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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第1章 見えない君を見つめてる
3/35

言霊

「今日金曜日か……」

 

 オフィスでかなえは呟いた。

 

「何かあるんですか?」

 

 すかさず後輩の美智子が、かなえに話しかける。

 

 また人の不幸話を期待しているのだろう。

 

「『その感情に名前をつけたなら』ってドラマ知ってる?」

 

「なんですか? それ」

 

「やっぱ、そうだよね。そうなるよね」

 

 予想通りの反応だった。

 そんなドラマ、わたしだって知らない。

 あれは、地上波ではやっていないドラマだったのか。なら一体どこで?

 まさか、あの店の中だけで流れている?

 先週見た、奇妙な戦隊モノのドラマのことが頭から離れなかった。

 そして何より、ずっとあのノートのことが気になっている。

 

 

 夜、かなえは一旦帰宅した。

 

「やっぱり行こっ」

 

 迷ったが、かなえは家を出た。

 しばらく歩いていると、暗闇の中に、明かりがついた一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『ことだま』とある。

 どうやらそれは、ラーメン屋らしかった。

 先週と同じ光景で、奇妙な店は昔からあったように同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々とラーメンを食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 店内には一台のテレビがあり、テレビの横には一冊のノートとボールペンが置かれていた。

 奥では店主らしき人物が麺を湯切りしている手が見える。

 かなえは、券売機で醤油ラーメンのボタンを押す。食券を厨房のカウンターへと出した。

 食券を出すなり、顔が見えない店主からすぐに醤油ラーメンが出てきた。

 どうやらこれも、先週と同じ光景だ。

 かなえはテレビの横の席に座った。

 テレビでは、『その感情に名前をつけたなら』の先週の続きが放送されていた。

 

 ×  ×  ×

 

 改造人間になった若い男シオンは、愛するアルマを救うため、怪人エモーションのもとへ。

 

 シオン「出たなエモーション! アルマを返せ!」

 

 エモーション「出たなも何もないじゃないか。そっちからやって来たんじゃないか」

 

 シオン「もう昔のシオンじゃなくってよ」

 

 ×  ×  ×

 

 ついているテレビを見ている者はおらず、皆黙々とラーメンを食べていた。

 テレビの横にあるノートに目が行く。古くぼろいノート。その横にはボールペンがひとつ。ラーメン屋の油でも吸ったのか、ノートは少し波打っていた。

 かなえは、ノートを手に取り開いた。

 

「あっ、書いてある!」

 

 そこには、続きの“文字”が書かれていた。

 

『僕達の心は、理性を失い、怒りと憎しみに満ちた時、きっと怪人以上に化け物になってしまう。』

 

 かなえは、思わずテレビに目を向けた。

 

 ×  ×  ×

 

 変身し、エモーションと戦うシオン。

 

 ×  ×  ×

 

 このラーメン屋で、テレビに目を向ける者はいないと思っていた。

 しかし、このノートに“文字”を書く人物は、このドラマを見ている。

 

 ノートにある“文字”に返信でもするように、かなえは続きを書いた。

 

『誰かを救えばヒーローで、危害を加えれば怪人。それは人間の物差しでしかない。別の生き物から見れば、人間は怪人かもしれない。いや、改造してしまえばどちらももう化け物じゃないか。』

 

 かなえはノートを閉じた。

 

 どうやら、少しラーメンが伸びてしまった。

 かなえは慌ててラーメンをすすった。

 

 

 言霊。それは、言葉に宿っていると信じられている不思議な力。

『ことだま』、この店のノートの“文字”にも何かが宿るのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実際に言霊ってあると思います! ノートでの不思議なやり取りにドキドキです(๑>◡<๑)
2022/01/26 14:23 退会済み
管理
[一言] 今日のお昼はラーメンでした!
2022/01/04 17:37 退会済み
管理
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