第三幕『訪れた再会』
あれ以来、僕は窓から秘密基地に入るようになった。
僕とAの中であの話は僕が見た夢として片付けられた。
そうだよ、あれは夢だった。そうじゃなきゃ、おかしい。
理解できない物は夢として片付けた方が楽だ。
当時の僕は子供ながらにそう考えた。
それからは心が軽くなったように日々を過ごす事が出来た。
Aと秘密基地の改造を楽しんだり、友達を秘密基地に誘ったり、と本当に楽しく過ごす事が出来たんだ。あの出来事を忘れる程に……
高学年になった頃だろうか、いつも出入りする窓が閉まっていた。
誰が閉めたんだよ!と思いつつも、窓を叩いて呼び掛けてみたが、誰も来なかった。
違う部屋に居て気付いていないと思った僕はあれ以来、鳴らす事のなかったインターホンを鳴らす事にした。
ピンポーン
軽快な音が鳴る。
これなら気付いてくれるだろうと思って待ってると「はーーい」と声が返って来た。
僕の心臓が鼓動を早めた。
あり得ない。嘘だ。
そんな言葉ばかりが頭の中を埋め尽くす。
今、目の前で訪れようとしてる現実を否定したくて、僕は咄嗟にネームプレートを確認した。
そこには『蘭咲』と、見に覚えがある名字が書かれてあった。
ガチャ
僕は反射的にドアに顔を向けた。
ゆっくりと開かれたドアの先には、
「お待たせしました〜どちら……あら?お久しぶり〜」
優さんが居た。あの時と変わらず、おっとりとした話し方は間違いなく優さんだ。
否定したいが、否定できる要素がない。
夢ならどれだけ良かったか……
だが、間違いなく目の前に存在する優さんは本物だ。
夢なんかじゃない。
「どうしたの?具合でも悪い?」
心配げな表情を浮かべて、僕の額に当てられる手の平から感じる体温は暖かく、生きてる人間であると実感する。
「あっ……あの、お久しぶり、です……」
2、3年ぶりの再開。一杯言いたい事があった。
どうしてあの時は出てくれなかったのか、
どうして今になって現れたのか、
本当に沢山あった筈なのに、真っ白になった頭ではそれだけしか言う事が出来なかった。
「あれから全然会いに来てくれないから寂しかったよ〜何時になったら会いに来てくれるのか楽しみにしてたんだから〜」
「えっ……」
どういうこと。
僕には優さんの言ってる事が分からなかった。
だがら、僕は咄嗟に次の日に会いに行った事を伝えた。
すると、優さんは「ああ〜」と声を上げると、困ったような表情を浮かべた。
「その日は友達と遊びに行ってたの。だから、その日は部屋に居なかったんだ〜。ごめんね〜」
「な、なんだ……」
そういう事だったのか。
てっきり、僕の夢だと思った事は間違いだったんだ。
良かった、と安堵する。
「あはは〜、本当にごめんね〜。お詫びと言ってはなんだけど、手料理ご馳走して上げるよ。お腹空いてない?」
「空いてる!」
今日は体育があってお腹がペコペコだった僕はすぐさま答えた。
「さっすが男の子!食欲旺盛で良いね〜。ちょうど仕込んでいた唐揚げをご馳走して上げるから楽しみにしててね〜」
「からあげ!」
僕はゴクリと唾を呑み込んだ。
唐揚げは僕の大好物だ。
まさかここで食べる事になるとは思ってもいなかった。
優さんに案内されて部屋へと入った僕は、出された飲み物を飲みながら唐揚げを待った。
唐揚げを揚げる音に食欲を掻き立てられながらも、じっと待ち続けること数分。優さんが唐揚げが乗った大皿と取り別ける用の皿と箸を持ってテーブルへとやって来た。
「お待たせ〜。此方が出来たてホヤホヤの唐揚げだよ〜」
優さんはテーブルに大皿を乗せ、皿を持つと何個食べたいか聞いてきたので十個と答えた。
「いっぱい食べるね〜残さないでよ〜?」
「絶対に残しません!」
唐揚げを残すなんてあり得ない!
勢い良く否定すると、優さんは笑う。
「なら良かったよ。はい、どうぞ」
僕はお礼を言って受け取ると、出来たての唐揚げを一つ箸で取って口に運んだ。
ガブ。
唐揚げはジューシーだった。
衣もカリッとしてて、口の中が幸せになったよ。
「美味しい?」
僕は自分でも分かるぐらい頬が緩んでいるのを自覚してるのに、優さんはワザと聞いてくる。
無論、その質問に僕の答えは決まっていた。
「美味しい!!」