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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第2章 見えない君を探してる
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雨は美学

 金曜日がやって来た。

 かなえは、先週の鋤柄への問いの答えを知るために、あの店へと向かった。

 しばらく歩いていると、一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『おあいそ』とある。

 奇妙な寿司屋は、今日も同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々と回転寿司を食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 奥では店主らしき人物が寿司を握っている手が見える。

 かなえは店内を見回したが、まだ小鯖の姿はなかった。

 かなえは、あいているカウンター席に座った。

 今日も、回転レーンに乗った寿司が目の前を通過していく。

 

 しばらくすると、回転する寿司レーンの中に一冊のノートとボールペンが乗った皿が現れた。

 やがてそれは、かなえのもとへと回ってくる。

 そこには、『書いたらお戻しください』とあった。

 かなえは動いているレーンから、ノートとボールペンを手に取った。

 

 かなえは、ノートを開く。

 そこには、“鋤柄直樹(仮)”からの続きの“文字”が書かれていた。

 

『僕は雨の日が好きです。きっと特別な出逢いがあなたにも待っているはず。』

 

 それが、“わたしにも見えますか?”の答えだった。

 

 雨の日……

 思い返せば、鋤柄さんとの出逢いは、雨だ。

 全ては、一本の傘から始まった。

『ことだま』で傘を借りたわたしは、その傘を返しに再び『ことだま』を訪れた。

 そして、“鋤柄直樹(仮)”が綴るノートに触れることになる。

 雨が嫌いだと言う人は沢山いる。でも、人間は雨がなくなってしまったら死に絶えるだろう。

 わたしは、雨が美しいと感じる日がある。

 雨にうたれるその姿は、時として美しい。

 わたしの脳裏には、いつもビニール袋を被り、雨の中を走る鋤柄さんの後ろ姿がよぎるんだ。

 雨は美学だ。

 

 “雨の日にスーパーでビニール袋だけもらい、傘を買わずに濡れて帰る人生。人に頼らず、物に頼らずに。”

 

 そんな鋤柄さんが、雨の日が好きとは思わなかった。

 それとも、雨にうたれるために、傘を持たないのだろうか?

 

 鋤柄さんは、甘くないエビより甘エビが好きだ。

 この甘エビだって、ただの甘いエビではないのかもしれない。

 天にも昇る美味しさ、“天エビ”かもしれないし、もしくは、雨にうたれたい“雨エビ”なのかもしれない。

 だから、鋤柄さんは甘エビが好きなのだろうか?

 

 

 店の戸が開く音がした。

 

 まさか、鋤柄さん!?

 

 かなえは慌てて戸の方を振り返った。

 現れたのは、お決まりの登場、小鯖だった。

 小鯖は、かなえを見つけると当たり前のように隣に座った。

 

「あれ? 先週だけだったのかな。今日は小鯖フェアはやってないですねぇ」

 

「煮込まれたかったんですか?」

 

「え?」

 

「あっ、いや……。好きな天気ってなんですか?」

 

「え? 突然ですね。そりゃ、やっぱり王道の晴れでしょう。なんですか? デートのお誘いですか?」

 

「いいえ、まったく」

 

「ま、かなえさんとの出逢いは、青天の霹靂ってところですかね」

 

 青天じゃなかっただろう。

 雨が降りだした夜だ。

 傘がない鯖男は、『おあいそ』の店先で傘を借りた。

 その傘を返しに来て、わたしと再び出会う。

 そこだけ見たらドラマチックだ。

 だけど、この鯖男はやっぱり嫌だ。

 割とイケメンかもしれないのに。

 

「僕は、雨の日が嫌いですよ。とくに突然の雨はね」

 

「!!」

 

「でも、この店には傘があってよかった。借りれるし。まっ、ぼろだったけど」

 

 やっぱりこの鯖は無理過ぎる!

 鋤柄さん、煮込みましょう!!

 

 

 ノートにある“鋤柄直樹(仮)”の“文字”に返信でもするように、かなえは続きを書いた。

 

『わたしは昔、雨の日がそこまで好きではありませんでした。けど、『ことだま』に行って好きになりました。雨は美しい。鋤柄さんにとって甘エビは、もしかして天エビですか? それとも、雨エビですか?』

 

 かなえはノートを閉じると、回転するレーンにノートとボールペンを戻した。

 

 わたしにも、特別な出逢いがありますように。

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