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桜の人

作者: 雪瑪

初小説です。

生暖かい目で見ていただければ幸いです。

その日も私はこっそり家を抜け出して桜並木を歩いていた、いつにも増して桜が綺麗な夜だった。

ふと気づくと見知らぬ男の人が桜を見上げているのに気づいた。

金色の髪に碧色の瞳をしたその人はこの世のものとは思えないほど美しかった。

人の事は言えないが、この時間に外出しているの男の人に、警戒した。

私に気づいたのだろう、男の人は不意に、私に「ここの桜は本当に美しいですね」と言った。

本当は逃げないといけないと思うのに、私は思わず「何度も来ていますが今日は一段と綺麗ですよ」と答えてしまった。

返事があると思わなかったのか、男の人は少し驚いた顔をして「そうですか」と答えた。

今度は私が「桜が好きなのですか?」と聞いた。

男の人は優しい顔で「桜は特別な花なんです」と答えた。

そのあまりの美しさに私は何も言うことができなかった。

私たちは2人で暫く桜を眺めた。言葉を交わさず男の人とすごす時間は特別なものに感じた。

もう帰らないといけないことを伝えると男の人はまた明日も会えないか聞いてきた。もう会ってはいけないと冷静な私が囁くが私は了承して、しまった。

翌日も私は家を抜け出して昨日の桜並木に来ていた。

彼はすでに昨日と同じ場所で待っていた。

「今日は月と桜が綺麗ですね」彼は私を見るとそう言った。

その日は満月で月が桜を美しく照らしていた、私は「そうですね」と答えた。

それから私たちは特に何も話さずに毎日一緒に夜桜を眺めた。

言葉は交わさなくとも彼との時間は穏やかにすぎていく掛け替えのない時間だった。

しかしそれと同時に私の心はどうにもならない激情に揺さぶられていた。

桜の季節が終わる頃彼は私にさよならを告げた。

私は何となくその日が来るのを分かっていた。

お互いに名前を告げることもなく私たちの桜の時は終わりを迎えた。

きっとあれが私の初恋だったのだろう。



あれから何年たっただろう私もすっかりお婆ちゃんになってしまいました。

彼との思い出は忘れられないけれど、お互いに穏やかな親愛の情を抱けた主人と結婚し孫にも恵まれた幸せな人生でした。

その主人も私を残して逝ってしまいました。

主人を亡くしてから毎日彼と出会った桜並木を歩いています。彼に未練がないと言えば嘘になるけれど、主人にも愛情を感じていますし、私も歳を取りずいぶん前にあの頃の思いとも折り合いをつけていました。

ただ彼にもう一度会いたいだけ。

やはり今日も会えなかった。

そう落胆した時、強い風が吹いて桜が舞いました。

私が目を開けた時、金色の髪と碧色の瞳をしたこの世のものとは思えない青年がいました。

ああ、もう一度彼に会えた。

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