状態の彼女に寄り添う眼鏡をかけた長い茶髪の少女、そして彼女の周囲には2人の少年と1人の少女、それとは別に、如何にも「委員長」と言った感じの真面目そうな少女と、彼女に寄り添う少し暗い雰囲気の少女。更にその2人とは別に、ちょっと困った表情をしている礼堂と、海神の前で土下座をしている、
『……正中(君)?』
純輝がいた。