未来への道筋(2)
『兄妹とある少年』
夜。
太陽が姿を隠し、陽の光が空から消え、月の光に変わっていった。蒼い空も黒く塗りつぶされ、町から音がなくなった。
あるアパートから二人の兄妹が出てくる。夜の月の光の下、いるのは二人だけだと思われるほどの静寂が広がっていた−が、それは一瞬で崩壊する。
「…兄さん…これは…」
「あぁ…どうやら鬼さん達のお出ましみたいだな」
二人の兄妹の視線の先には足を引きずって進んでくる鬼達の姿があった。ここ数日でかなりの人数の鬼達を集めてしまったらしい。
−ならばやることはひとつ。
昴はブレスレットについている鎌型のキーホルダーを掴みその手を夜の空高く掲げた。途端、キーホルダーから白い光が放たれ、
ガシャンッ
という音ともに昴の手には鈍色の鎌が顕現した。隣に立つ沙梨香に鬼に目線を合わせたまま言う。
「行くぞ」
「いつでも」
沙梨香は即答で昴に答えると同時に動き出した。ネックレスを首から外して剣型のアクセサリーの部分を右手で握る。すると右手から紅い光が放たれ、真の姿へと戻る。鞘を片手で持ちながらは戦えないので放り投げ剣を両手に持ち鬼達に突進していく。
沙梨香が次々と鬼を倒して行くが一向にその数が減る様子はない。その反対側では昴も後ろから迫ってきた鬼達と交戦中だった。
離れていたはずの二人の距離も徐々に狭まり、いつのまにか背中を合わせた状態で戦わなければいけなくなってしまった。
キィン、ゼェゼェ・・・
「っく・・・」
「沙梨香っ!」
まだ本調子ではない沙梨香は剣の重さに手が耐えられず離してしまい、加えて鬼との戦いの疲労が沙梨香に膝をつかさせた。昴が沙梨香の名前を叫ぶと同時に鬼たちは沙梨香に襲いかかった。
――もう、だめー・・・
沙梨香が目をつぶったそのとき、
「んだよ、なんでこんなにいっぱいいんの?おい昴、話がちげぇじゃねぇか」
上、いやすぐ隣からその声が聞こえた。不機嫌そうなそれでいてつまらなそうな少年の声の主は、言った。
「――――消えろ」
沙梨香が目を開けるまえに声がたった一言そうつぶやくと突然風が吹き荒れ、沙梨香まで飛ばされそうになった。咄嗟に落ちていた剣を握って地面に突き刺して難を逃れた。
風が収まってから恐る恐る目を開けると、さっきまでいた鬼たちが一人残らず地に伏せていた。沙梨香が茫然とその光景を見ていると後ろから昴と先ほど聞いた少年のような声が聞こえた。
「さすがは師匠!お見事ですっ!?いったーー!!・・なんで叩くんですか!」
「だれが師匠だ!!お前の師匠になった覚えはねぇ!」
「だからってそんな本気で叩かなくてもいいじゃないですか」
「んで、こいつはお前のなんなわけ?」
「俺のことは無視ですか・・」
昴と話していた声が突然沙梨香の前方から聞こえてきたのでボーとしていた沙梨香は驚いて顔を上に向けた。月の光に照らされたその顔に沙梨香は見覚えがあった。思考がまともに働かなかったが、沙梨香はいつのまにか呟いていた。
「・・・ネックレスをくれた変なお客さん?」
沙梨香の言葉に少年は眉を寄せて考えるそぶりを見せた。沙梨香もようやく脳に酸素がいきわたり少年の姿を眺めた。昴よりも若干大人びた表情で、髪の色は月夜に輝く銀色。短髪な髪型で服装はどこかの民族衣装のような成りで、所々にダビデの星のマークが入っていた。頭にもダビデのマークが入った鉢巻きをしていた。あまりにも沙梨香がまじまじと少年を見ていたからなのかいきなり背を向けて頭をがしがしと掻いた。
―月明りで少年の表情までは見えないがその仕草は照れているようにも見えた。