未来への道筋(5)
*更新が滞っています(o_ _)o
「『鬼』に食われなかった・・・ってどういうことですか?俺は師匠に・・鬼のなりそこないだって言われて・・それに沙梨香だって・・・!!あんたが、あんたが巻き込んだのか!?」
「兄さん!!落ち着いて!まだそうと決まったわけじゃ・・・」
昴は自分が半分鬼になり、鬼に狙われる存在になってしまったとキィナから聞いたことで沙梨香から離れなければ沙梨香まで巻き込んでしまう、と思い涙をこらえてその場を去ったはずだったが今の梨乃の話が本当ならば話が違う。
『鬼のなりそこない』以前キィナに言われた言葉が昴の脳裏によみがえる。どうしてそう言わなければいけなかったのか。理由が聞きたくて昴はかみつくようにキィナを見た。
だが、肝心のキィナは昴の視線に面倒くさそうに言った。
「こっちにだっていろいろあんだよ。とりあえず落ち着け。今から話してやっから」
キィナの言い方が昴にはわざとはぐらかしているようにしか聞こえなかった。疑心暗鬼に陥った昴には何が正しいのか判断がつかなくなっていったのだ
「そう言ってまただますのか!?あの時のように俺と沙梨香を引き離すのか!!」
「兄さん!!」
沙梨香も昴を止めるので必死だった。あの優しい兄が師匠と慕っていた人に激情の念をぶつけている。それに沙梨香には昴と引き離された理由も知らなかったし、どうしてキィナが自分に鬼を救う武器を渡したのかも聞けずにいた。しかし、沙梨香が昴を止めるのもむなしくキィナが最悪の一言を放った。
「・・・過保護すぎるんじゃねーの?なぁ、シスコン」
その言葉に沙梨香がキィナのほうを向くと若干ふてくされたような顔をして座っていた。キィナの様子に怪訝な顔をしたのも束の間、昴が吠えるようにして叫んだ。
「なんだと!お前に・・・沙梨香のことでとやかく言われる筋合いはない!!」
―静寂を打ち破るような怒声が辺りに響き、月が沈み太陽が昇り始めようとしていた
『エピローグ』
朝。
白んでいた空に太陽の光が灯り、雲の間から『陽』の光が差し込み辺りを照らし始めた。
今にもキィナに飛びかかっていきそうな昴を必死に沙梨香がなだめていると、さっきまで沈黙していた梨乃が口を開いた。
「キィナ、昴、止めな。それ以上続けるなら鉄パイプ(?)で頭かち割るよ?」
梨乃の言葉に身の危険を感じあわてて梨乃のほうに顔を向ける3人。目線の先には完全に目が据わっていてどこから持ってきたのか、右手には鉄パイプ(?)を持ちどす黒いオーラが背後を漂っていた。慧はというとすでに遠くまで避難していた。
固まる昴と沙梨香のそばを通り抜け鉄パイプ(?)でキィナの頭を殴った。
「「!?」」
驚く二人の傍らで梨乃とキィナが場にそぐわないような軽快な口調で話し始めた。
「いい加減にしなよ、キィナ。いつまで子供染みたことしてんの?」
「うっせーな・・何の話だよ」
梨乃が若干怒ったような口調でキィナを窘めると先ほどと同じように不貞腐れた顔と口調で梨乃の方を見ずにあさっての方を向きながらぶっきらぼうに言い放つ。そんなキィナの様子に梨乃は溜息をつきながら
話しかける。
「全くっ・・・あんたが話さないんだったら私が全部話すよ?それでいいの?」
「・・・いいんじゃねーの」
「そんな納得してない顔で言われても説得力ないんだからね。ったく子供じゃないんだから、兄貴に嫉妬してどうすんの」
「・・・・嫉妬じゃねーつーの」
梨乃の言葉にピクリと反応しながら小さな声で否定するがその顔はほんのり赤い。まるで姉弟のような会話に昴と沙梨香が茫然としていると慧が近くまできて説明してくれた。だが、その顔はいかにも面倒くさそうである。
「梨乃が持ってるの別に鉄パイプじゃないから」
「えっ・・!!だってさっき・・」
「そうでも言わないと君ら止まんなかっただろ?」
慧にあっさりとそうかえされ昴はぐっと呻いて、二の句が告げないでいると慧はため息をひとつついてまた話しだした。
「俺達時の番人の仕事は世界を守護すること。そのために時の番人は普通の人とは違う『力』を持ってる。例えば、」
慧は鬼であった人達の山を指差して言葉を続ける。
「あんな風に心を闇に捕らわれてしまった人達を元に戻したりする」
沙梨香は慧の言葉にさっきから黙って真剣に話を聞いていた。が、頭では膨れ上がる疑問が沙梨香の中で渦巻いていた。
―どうして私と兄さんにはそんなことができるのだろう?
