表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第1章 見えない君を見つめてる
5/35

偽りラストチャンス

「かんぱーい!」

 金曜日の夜、居酒屋に声が響いた。

 かなえの後輩、美智子が勝手にセッティングした三対三の合コンが始まった。

 男性陣は、川西遼、西森蓮、石山周大の三人。女性陣は、かなえ、美智子と共に、浜野明日香を加えた三人だ。

 

「じゃあ、まずは自己紹介から。川西遼28歳です。遼って呼んでください。今日は真剣に一夜限りの相手を探しに来ました!」

 

「おいおい!」

 

「もーやだー」

 

 はいでた、持ち帰り男! 冗談半分、本気半分。

 くだらないやり取りが早速始まった。

 わたしは今、人生において無駄な時間を過ごしているのではないか?

 

「えー西森蓮28歳です。にっしーとか蓮ってよく呼ばれてます。チワワ飼ってます」

 

「ワンちゃん飼ってるんですね! うちにはミニチュアダックスがいます」

 

 ほらでた、女子ウケ狙い!

 どうせ、チワワ見にうちに来ます? のためだけに飼っているチワワだろう。

 チワワがかわいそうだ。

 

「石山周大27歳です。シュウって呼んでください。音楽が好きで、夏になるとよく野外フェスとか行ったりします。カラオケも好きなので、今から二次会が楽しみです」

 

 音楽かぶれか、絶対チャラ!

 フェスに行くような男はどうせチャラ男で、ろくなことがない。

 え……今わたし、ここにいる男性全否定じゃん……

 

 

「浜野明日香26歳です。あすぴょんって呼んでください。実は福岡出身です」

 

「え、博多弁喋ってよ!」

 

「えー。好きになったっちゃけど、どうしたらいいとー?」

 

「あすぴょん、かわいーー!」

 

 うーわ、秘密兵器、方言参上!

 男性一同からの可愛い頂きましたー!

 

「はい、星田美智子26歳です。得意料理はオムライスで、ケチャップでハート書いちゃいます。みっちゃんって呼んでくださいっ」

 

「へーみっちゃんは、家庭的なんだね」

 

 お前そんなキャラだったのか!

 いつ変貌を遂げた!!

 オムライスが作れるだけで家庭的?

 手作りチョコとか言って溶かしただけのチョコ配るんだよね。

 手作りって言うなら、まずカカオから作れや!

 

 

「先輩の番ですよ」

 

 わ、わたしの番だと!?

 何も用意してない。この流れで一体何を……

 

「えー中条かなえ35歳です。かなえと言っても、これといって何も叶えれてません。最近は一人でラーメン屋に通ったり……してます」

 

「おっ? ラーメン女子?」

 

「まぁでも、ラーメンがすごい好きなわけでもないんですけど……今行かずにはいられないというか……なんというか……今日は一応、結婚相手を探しに来ました」

 

「…………」

 

 その場が静まり返った。

 時が一瞬止まった気がする。

 

 

「なんて呼んだらいいですか?」

 

「かなえでも、かなえさんでも、大丈夫でーす……」

 

 かなえは苦笑した。

 

「じゃあ、かなえさんで!」

 

 一気に距離をあけられた気がする。別に縮める気もないんだけど。

 てか、逆にこれで、かなぴょんでーすとか言ったらドン引きだろ!

 わたし以外は皆20代。わたしは明らかに後輩の引き立て役だ。

 何がラストチャンス掴んでくださいだ。結局、全部お前のためじゃないか。

 来なきゃよかった。本当に来たい場所はここじゃない。

 

 

 

 なんとか合コンという行事を終わらせると、かなえの足は違う場所へと向かっていた。

 暗闇の中に、明かりがついた一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『ことだま』とある。

 奇妙なラーメン屋は、深夜でも同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 何人かの男性客が黙々とラーメンを食べている。時間も遅いため、いつもより店内の客の数も一段と少なかった。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 店内には一台のテレビがあり、テレビの横には一冊のノートとボールペンが置かれていた。

 奥では店主らしき人物の手だけが見える。

 かなえは、券売機で塩ラーメンのボタンを押す。食券を厨房のカウンターへと出した。

 食券を出すなり、顔が見えない店主からすぐに塩ラーメンが出てきた。

 かなえはラーメンを手に、テレビの横の席に座った。

 

 大きなため息が出た。

 今頃、あの一同はカラオケでも楽しんでいるのだろう。

 わたしには関係のない話だ。

 

 テレビの横にある古くぼろいノート。その横にはボールペンがひとつ。

 かなえは、すぐにノートを手に取り開いた。

 

「あっ……」

 

 そこには、続きの“文字”が書かれていた。

 

『人は何歳からでもきっと素敵に変身できる。改造しなくたって、自分を強く持っていれば。』

 

 ノートにある“文字”をしばらく見つめ、やがて心の声を吐き出すかのように、かなえは続きを書いた。

 

『35のわたしは、おばさんだった。その場を盛り上げるようなことも言えない。話題について行けない。一人でラーメン屋に来るような女はガードの固い女だと思われるのだろうか? パンケーキ大好きでーすとか言えばよかったのだろうか? いや、それも年齢に合ってないから気持ち悪いだろう。男はただお持ち帰りがしたいだけだ。そこに結婚を考えての付き合いはない。結局は若い女が好きだ。女はわたしを横に置くことで、自分の若さを際立たせている。合コンほど無駄な時間はない。いつの日からか、ドキドキする気持ちも忘れてしまった気がする。この麺のように、わたしは伸びきってしまった。』

 

 ノートを閉じると、少し伸びてしまったラーメンを見つめ、食べ始める。

 塩ラーメンは思ったよりも、しょっぱかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
かなえの心の声、突っ込みがえぐい。 言葉がいい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