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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第1章 見えない君を見つめてる
4/35

返信

 オフィスでかなえは、気合いを入れたかのように立ち上がった。

 

「よし! 今日は金曜日だ!」

 

「先輩?」

 

 後輩の美智子が、かなえを見つめ目をパチパチさせた。

 テンションの高いかなえの姿を見たことがなかったのだろう。

 

「先輩! 合コンの日程決まりましたよ!」

 

「えっ?」

 

 そういえば、そんな話があった……。

 ラストチャンスだとかなんとか。不快になる一言をつけたしてくれた一件だ。

 完全にわたしの頭の中から消していた情報だった。

 

「来週の金曜日、あけといてくださいねっ」

 

「金曜日!」

 

「え、何か問題ありました?」

 

「えっ……あっ……いや」

 

「じゃ、よろしくお願いします! イケメン揃ってますから、期待してください」

 

「イケメンねぇ……」

 

 わたしは、ルンルンの美智子に呆れている。

 そもそもイケメンという概念がよく分からないというのもある。

 合コンは好きではない。

 しかし、それ以上に金曜日であることが引っかかった。

 ふざけるな! よりによって、何故金曜日なんだ!!

 

 

 かなえは仕事を終えると、足早にあの店へと向かった。

 暗闇の中に、明かりがついた一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『ことだま』とある。

 奇妙なラーメン屋は、今日も同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々とラーメンを食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 店内には一台のテレビがあり、テレビの横には一冊のノートとボールペンが置かれていた。

 奥では店主らしき人物が麺を湯切りしている手が見える。

 かなえは、券売機で豚骨ラーメンのボタンを押す。食券を厨房のカウンターへと出した。

 食券を出すなり、顔が見えない店主からすぐに豚骨ラーメンが出てきた。

 かなえはテレビの横の席に座った。

 テレビでは、『その感情に名前をつけたなら』の先週の続きが放送されていた。

 

 テレビの横にある古くぼろいノート。その横にはボールペンがひとつ。

 かなえは、すぐにノートを手に取り開いた。

 そこには、続きの“文字”が書かれていた。

 

『僕達は地球をすでに侵略している化け物なのかもね(笑)』

 

「これって、もしかして! もしかしたら! わたしへの返信!?」

 

 ×  ×  ×

 

 シオン「変身!」

 改造人間シオンが変身している。

 

 ×  ×  ×

 

 思わず立ち上がってしまったが、かなえは我に返り、辺りをきょろきょろして静かに座った。

 周囲は黙々とラーメンを食べている。かなえのリアクションにも無反応だった。

 

 ×  ×  ×

 

 シオン「くらえ、インフルエンザウイルス!」

 

 怪人エモーションに見えない攻撃を仕掛けるシオン。

 

 ナレーション「説明しよう! 即効性に欠けるがこれは後々効いてくるのだ」

 

 シオン「これで一週間は襲って来れまい!」

 

 ナレーション「果たして怪人は、ウイルスに感染するのか!」

 

 ×  ×  ×

 

「なんじゃこれ?」

 

 見たことのない戦いを繰り広げる、戦隊モノのドラマ。

 これだけ不自然な内容なのに、周囲は誰もテレビに目を向けていない。

 それがドラマ以上に不自然だった。

 

 イケメンという目に見えるものは、きっと魅力の一つである。

 目に見えないということは、怖くもあり、わたし達はウイルスを避けることができない。

 改造人間や怪人にとってはどうなのだろう?

 しかし時として、見えないことは魅力でもあるのかもしれない。

 

 ノートにある“文字”に返信でもするように、かなえは続きを書いた。

 

『わたし達は化け物に変身しないために幸せを日々探しているのかもしれない。でも歳をとると、だんだん化け物に近づいていく気がする。』

 

 ノートを閉じ、かなえはラーメンをすすった。

 

 

『ことだま』は、豚骨ラーメンも美味しかった。

 今日は別の味にして正解だった。

 

 ねぇ、文字だけの君。あなたは一体誰なの?

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