第115話 エステルの「力」・2
遅くなりました。
「ブレント……村の村長の息子が、エステルを無理矢理自分のものにしようとしたんだ」
と、震えた声でそう言ったディック。最後の部分が敬語になってない事から、彼の「怒り」が伝わってくるのを感じて、
「村長の息子……ちょっと詳しく聞かせてくれないかな」
と、キャロラインが真剣な表情でそうお願いしたので、それにディックが「はい」とコクリと頷くと、
「俺達が暮らしてた村は、基本的に良い人達ばかりで、特に村長はいつも村のみんなの笑顔の為に頑張る事が出来る人でした。しかし、息子のブレントはそんな村長が……いや、村そのものが嫌いなのか、いつも複数の取り巻き達と一緒になって悪さばかりしていて、村のみんなから厄介者扱いされてました」
と、説明した。
その説明を聞いて、
「なぁ。これって、アレだよな?」
「うん。『お父さんは良い人なんだけど息子は最悪』的なパターンかも……」
「日本にもそういう奴結構いるけど……」
「まさか、異世界にも似たような人がいるなんて……」
と、クラスメイト達は小声でそう話しあった。
更に、
「それだけでも問題なんですが、ブレントの母親……つまり村長の奥さんは、そんなブレントを叱るどころか寧ろ『もっとやれ』と甘やかしてしまうので、村長はいつも頭を悩ませていました」
と、ディックがそう説明を続けたので、
『お母さんアンタもかい!』
と、水音ら勇者達は、この場にいないブレントの母親に向かって小声でそうツッコミを入れた。
そんな水音達を他所に、
「そ、それは、なんとも酷い話ですね。それで、そのブレントという方はどのようにして事件を起こしたのですか?」
と、イヴリーヌがチラッとエステルを見ながらそう尋ねると、エステルは「それは……」と辛そうな表情になったので、ディックは彼女を庇うように説明する。
「ブレントは成人になった時に、神々から『猛闘士』の職能を授かりました」
「あら、上位の戦闘系職能ね」
「はい。元々乱暴な性格のブレントがそんな職能を授かったものですから、奴はますます調子に乗ってその力を見せびらかすように村中で振るったんです。これには村長だけでなく村の男達も怒ったのですが、奴自身と職能の相性が良すぎたのか、振るった力は凄く強大なもので、村長も村の男達も、誰1人奴に敵わなかったんです。更にそんなブレントを母親は更に甘やかしていったので、奴はもっと手がつけられなくなってしまったんです」
と、ディックは怒りで体をブルブルと震わせながらそう説明したので、それを聞いた水音達は皆、「うわぁ……」と嫌悪に満ちた表情になり、
「そうだったのですか。あの、因みにそのブレントという方の歳は幾つなんですか?」
と、イヴリーヌが再びそう尋ねると、
「17です」
と、ディックがそう答えたので、
『同い年……』
『最悪……』
と、水音ら勇者(特に女子)達はますます嫌悪感に満ちた表情になった。
更にディックは説明を続ける。
「それだけでも最悪なのに、奴はずっと前からエステルに好意を寄せてたんです。エステル自身は奴を嫌ってたんですが、何度断っても奴はしつこく言い寄ってきて、いつもアメリアと俺でエステルを守ってたんです。その時は奴も流石に手は出さなかったのですが。職能を授かって、誰1人自分敵う者はいないと考えた奴は、その力を使ってエステルを力づくで自分の女にしようとしたんです。勿論、逃げられないように取り巻き達にも協力させて」
そう説明した後、今度はエステルがブルブルと体を震わせた。その際、顔が真っ青になってるのが見えたので、「恐怖」で震えてるのだと水音達はそう理解し、
「な、なんという罰当たりな! 神々より授かった職能を、そのような事に使うなんて!」
と、イヴリーヌは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。当然、彼女に支える騎士であるヘクター、ルイーズ、エヴァンも、
「「「ゆ、許さん!」」」
と、イヴリーヌと同じように怒りで顔を真っ赤にしていた。
そんなイヴリーヌ達を見て、
「ええ、とても許されない事です。しかも、事件が起きた時、私は村を出て『断罪官』として活動していたので、エステルを守れるのは、ディックと村のみんなだけでした」
と、それまで黙ってたアメリアがそう言い、彼女に続くように、
「そう。俺と村長、そして村のみんなでエステルを守ろうとしたのですが、情けない事に誰も奴に敵いませんでした。そして……」
と、ディックはそう説明すると、気まずそうにチラッとエステルを見た。
その視線に気付いたエステルは、最初は答えるのを躊躇っていたが、やがて意を決したかのように、
「……ディックや、みんなが傷付いたの見た私は、怒りに任せてブレントと取り巻き達に力を使い、彼らを呪ったんです」
と、周囲を見回しながら言った。
それを聞いて、
「の、呪った……ですか。因みに、どのような呪いをかけたのですか?」
と、イヴリーヌが恐る恐るそう尋ねると、
「そうですね。その日まで私が身につけてた、様々な『呪い』を全てかけました。大体……10個ぐらいだと思います」
と、エステルはそう言うと、最後に「あはは……」と気まずそうに笑った。
それを聞いて、
『え? それって、大丈夫なの?』
と、水音達はタラリと汗を流した。
すると、
「……あ。エステルちゃん、もしかしてだけど、その力、村の中で使ったの?」
と、何かに気付いたかのようにキャロラインがそう尋ねてきたので、
「……はい。そして、私が力を使った時、近くには5神教会の神官がいまして、その人から教会に……そして……」
と、エステルはそう答えると、最後にチラッとアメリアを見た。
それを見て、「まさか……」と、水音達もアメリアに視線を移すと、彼女は表情を暗くしながら、
「はい。私が所属していた、断罪官第2小隊に、エステルの討伐任務が下りたのです」
と、答えた。
謝罪)
大変申し訳ありませんでした。この話の流れを考えていたら、その日のうちに終わらせる事が出来ず、投稿が遅くなってしまいました。
本当にすみません。