願わくば・・・
長い間放置してすいません。
これにて完結致します。
―物語の終幕・・・
―真実を知った少年と少女はこれからどこへ向かうのか
―静まりかえった世界で今、新たな物語が始まろうとしていた
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昼。
太陽が高く昇り、蒼く澄み渡った世界へ陽の光を注いでいる。
「昴ー沙梨香ーこっちこっち!」
澄み切った世界に凛とした響きを持った少女の声が響いた。
「兄さん!梨乃が呼んでるよ、早く行かないと」
「沙梨香ちょっと待てって・・・」
続いて仲のよさそうな兄妹の声が聞こえてくる。その無邪気な声は蒼い空に吸い込まれていった。
ここは『天界』。時の番人たちが住まう唯一の世界。
地上から遥か彼方、空の向こうにあり、能力をもっているものにしか見ることが出来ない異空間に存在している。
昴と沙梨香は梨乃たちとの話を終えたあと、この天界へと連れて来られた。
半分とはいえ時の番人の血を引いているため、下界人(地上に住む人のこと)と同じ場所で生活するのは難しい。
何故なら時の番人のもっている能力が周りに強い影響を与えてしまうため、様々なものを惹き付けやすくしてしまう。
これは「フェロモン」と呼ばれる時の番人の特異な体質である。
キィナが昴に言った「俺たちは鬼を惹き付けやすい」というのはこの体質のせいである。
「俺たちは時の番人として幼少の頃から能力の制御訓練を受けてきているが君たちは受けていない。能力が垂れ流しの状態なんだ。ここまで説明すれば大方分かってくるとは思うが、君たちにも同じ制御訓練を受けてもらう」
「能力が制御できるようになれば地上でも暮らして行けるようになれるから!まぁ、時の番人の人手が足りないから仕事はしてもらうけどね」
そんな風に慧と梨乃に交互に言われて二人は天界へとやってきたのだった。
「梨乃さん、質問があるんですけど・・・これって使ってるの私たちだけなんですか?」
梨乃に呼ばれて急いで来てみれば、「天気がいいから外でお茶しよう!!」ととびきりいい笑顔で言われ、瞬間移動で一気に外に連れ出されてのんびりお茶をしていた。
その時不意に沙梨香が「あっ」と声をあげ、自分の胸にあるキィナに貰った黒い鞘に収まっている小さな剣のアクセサリーがついたネックレスを差しながら言ったのだった。
梨乃やキィナも何かしらロッドのようなものは持っているが、他の時の番人は持っていない人もいる。
梨乃が「ふむ」と言いながら持っていたティーカップをおいて話し出した。
「時の番人の能力っていうのは大体何かを媒介にしないと使えないもんなの。んで私たちの場合自分の精神力を媒介にして使っているから本来はロッドとか持たなくても能力が使えるから別に持たなくてもいいんだけど、それは個人の自由だから。でもあなたたちは違うの」
梨乃は両手を胸の前で若干空間を開き両手を向かい合わせにして目を瞑った。すると、合わせた手の空間が光はじめ、次第にその光が凝縮されて光が無くなったあと丸い物体が浮かんでいた。そこで梨乃の目が開き丸い物体を手にとってテーブルの上においた。
「これはね、私の能力を物体化させたものなの。んでもってあなたたちが持っているそのアクセサリーの正体はこれ。あなたたちは半分しか時の番人の血を引いてないから能力も中途半端で制御が難しいの。だから私たちの能力で補うためにそれが必要なのよ」
「そうなんですか・・・」
梨乃の言葉に沙梨香はまじまじとネックレスを見る。昴も感慨深げに自分のブレスレットを見ている。
「だからこれを持ってない時は鬼に対抗できなかったんだな。そういや最初に鬼にあった時俺の声がでなかったのってなんか意味があるんですか?」
「昴がビビりだって言うことじゃないの?」
「ちょっと!!それはひどくないですか!!?」
「兄さん・・・・」
「沙梨香!?なんだその憐れんだ目は!!」
昼間のお茶会はにぎやかに過ぎていき、昴は慧が梨乃を呼びにくるまでいじられ続けたのであった。
「二人とも、この人に面識あるよね?」
「おぅ、昴に沙梨香~元気してたかー?」
梨乃が去ったお茶会のテーブルには慧と慧が連れてきた人がなんの違和感もなくそこにいた。昴も沙梨香もあまりに自然にそこにいるのであやうくいつものように声を掛けそうになってはたと気づき、言葉を失った。
「なんだか元気ないぞー二人とも。それとも俺の顔を忘れたか?」
「「ごっっっ剛さん!!!!!!?」」
「ふっ驚いたか、実は俺は・・」
「剛は時の番人だったんだよ。以外にも」
「・・・なんで言っちゃったかなー慧。しかもなんだその以外ってのは」
「悪い。それ以外に表現する言葉が見つからなかった」
「おい、一応言っとくが謝ってないぞ、それ」
「「・・・・」」
慧と剛が親しげに会話しているが、昴と沙梨香は場の展開についていけずただ呆然としていた。
「まぁ、なにはともあれ元気そうじゃねぇか。昴、沙梨香」
呆然としている二人に気付いた剛は昔と何も変わらない笑顔で話しかけた。そこでようやく二人とも目を丸くして反応を見せた。
「剛さん・・・」
「・・・・ご心配おかけしてすみません」
「全くだな。生きてんなら連絡ぐらいよこせ。ど阿呆」
口調は怒ってみえるが、表情はいたっていつものと変わらない。それだけで心配していてくれたことが分かり二人は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「って言っても一応剛は時の番人だから君たちがどこで何してたか全部知ってるけどね」
「まぁな。黎さんのお子さんに何かあったら俺は黎さんの墓前に立てないぜ」
相変わらず、ガハハハと豪快に笑いながら昴の頭をぐしゃぐしゃとかき乱す。だが、されるがままの昴の様子にちょっと以外そうに手を離して顔を覗き込む。すると昴は、
「・・・剛さんは母さんと知り合いなんですか?」
と真剣な顔をして剛を見た。剛も合点がいったようで「あぁ」と空を見上げて懐かしい顔になり、昔に思いを馳せていた。のであるが、
「いや、剛、説明しなよ」
慧が突っ込むまでしばらくはその状態だった剛であった。
「黎さんは俺の恩人なんだよ。燻ってた俺の心を笑いながら吹き飛ばしてくれた。だから俺はあの人のためだったらなんでもしようって決めてたんだ」
さっきの懐かしそうな顔のまま、昴の頭を今度はぽんぽんと叩きながら言った。
「まっなんにしてもお前らが元気に生きてりゃ本望だろうよ」
「・・・はい!」
「剛!あ・ん・た・は~仕事をしろー!」
「げっ!」
さっきまでのいい雰囲気をぶち壊すような梨乃の怒号が響き渡り、剛はスタコラと去って行ってしまった。
そんな剛の姿を見て昴と沙梨香はお互いに笑いあった。
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とある世界のとある兄妹のお話。
彼らは離れ、また出会いそしてこれからを一緒に歩んでいく。
-願わくば彼らの旅路に幸多からんことを…
彼らの物語はまた始まっていきます。
読んでくださった方々、拙い文章でしたがお楽しみ頂けたでしょうか?
それではまた会えることを祈って…