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願わくば…  作者: 神楽唯
2/13

少年と少女(2)


―どれくらいの時間がたったのだろうか・・・


いつまでたっても鬼たちが襲ってくる気配がない。

昴が恐る恐る目を開けると、


「おっ?なんだ寝てたんじゃねぇのかよ。まぁ、お前は運が良かったよな。なんせ俺様が助けてやったんだからな!」


そこには昴と同じくらいか若干上に見える少年がいた。

少年はガハハっと言って胸を張っているのだが、昴はただ呆然としている。いや、脳が麻痺したかのように、話せる状態ではないのだ。

―少年が持っている長く、淡い黄緑色のぼんやりとした光を放つ長剣に目を奪われて。


―この人は一体・・・?


ようやくその問いが頭に浮かんだ。すると、


「オイオイオイ、助けてやったってーのに礼の言葉も出てこねぇのかよ!とんだガキだな、ったく」


大げさにため息をつきながら少年は、そりゃないぜのポーズを取っている。しかし、その顔はニヤニヤと笑っていた。

昴もはっと我に返り礼を言おうとした―が、


「・・・っぁ・・・・・・っりっが・・・・・・」


声が出ない。何度も何度も口は開くのに肝心の言葉が出てこない。その様子を見ていた少年が急に真面目な顔で、あぁと思い出したように言った。


「お前はまだちゃんと助かったわけじゃねぇんだわ。半分くらい鬼どもに心を食われっちまった(・・・・・・・・)からな。それでもそこまで意識を保ってられんのはけっこう奇跡に近いんじゃねーかな。」


その言葉に昴は頭が真っ白になった。


―鬼に・・・心・・・を食われた・・・・。ならば自分は鬼になってしまったのか・・・

放心している昴をよそに少年は話し続ける。


「まぁ、言うなりゃお前は『鬼のなりそこない』ってとこだな!」


―っ!・・・・・・


少年の放った一言は昴の胸に突き刺ささった。無意識に涙が流れて声が出ないのに声を上げようとして必死に口を開く。その姿はあまりにも滑稽で、哀れであった。

昴の様子に自慢気に自分の活躍を語っていた少年が昴のほうを見た。しばらくは無言であったが、昴の様子が見ていられなかったのか、または罪悪感からか頭をかきながらポケットからあるものを取り出して昴の前に突き出した。

突然のことに昴も驚いて涙を拭くのも忘れて、差し出されたものを条件反射で受け取ってしまう。それはブレスレットに鎌のキーホルダーがついているものだった。昴が頭に?を浮かべて少年を見上げると、どっこいしょと言って目の前に座って昴のほうを見て口を開いた。


「あのなぁ・・・お前ら一般人は『世界』について何も知らねぇ。いや、知るすべを知らねぇんだ。それは別に知らねぇことを責めてるわけじゃない。それが普通だからだ。だが、そこらで寝ているやつらはお前ら一般人とはちょっと違う。『世界』の真実に触れちまったんだ。」


いきなり話し始めた少年は目線だけ動かして周りを見た。昴もそれにならって倒れている人たちを見た。闇の中に点在する倒れている人々の寝息だけが規則的に聞こえる。けれど、


―何か・・・違和感が・・・ある・・・。なんだろう・・・?


一見するとただ寝ているようにしか見えないのに昴にはその人たちがなんだか泣いているように見えた。まるで心の声が聞こえてくるかのように…。

一通り見回すと少年のほうに向き直った。少年は、あ〜説明すんの苦手なんだよ、と頭をがしがしかいてブツブツと言っていた。しかし昴の困ったような顔を見て息を吐き、やれやれとまた話し始めた。


「なんつーか・・・あいつら違和感あんだろ?それは分かっか?」


昴が素直に首を縦に振ってうなずく。


「あ〜やっぱ分かるか・・・。とりあえずお前、鬼がどうやって生まれたか知ってっか?」


ふるふると横に振る。すると少年が面倒臭そうに頭をかいて苦々しい顔をした。


「知らねぇのはしかたねぇんだけど・・・まぁ知ってる俺が異常なんだし。・・・よし、今から『世界』のことについて俺が知ってっことを教える。知った後どうするかお前が自分で決めろ。―何をって顔だな。それを今から話してやる。・・・ここまで理解できてっか?」


少年が訝しげな顔で昴を見ると、戸惑いながらも頷いた。



『世界の真実』



少年は話し始めた。鬼のこと、『世界』のこと。『世界』というのはたくさんあって、ひとつひとつ自分たちがいる『世界』とは異なる。昴たちの世界は蒼く澄んでいるが他の『世界』は黒かったりするし、電気や自動車など機械が発展した『世界』もある。魔法やモンスターが存在している世界もある。しかし、多種多様な『世界』にも共通点がある。そこには『生物』が存在していること。これは『世界』が成り立つために必須な条件である。


そして、話は鬼たちへと移る。鬼の中には昴の『世界』の人間もいる。だが、最初の鬼は【異世界】から来た人間である。そうなるといくつか疑問が生じる。


―ならばなぜ他の『世界』の人たちはこの『世界』に迷いこんだのか?


