二人の日々(1)
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朝。
太陽が昇り、世界に光が満ちていく。それに呼応するように空の蒼も澄み渡っていく。
そんな世界のある少年と少女のお話。『鬼』が現れる前の貧しくも平和で幸せな時間。
−はてさて、物語が始まります−
「沙梨香〜もう起きる時間だぞー」
あるアパートの一室に元気の良い声が響く。その後からコトコトと何かを煮込む音が聞こえ、そこにリズム感あふれる包丁の音が加わり可愛らしい響きとなっていた。
南十字昴は朝が苦手な妹のために朝食を作っていた。彼らに両親はいなく、つい最近まで孤児院にいた。しかし、その孤児院も2ヶ月ほど前に閉鎖されてしまったので、二人は毎日バイトづけの日々を送っていた。
この世界で言うバイトとは主に雑用となり、具体的に何をするかというとクリスタルの加工をクリスタル同士を擦り合わせて指定の形にしていくもので、コツさえ使えば短時間に大小さまざまな形のクリスタルが出来ていく。
電気がまったくといってないこの世界にはクリスタルなどの宝石類は大切な道具であり、資源であった。そのため、クリスタルに関わる雑用は腐るほどあるのだ。
二人は孤児院から出たあとクリスタル鉱山の従業員にここで働かないかと誘われ朝昼晩と働いていた。その従業員も実は孤児院を出た身だったらしく、他の孤児院にいた人たちにも何かと世話を焼いていた。
この鉱山はこの街唯一の鉱山であったり、給料もそれなりで、従業員用にアパートまで貸しているので二人にとってまさに天からの恵みとも思えた。
「う〜ん…起きられないよ〜兄さん…」
布団の中からくぐもった声が聞こえてきた昴は料理の手を休め沙梨香を起こしに行った。
「沙ー梨香、起きなきゃ駄目だろう?兄ちゃん特製の目玉焼きが食えなくもいいのか〜?」
沙梨香を起こす時の口癖で必ず食べ物で釣る。そして朝ご飯の匂いを嗅がせれば一発で起き上がるのだが…
「兄ちゃん特製ってぇー…ただソースかけるだけじゃないのぉ〜…はくちゅっ…私は醤油派なんだからー…ソースはいらなーい…のぉー…」
しっかりしてそうで以外に天然ボケな兄の言葉にツッコミを入れつつ少し苦しそうな声で答える。しかし、沙梨香も同じ血を受け継いでいるので結局二人とも天然ボケである。そのため自分のツッコミが少々ずれているのに気がつかない。
昴が沙梨香を覗き込むと顔を真っ赤にしながらうんうんうなっていた。
…どうやら風邪を引いたらしい。
「あ〜また熱出てきたみたいだな。今日は仕事休んでゆっくりしときな」
沙梨香の額に手を当てて大体の熱さを感じとると、え〜と薬まだあったかな?と言ってがさごそと棚をいじる。ちなみにこの世界にタイオンケイ(体温計)というものは存在しない。機械そのものがないから当然とも言えるが。沙梨香は元々体が弱く孤児院にいた頃もしょっちゅう熱を出して倒れていた。そのため昴は面倒見の良いおおらかな?人柄になった。
それも昔の話で孤児院を出てから二人で働くようになってから沙梨香の体も丈夫になり、あまり熱を出さなかったが、
(…最近きつかったし、沙梨香ろくにご飯食ってなかったもんな)
いくら忙しかったといっても面倒見の良い昴はそれに気づかなかった自分を少々叱責し、沙梨香のところに残り少ない薬を持っていった。
「沙梨香、起きれるか?まずは何か食ってからじゃないと治んないぞ」
「…う〜ん……起きる…」
赤い顔をしてのそのそと起き出し、席に座っていると昴が朝食を手に沙梨香のそばに来た。
「今日は家でゆっくり寝てるんだよ、沙梨香」
そう言うと沙梨香の前にご飯を置いて向かい側に腰を落とす。