第ニ幕『誰も住んでいない筈の101号室』
蘭咲 優と名乗った女性は見も知らぬ僕を部屋に居れてくれた。
部屋の中は可愛い動物のお人形やノートパソコン、モコモコのカーペットが敷かれていたりと、生活感が感じられた。
だが、そこに、僕とAが持ち込んだ物は何一つとして存在しなかった。
僕は夢でも見てるような心地で、飲み物を持って来ると言ってキッチンに向った優さんを待った。
「お待たせ〜。て、座ってても良かったのに〜、伝えておけば良かった〜」
優さんはなんというか、おっとりとした女性だった。
状況が呑み込めず、呆然と立っていた僕に「悪い事したね〜」と謝ってきたのだ。
「い、え!僕が好きでしたことだから!」
それは違うと、すぐに否定しようとしておかしな返事を返してしまったよ。
優さんは微笑んで「ありがとう」というと、コップを持ってない手で僕の頭を撫でた。
あれ、絶対に勘違いしてたよ。
もう昔の事だから否定できないけど、当時の僕は誤解が解けて安堵した。
それから優さんからコップを受け取り、部屋に置かれた白い丸テーブルに僕と優さんは座った。
「今日はどうしてチャイムを鳴らしたのかな?」
座ってすぐ、優さんは答えづらい質問をしてきた。
僕はなんて答えれば良いのか悩みつつも、全てを話してしまった。
僕とAの秘密であった秘密基地のこと、
この部屋には誰も住んでいないこと、
その中で、疑問も漏らしていた。
優さんはいつからここに住んでいるのかについて。
全てを聞きを終えた優さんは静かに頷く。
「不思議だね。私はこのアパートが建てられてすぐの頃から住んでいるよ。ネームプレートにも名字も載せてあるし。あっ、信じてないでしょ?」
当てられた事に驚いたが、素直に頷いた。
すると、優さんは「証拠を見せて上げる」と言って僕を部屋の外に連れて行ってくれた。
外に出て、ネームプレートを見ると確かに『蘭咲』と書かれてあった。
だが、それは昨日まで存在してなかった筈だ。
どうなってるのか分からず、僕は混乱した。
それからの事はよく覚えていないが、気が付いたら帰路に就いていた。
次の日、Aに「どうして昨日は来なかったんだよ!」と怒られた。
だから、僕は昨日の事をAに話した。
Aは怪訝そうにしながらも、必死に話す僕を信じてくれた。
それから、Aは「今日もう一回インターホンを鳴らしてみよう」と言って、学校帰りにそのままAが住むアパートに向かい、インターホンを鳴らしてみた。
だが、誰も出て来なかった。何度も、何度も、鳴らしても。
どうして。優さんが住んでいるんじゃなかったのか。そんな疑問が頭の中を埋め尽くした。
Aから「誰も住んでいないんじゃないか」と疑いの眼差しを向けられた。
違う、本当に優さんが住んで居たんだ!と否定したが、Aの言う通り誰も住んでいない。
それは他の誰でもない、僕とAが知っていた筈だ。
初めてこの部屋に入った時から……