第134話 不安と、怒り
今回はいつもより短めの話になります。
「ねぇ、水音君」
春風達への「ちょっとした報告」の後、アマテラスにそう声をかけられて、水音は「ん?」と応えるように視線向けると、
「今の話を聞いて『おや?』ってなったけど、君、ホントに『力』を封じられてるの?」
と、アマテラスは水音に向かって、「ちょっと疑ってます」と言わんばかりの疑念に満ちた表情をしながらそう尋ねてきたので、水音はそれに「あ、はい」と返事した後、自身の胸に手をあてて、
「こうしてると、今も感じるんです。酷い言い方ですが、連中に植え付けられた『神闘士』の職能が、僕の中の『鬼』を苦しめているのを……」
と、辛そうな表情でそう答えた。
その答えを聞いて、傍で聞いていたイヴリーヌが申し訳なさそうな表情を浮かべる中、
「どれどれ……」
と、アマテラスはそう言って、「ちょっと失礼」と水音の胸に自身の手をあてて、スッと目を閉じると、
「うわぁ、これは酷いな。幾つもの複雑な術式が絡み合ってる」
と、表情を歪ませながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「え、わかるんですか?」
と、春風がそう尋ねると、
「ええ。しかもこれ、複数もかけられてるだけじゃなく、術式そのものも色んな世界の『理』が込められたかなり強力なものよ。これは、流石の『神』である私でも全部解くのに苦戦するかもしれないわ」
と、アマテラスは歪んだ表情でそう答え、最後に「怒り」に満ちた表情を浮かべて、
「親玉連中め、他の『世界』に迷惑かけただけじゃなく、その子供にまでなんて事してくれるのよ!」
と、付け加えた。
その言葉を聞いて、
「うぅ……」
と、イヴリーヌは顔を真っ青にし、その横ではヘクターらルーセンティア王国の騎士達が、
「イヴリーヌ様、お気を確かに……」
と、必死になってイヴリーヌを励ましていた。
そんな状況の中、
「そう……ですか」
と、水音はガクリと肩を落とし、そんな水音の傍では、
「水音君……」
と、祈が心配そうな表情を水音に向けていた。
すると、
「あん! そんなにガッカリしないで! 大丈夫、私だけじゃコイツを解くのに苦戦するかもだけど、他の神々と一緒になんとかするから! 忘れたの!? 日本にはまだ800万も神々がいるんだからね!」
と、水音の表情を見て「これはヤバい!」と感じたアマテラスが、必死になって水音を励ました。
その励ましを聞いて、
「……ありがとうございます」
と、水音は若干弱った笑顔でアマテラスに向かってお礼を言ったが、
(神様でさえも『苦戦する』って言わせるほどのものだったなんて……)
と、内心は「不安」でいっぱいだった。
いや、「不安」だけではない。
(……絶対に、許さないぞ)
そこには、「怒り」も含まれていた。
その時、水音の脳裏に浮かんだのは、ルーセンティア王国で目を覚ます前、そう、「勇者召喚」の光に飲み込まれてすぐ後の事だ。そう、拘束された水音の目の前にいた3人の男女が水音に職能を植え付けた時の記憶だ。
その時の事を思い出して、
(あいつらぁ、よくも僕の中の『鬼』を……もう1人の僕を苦しめてくれたな)
と、水音は拳をグッと握り締め、プルプルと震わせていると、
「絶対に、この償いはさせるからな」
と、ボソリと呟きながらそう決意するのだった。
次回で今章最終話です。