二人の日々(2)
長らくお待たせいたしましたι
本編をどうぞ。
朝ご飯を食べ終わり、昴は仕事場へと向かった。沙梨香のことは気にかかるが自分まで休んでは生活費がひどく苦しくなってしまう。
(今日は早めに上がらせてもらって、薬とあと…)
ブツブツと独り言を言いながら猛スピードで作業をこなす昴の姿に何かあったと気軽に聞けない空気が漂っていたため、他の作業員は誰も昴に話しかけない。
「おい、昴〜…ってお前っ!んな無表情で仕事してんじゃねー!」
その空気をまったく無視したすっとぼけた口調にその場にいた誰もが、ずっこけた。
当の本人は大して気にした風もなく、
「ん?なんだなんだ皆してこけやがって、運動不足にもほどがあんぜ」
と言って(白い目で見られているにもかかわらず)ガハハと笑っている。
昴は一旦作業を止めて笑っている人物のほうへと振り返った。だが、昴の目は笑ってない。
「…剛さん、仕事の邪魔ですが」
周りの白い目よりも冷たい目でまだガハハと笑っているオメデタな人物に声をかける。
「なんだなんだ〜沙梨香が寝込んじまったのは俺のせいじゃないぜ?」
参った参ったとでも言うように大袈裟に肩を竦めながら剛と呼ばれた男は昴に言った。
本名:岡本剛。このクリスタル工場の責任者である。余談だが、鉱山の近くにはクリスタルを加工する工場が設置してある。
昴と沙梨香は孤児院を出て路頭に迷っているとき、剛に声をかけられ仕事場を提供してもらったのだ。剛には感謝してもしきれない恩があるが、昴…というか沙梨香をえらく気に入っていて『あと2、3年成長したら俺のとこに嫁にこい!』とまで言っている。
昴としては可愛い妹を手放したくない気持ちがあるのであまり相手にしたくはないが、なんと沙梨香はけっこう乗り気で剛と『未来の旦那さん☆』と言って親しくやっている。
確かに年もそんなに離れていないし、顔も普通より上で性格も(空気さえ読めれば)普通だし、仕事も出来る。が、しかし、超がつくほどのシスコンで世話焼きの昴には『はい、どーぞ』とそう簡単に沙梨香を(さっきも言ったが)手放す気にはなれない。
そのため剛と話すときはいささか警戒しながらとなってしまう。
剛はそんなくそ真面目な昴をからかうのが日課で今日もからかっている。だが、昴はすこぶる機嫌が悪い。
「剛さんもしゃべってないで早く仕事終わらせたほうがいいんじゃないですか?」
「あーそうだな」
冷たく言って作業を再開する昴に軽く返したあとニヤリとした顔で、
「俺の未来の奥さん:沙梨香のことが心配だから早く仕事終わらせよ〜」
といい放つとそのまますたこら逃げ去ってしまった。
当然その楽しそうな姿を昴が憤怒の形相で見ていたのは言うまでもない。
同時刻:アパートにいる沙梨香は赤い顔をしてベットの中にいた。
「……ひ〜ま〜だーよー」
久々に熱が出たとはいえ昔からしょっちゅう寝込んでいたのでどうすれば早く具合が良くなるかは知っている。というより黙って寝ているしかないのだが。
朝は昴が作ってくれたおじやを食べてきちんと薬も飲んだ。それで少しは熱も引いたがやっぱり体はだるい。
(こんなとき私は兄さんに頼ってばかり…)まだ熱のある頭でぼんやりと考える。昔よりは体も幾分か丈夫になったがまだまだ自分は兄さんに甘えている。
そう遠くない将来、離ればなれになるときが来たら―私は独りぼっちでやって行けるのかな…。
うとうととしながらそんなことを考えながら沙梨香は深い眠りに落ちていった。