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願わくば…  作者: 神楽唯
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未来への道筋(1)



『戦いの果てに』


朝。

昴と沙梨香が離ればなれになってから再会した2日後。

あの日広場で眠っていた二人を同じく広場で眠っていた―鬼になってしまった人たち―によって病院へと運ばれた。

この世界で言う病院とは薬草を取扱うため薬剤師達によって成り立っている。二人は外傷が見当たらないので病室で寝かされていた。

昴も沙梨香も中々目が覚めずしかももう離れないと言わんばかりに互いの手をしっかりと握っていた。

他の人たちも診察を受けて早々に帰るべき場所へ帰って行った。





そして2日後。

治療師が二人の病室を訪れると部屋はもぬけの殻になっていた。ベットメイキングもしてあり、シーツの上には一枚の紙が置いてあった。

それには、


《介抱していただきありがとうございました。挨拶もなく失礼かと思いますが諸事情によりこれにて挨拶と代えさせていただきます。お世話になりました》


と流麗な文字で書かれていた。

―しかし、その日を境にこの街で二人を見かけることは二度となかった。




『不可解な謎』


昼。

太陽が空高く上り世界に光を注ぐ頃、二人はアパートの一室にいた。そこはかつて二人で生活していたアパートではなく昴が沙梨香の様子を遠くから見るためだけに借りた部屋だった。離れてからというもの昴は沙梨香が心配でたまらなかったのだ。らしいといえば昴らしいシスコンぶりである。


「……兄さんこんなとこに住んでたの?」


最初に目を覚ましたのは昴だった。そしてすぐに沙梨香も目を覚ました。二人で話あった結果、悟られないように病院を脱け出すことにしたのだ。自分達が目を覚ましたと分かれば質問責めになるのは目に見えている。

きちんとベットメイキングまでしたのは昴で誰もこないように見張っていたのは沙梨香。それから昴のアパートにやってきて部屋を見た沙梨香のため息ともつかない呟きを聞いた昴は苦笑いしながら答えた。


「う〜ん…男一人で住んでるからなんとも…」


「いや、そういうことじゃなくて!こんなに近くに住んでたの!?ってこと!!」


昴の天然ボケな答えに沙梨香が少し怒った風にツッコムと昴はあぁ、と合点が言ったように手を叩く。


「ずっと住んでたわけじゃなくて…たまに来て鬼の気配を探してたんだよ」


「…気配?そーいや兄さん、そのブレスレットってどうしたの?そんなの持ってなかったよね?」


「それなら沙梨香もそんなネックレス持ってなかったじゃないか」


「へっ?あぁこれ?バイト中にお客さんからもらったんだよ。なんか変な人だったけど」


沙梨香の言葉に昴は何やら眉間に指を当てて難しい顔をした。

そんな昴に沙梨香は頭にクエスチョンマークをつけたまま質問を繰り返した。


「兄さん?兄さんはそれどうしたの?」


「ん?あー…なんといえば良いか…」


歯切れの悪い昴に沙梨香のクエスチョンマークは大きくなるばかり。

しかし、突然


「…なぁー沙梨香、そのネックレスくれたお客の顔って覚えてるか?」


「?覚えてるけど…どうしたの兄さん、究極の選択迫られてる人みたいに眉間にしわ寄せて」


「…………夜になったら教えるよ……多分…」


「?」


昴は沙梨香のほうを見ずに虚空を見つめたままブツブツと呟いている。その目は血走り、背中から暗いオーラがにじみ出ている。

そんな兄の様子にため息をついて沙梨香は外に出かけた。今の昴に何を言っても無駄だろう。蒼く澄みわたる空を見上げ思うことはひとつ。やはり兄妹だからか、昴が何も言わなくても沙梨香はなんとなく感じていた。そう私たちはもうすぐ−


−またこの町を去らなければならない


部屋の一歩外に出ると視界が一変する。まだお昼をちょっと過ぎた頃なので太陽は空高く上って世界に陽の光を注いでいる。

自分の生まれ育った町にも。

そして他の町や本当に世界中に。

もしかしたらもっともっと遠く離れた場所にまで届いているのかもしれない。


あの日、自分が『鬼』に遭遇してしまった日。その時はただ絶望を感じた。それと同時に居場所もなくした。

昴がいなくなっても剛さん達に励まされたりしながら生きてきたのに私はあの日恩を仇で返した。朱い狂気の光を湛えた目の私を引き止めようと伸ばされた手を振り切って。


「…皆、怒ってるかな?それとももう私たちのことなんか忘れちゃったかな…」


それだけ呟いて沙梨香はふっと自嘲気味に笑った。






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