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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第1章 見えない君を見つめてる
9/35

期待

 体重は増加していく一方で、向かう足を止めることはできなかった。

 それはノートの続きが、気になって仕方なかったからだ。

 その返事が、どうしても早く知りたかったからだ。

 

 暗闇の中に、明かりがついた一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『ことだま』とある。

 奇妙なラーメン屋は、今日も変わらず同じ場所に存在していた。

 金曜日でもないのに、ここへやって来てしまった。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々とラーメンを食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。しかし、それももう気にならない。

 店内には一台のテレビがあり、テレビの横には一冊のノートとボールペンが置かれていた。

 奥では店主らしき人物が麺を湯切りしている手が見える。

 

 かなえは、券売機で塩ラーメンのボタンを押す。カロリーが低いのは塩だと聞いたからだ。

 食券を厨房のカウンターへと出した。

 食券を出すなり、顔が見えない店主からすぐに塩ラーメンが出てきた。

 かなえは、お決まりのテレビの横の席に座った。

 

 テレビの横にある古くぼろいノート。その横にはボールペンがひとつ。

 かなえは、ノートを手に取り、すぐに開いた。

 そこには、“鋤柄直樹(仮)”からの続きの“文字”が書かれていた。

 

『行ってみるのもいいんじゃないでしょうか? 見えない自分が見えてくるかもしれません。知らない自分に出会えるかもしれません。』

 

 !!!

 婚活パーティー、鋤柄さんには、行かないでって言ってほしかった……

 なのに……

 

 えっ……??

 どうして、どうしてわたし、今そんなことを……

 

 

 ノートにある“文字”に返信をしようと思ったが、かなえの手は動かなかった。

 

 

 

 婚活パーティーが行われているパーティー会場。

 各男女が一対一で話をしている。アナウンスが聞こえた。

 

「はい、それでは次のテーブルに移動して下さい」

 

 お見合いの回転寿司とは一体なんだろうか。

 わたし達は寿司か。寿司のネタなのか。

 つまんで手軽に食べられる100円の回転寿司のネタなのだろうか。

 どうせ寿司なら、高級な回転しない寿司の方がよかった。

 

 かなえは席を移動すると、目の前には、また次の男性の姿があった。

 単純作業のようにプロフィールカードを交換する。

大河原徹おおかわらとおる 38歳』とあった。

 大河原は口を開いた。

 

「こういうパーティー、初めてなんですよね」

 

「わたしもです」

 

「勧められて来たんですけど、全然自分を出せなくて……」

 

「お料理されるんですね」

 

「あっ、はい。作るの好きなんで。でも一人なので寂しいもんですよ」

 

「わたしは食べることが好きです」

 

「なら、作りがいがありそうですね」

 

「最近はラーメンばっかり食べてます」

 

 当たり障りない会話をして、特に相手に踏み込むこともなく時は過ぎる。

 わたしはずっと、回り続けているだけの数合わせの寿司を演じているのだろうか。

 

「かなえさんは、結婚するために恋愛は必要だと思ってるんですね」

 

「えっ……」

 

「僕もそうです。でも、だから取り残されているのかもしれません」

 

「……」

 

 

 会場から出て行く人々。パーティーは幕を閉じた。

 かなえはスタッフから渡された封筒を開けたが、そこには何も入っていなかった。

 周囲はカップルになり会場を去って行く。

 

 みんなこの中で選ぼうと思っているだけ。

 所詮、外見や年齢、学歴などが重視されるのだろう。

 当たり前だけど、目的は結婚することなのだから。

 わたしは結局、白馬に乗った王子様がやって来ると思っている人なのかもしれない。

 シチュエーションにこだわっているのかもしれない。

 わたしは、あの男性が言っていたように……

 

 かなえは、ふと背後に気配を感じた。

 振り返ると、そこには大河原の姿があった。

 

「あの、こういうのルール違反かもしれないんですけど」

 

「?」

 

「また、僕と会っていただけませんか?」

 

「えっ?」

 

「もっとあなたを知りたいんです」

 

 大河原は連絡先を書いた紙をかなえに渡すと去って行った。

 

 

 

 その夜、かなえの姿は『ことだま』にあった。

 お決まりのテレビの横の席に座り、“鋤柄直樹(仮)”の“文字”を見つめていた。

 そして、ノートにある“文字”に返信でもするように、かなえは続きを書いた。

 

『婚活パーティー行ってみました。良い人は沢山います。でも、好きになれる自信がありません。子供の頃、なりたかった大人とはどんなものだっただろう。鋤柄さんは、どんな人生を送っていますか?』

 

 

 

 かなえは帰宅すると、部屋で棚から一冊のノートを取り出した。

 ノートを開くと、そこには『大人になったらやってみたいこと』とある。

 ・一人暮らし

 ・お酒を飲む

 ・キャビアを食べる

 ・大人買い

 ・遠くまでドライブ

 ・世界一周旅行

 ・25歳までに結婚

 ・偶然の出会いを運命にする

 ・隠れて職場恋愛

 ・好きな人と結婚

 

 わたしが叶えてきたことって……

 なりたかった自分って……

 

 かなえなのに、お酒を飲むしか、叶ってないや。

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