空から女の子が降ってきた
空から女の子が降ってきた。
一昔前の使い古されたラブコメ的なシチュエーションだけど、まさしく、それだった。
幼馴染との登校中の出来事だった。
真っ裸だった。
そして、幼馴染そっくりだった。
ヘン、ターイっ、という幼馴染の声と眼前に迫るカバンを最後に、俺の意識は途絶えた。
変態は、お前だろうがっ。
「目を覚ますと、幼馴染の家で、幼馴染は分裂していた」
「そんなわけないでしょ」
「それで、未来を変えるために、やってきたんだろう。で、今は記憶喪失的な展開」
「漫画の読みすぎ。この子、わたしの思念に当てられた幽霊よ。ほら、実態ないし。手も貫通する」
「あー、SFではなくオカルトでしたか。それで、そうなると、強い思念の正体を探り、精神的解決に導く的な展開だな。うん、どうせ、キスだ。キスしよう。どにいえにそぃぢ」
ぶん殴られました。二人から。片方はすり抜けたけど。ついでに、服をどうやって着たのか知りたい。
なぜだ。論理的に説得力のあるラブコメ的解決だったのに。
え、展開。ムード。情緒。
俺、物事はさっさと解決したい系決めつけ主人公なんだが。
サクサクとガンガンと行くのが、令和の時代の主人公というものだ。今の時代、もう、ウジウジを待っていてはくれないんだよ。時代は加速しているんだ。最近の展開は速度が大事なんだ。
「それで、幽霊さん、どうすれば返ってくれんだ」
「どうして返すの。二人いると便利なのに。害ないし」
いやいや常識で考えろ。霊界と顕界の均衡がづれることによる世界の歪みとか、幽霊が徐々に汚染されていく的な展開が、いっぱいあるだろう。その辺のマンガで勉強しているから分かる。アストラルな何かが、アストラルなんだ。
だから危険がリスクなんだ。なんだなんだ。
「また、マンガ脳で、物事を考えている」
「幽霊を簡単に受け入れるやつに言われたくはない」
「いいじゃない。幽霊の一匹や二匹いても。食事もいらないし会話もできるし、完璧すぎっ。一家に一台は欲しい」
「本当のことを言うと、それはお前が生み出したイマジナリーフレンドだ。俺には、特殊なテレパシー能力があるから、お前の視覚情報を解析して、話を合わせることができるけど。本当は寂しい、お前が作り出した幻なんだ。だから、さあ、俺と、みできぃにおえ」
「ああ、うるさいなぁ。SF脳なの。全くフィクションじゃないんだから」
「いやフィクションだ。実は俺たちは、ゲームの中に侵入して、そこで体験学習をしているんだ。それは、超能力に目覚めた人間が、安全安心に社会生活を送るためのカリキュラムでせぶえもえ」
暴力系ヒロインはんたーいっ。
俺じゃなきゃケガしてるぜ。
「だから、どういう世界観なのよ。ただ、空から女の子が降ってきただけでしょ」
「いやこんな古典的な演出に俺は騙されないぞ。こういう古いネタは、パロネタ的な扱いなんだから。裏には陰謀渦巻く大都会の闇があるんだ。天空の城とか壮大な地下施設とか」
「ないない。幽霊の存在くらい認めよ。それが一番楽でしょ。幽霊だったら、莫大な金を投入した施設もいらないし」
「謎パワーでゴリ押す気だな。愛の力とか二人の絆の力とか、誤魔化されるものか」
そんなものは美少女の特権だ。残念ながら、幼馴染は、中の上が限界だ。俺は幼馴染のルックスでも冷静に分析する目と脳を持っている。
見慣れたことによる補正なんかかけない。美人コンテストのように、冷静なる目で客観的判断を下せる。
「そ、それで、ここに、肉体があるんだけど」
「それは俺の肉体じゃないか。はっ、俺も分裂しているのか。カバン衝撃で、魂が抜ける的な表現。戻ろう戻ろう。スルッと」
簡単に戻れたな。
問題なし。肉体と精神が分裂してたまるか。
「それで、我が目の前の幼馴染二名は、どうすればいいのか」
「別に困ってないけど」
「ちょっと待て。今、設定を考えている。これは双子で生まれてくるはずだった魂の片方とか、未来を変えるためにやってきた未来の幼馴染とか……いや、夢オチでいいか。これは夢でした」
「ダメでしょ。夢オチはタブーなんだよ」
「タブーは破るためにある。ノックスの十戒も破ってなんぼ。問題は、なんで裸で女の子が降ってきたか。ちょっと観察を」
「変態に慈悲はない。ゴートゥーザヘル」
「なるほど、天使が舞い降りた可能性も無きにしもあらず。幼馴染が目に映ったから、最初に擬態したというパターンか。やるじゃないか」
「そんなつもりで言ってないけど」
「じゃあ、とりあえず、こっちの天使のような幼馴染は俺が預かるとして」
「させないよ。わたし、そっくりの子に、いったい、何をするつもりなの」
「清楚で楚々とした幼馴染にするつもりだ。俺は俺の理想の幼馴染を、爆誕させる。理想の嫁を作るんだ。これは、そういう神の思し召しに違いない」
「でも、触れないよ」
「だが、そこがいいっ。二次元に萌える俺の心は肉体を超越している。触る、いや、触らないでも、二人の想いは通じているんだ」
「わたしを無視して、わたしと瓜二つな少女と、通じないで。あと、握りしめているのは、わたしの手なんだけど」
「たまに、入れ替わってくれ」
ガンッ!!
「さて、フライパンでのしたけど。どうしよう。全部、夢オチでいっか。いい、わたしの部屋に隠れておくんだよ。こいつには見つからないようにね」
女の子が空から降ってくるのは、コウノトリさんもビックリ。古来より、女の子は空から降ってくるものと言われているなぁ。
空から降ってくる少女系の神話や昔話とかないのかなぁ。どちらかというと、囚われの姫だから、森とか海とかで、空ではないのかな。あと、空より豊穣の女神系で、大地だし。
かぐや姫とか空に帰るか。
空から落ちてくるというのは、少女の方からの突然の接近であるし、同時に受身な落下というもので、そして、きっと、社会的には孤立というもので。神秘性と不思議性と偶然性もあって、完璧な開幕の一撃だけど。ネタ化してひさしい。