慧の言うような『力』がなぜ時の番人でもない沙梨香と昴が使えるのか。キィナはどうして2人に接触したのか。沙梨香が慧に訴えかけるような視線を向けると、慧は一瞬顔をしかめた。その顔はまるで言うことをためらっているようにも見えた。
その様子に沙梨香が少し困惑していると、頭を振って決心したように口を開いた。が、
「君らのりょ――――」
「あなたたちに両親がいないのはなぜだと思う?」
慧の言葉をかき消すように、いつの間にそばに駆け寄ってきたのか、梨乃が唐突に言い放った。慧はというと、「しょうがないな・・・」と言って腕を組んで溜息をついていた。
「えっ!?」
「あなたたちがそれを使えるのには理由があるのよ。そしてその理由こそがキィナや私たちに今まで真実を言わせてはくれなかった・・・」
梨乃の顔に影が差して短い沈黙が下りた。いきなり今まで聞いたこともなかった両親の話題が出て戸惑っていると、
「もったいぶってんなよ、いいから話せばいいだろう」
さっきまで不貞腐れたような顔して離れたところで成り行きを見ていたキィナがようやく口を挿んだ。梨乃が少し咎めるような視線をキィナに向けるもキィナはあさっての方を見ていて梨乃と目を合わせようともしない。結局、あきらめたのか溜息にも似た息を吐くと、昴たちに向き直って話しはじめた。
「昴、沙梨香。あなたたちの母親はね・・・私たちと同じ時の番人だったの」
「「・・・」」
初めて聞かされる両親の話に不安げな表情の昴と沙梨香だったが、2人は黙って聞いていた。
梨乃の話はこうだった。
母親の名前は黎。彼女は時の番人として天界で生まれた。時の番人は時を扱う力を絶やさないために“時の掟”を神から課せられていた。
その掟の1つに、
〈下界との交流を禁ず〉
というものがあり、掟を破れば破ったものに災厄が訪れる。
時の力とは総じて“血族”に関わってくる。いわば、血のつながりが重要となるのだ。時の番人同士や天界人ならば力は後世に受け継がれるが、下界人では逆に廃れていってしまうというものだった。
「彼女はその掟破り時の番人を辞めさせられ、天界から追放された・・・そして下界人の人と結婚してあなたたち2人を産んだの」
梨乃の言葉は哀しい響きを含んでいた。唇をきつく結んで必死に泣かないようにする姿に、昴は言葉の続きに何が来るのか察し、梨乃が言葉を発する前に言った。
「・・・俺達を産んだ後、死んだのか・・・母さんも父さんも・・・」
「・・・・・・・・」
梨乃は何も言えず頷いた。
昴と沙梨香も覚えていないとはいえ、両親が他界してしまっている事実は衝撃的で言葉が出ないようだった。
しばらく沈黙が続いたが梨乃のほうから盛大なため息が聞こえ-
「黎さんが亡くなったとき、梨乃はその現場にいたんだ。だからこの話をするとその時の光景がフラッシュバックしてこうなる」
慧が俯いてしまった梨乃を自分のほうに引き寄せ頭をなでながら言ったことで沈黙を破った。
「なのに意地張って自分から話すんだ。困った奴だよ、お前は」
-梨乃に向けられたその言葉は心配と慈愛の響きが含まれていた。