『世界』と『世界』はごくたまにつながってしまうことがある。時間と空間が一点でつながり、空間に『穴』があく。―それを『時空の歪み』と呼ぶ。

そしてその『穴』は人々を吸い込み反対の『世界』へ吐き出す。だが、普通は『世界』に無事降りたつが稀に『世界』と『世界』の狭間に落ち、死に至る場合もある。


「・・・ここまではいいか?」


少年は文字通り頭を抱えてしまった昴に話しかける。


「あ・・・・えっ・・・・と・・・はい、大丈夫・・です・・・・ってあっあれ?」


「おっ?声でるようになったか!良かったじゃねぇか、鬼になんなくてよ」


少年がニヤニヤしてそう言った。その言葉が昴の頭に引っかかった。―が質問する前にまた少年の話が再開した。


「つーことで鬼ってのは【異世界】から来たやつが自分の『世界』に帰りてぇとか、『世界』に魅了されたりして、自分の中に眠る『負』のオーラに呑まれちまった者のことを総称して『鬼』と呼ぶんだ。」


ふあぁぁぁあぁ・・・少年が眠そうにあくびをした。その時を見計らってたように昴が口を開いた。


「あの、質問・・・してもいいですか?」


「ンぁ?なんだ?」


昴の言葉に少年は気のない返事で返す。昴はすーはーすーはーと深呼吸をして真剣の顔で少年を食い入るように見据えた。昴のただならぬオーラに少年も真面目な顔で昴の言葉を待った。少しの沈黙のあと、昴がゆっくり口を開いた。


「お名前はなんていうんですか!?」


ズコー!


少年は座っているにもかかわらず大げさなリアクションで転げてしまった。そのくらい昴の質問はおかしかった。


―今の状況と話を聞いといて最初の質問がそれかよ!


少年は一呼吸おいたあと、どっから出したか分からないハリセンで昴の頭を思いっきり殴った。


スッパーン!


「いっ痛っ・・・」


「お前な〜人に名前聞く前に自分からなのれ!それが常識だろうが!」


・・・少年は自分も怒る箇所がずれているのに気がついていない。


「あっ・・・すみません、えと南十字昴です。」


「昴ね〜まぁ覚えておいてやるよ。同じ穴の貉・・・・・だしな!んで俺の名前だっけ?耳の穴かっぽじってよく聞けよ。俺の名は―」


夜の広場に風が吹く。木の葉を巻き上げ空へと舞い上がっていく。それに呼応するように幻想的な空の星たちが輝き、二人を見下ろす。


「・・・って呑気にこんなことしてる場合じゃねぇんだ!次はお前の身に起こったことについてだ。」


そう、それは少年が言ったある台詞・・・


『鬼のなりそこない』


普通、鬼たちに襲われ心を喰われればその者も鬼になる。しかし、昴は例外だった。


「お前最初声が出なかったろ?鬼ってのは心がねぇから声が出せないんだ。だそうと思わないからな。けどお前は鬼に半分以上心を喰われかけて声が出せなくなっても、声をだそうとした。簡単に言や鬼と人間の中途半端のライン上にお前とはいんだよ。これからは『負』の感情に負けて鬼になることはあっても、人間の側に戻ることはできねぇ。まぁ戻ってもいいけどな。だが、戻るときは覚悟を決めなきゃならねぇ。―なんでって顔してんな。俺達は鬼を引き寄せる存在・・なんだ。ここまで言や分かんだろ?つまり、俺たちが表の世界に戻れば守りたい者たちを常に危険と隣り合わせにして過ごして行かなきゃならない」


ここまで言い少年は言葉を切った。静寂が二人を包む。昴がここまで聞いて分かったのはひとつだけ。けどそれを頭で理解したくはなかった。


―もう、沙梨香と一緒にはいられない―


胸が締め付けられるようだった。鬼に襲われたときは死ぬかもしれなかったからそんなことを考えている暇がなかった。けど今は違う。自分はここに在るのに会いに行くことはできない。昴はただ泣いた。そばで笑っていた妹のあどけない表情を思い出しながら・・・。

少年は声をかけるようなことはせずただ空を見上げていた。


―月の光が注ぐ空の下。『世界』は厳しい決断を昴に強いていた。



『昴の決断、物語の始まり』



ひとしきり泣いた昴はようやく落ち着いた。瞼は腫れ上がり、鼻も赤くなっていた。それを見て少年は口を開いた。


「お前これからどうする?このままだったら鬼に喰われて死ぬしかねぇけど。―俺と一緒に来るか?」


昴は目を見開いて驚いた。そしてしばらく沈黙したあと、か細い声が聞こえた。


「どうして・・・・そんなに気にかけてくれるんですか?」


「そりゃ、俺とお前は同じ穴の貉だからな。せっかく出来た話相手がいなくなったらつまんねぇし。だからといってずっとつるむ気はねぇぞ。それの使い方わかりゃどうしたって生きて行けるだろ」

少年は昴のブレスレットを指差しながら言った。

昴は黙っている。少年も別に急いでいるわけでもないのでまた空を見て昴の返答を待った。



「―さんは鬼に何をしたんですか?」


昴はそこらで眠っている奴等を指差しながら言った。


「俺が持ってるこれは『負』のオーラを拭いさって鬼を人間に戻すことが出来る。だからそこにいるのは人間に戻った奴等だ。当人たちに鬼なっているときの記憶はないが、なんだかしんねぇが『死神に連れてかれかけた』とか言いふらし回ってんだ。まぁ外に出たことも覚えてねぇから外で寝てればそう思っても仕方ねぇけどな。【異世界】から来たやつはこっちで保護して、『時空の歪み』があいた時に送り返してっぞ。面倒くせぇがな」


自分の持っている剣をなでながら心底面倒臭そうにため息をつく。


「だから俺一人でこんな作業するよりお前にも手伝わせたほうが効率がいいんだよ」


昴は少年の話を何か考えながら聞いていた。―が黙って手を差し出した。

少年はニっと口の端を吊り上げて笑いその手をとった。



―そして二人は闇の中に消えて行った・・・・






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