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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第2章 見えない君を探してる
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嫉妬?

 まだ、『ことだま』での出来事が頭から離れないでいる。

 しかし、今日わたしには行かないといけない場所がある。

 金曜日の夜が来た。確かめなくては……

 

 しばらく歩いていると、一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『おあいそ』とある。

 奇妙な寿司屋は、今日も同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々と回転寿司を食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 奥では店主らしき人物が寿司を握っている手が見える。

 かなえは、店内を見回すと、すでに小鯖の姿があった。

 かなえは小鯖の隣へと向かった。

 

「かなえさん! 嬉しいなぁ。まさか、かなえさんから隣に来てくれるなんて」

 

「あの……、小鯖さんって右利きですか?」

 

「はい? まぁ、はぁ……」

 

 かなえは鞄からメモ帳を取り出し、小鯖の前に突き出した。

 

「ここに、左手で文字を書いてもらってもいいですか?」

 

「はい?」

 

「『鋤柄』って書いてもらっていいですか?」

 

「左手で!? 難しいなぁ……。これ書けるかな……? サイン集めでもしてるんですか? なら、僕の名前小鯖なんだけど……。かなえさん、この文字がお好きなんですか?」

 

 ぶつぶつ言う鯖に、左手で“文字”を書かせてみた。

 それは、想像以上にとんでもなく下手クソだった。

 “文字”というよりは、汚い落書きだった。

 これは絶対に鋤柄さんではない!!

 ついに証明された!!

 これで、安心してお寿司が喉を通りそうだ。

 

 回転レーンに乗った寿司が目の前を通過していく。

 回転する寿司レーンの中に一冊のノートとボールペンが乗った皿が現れた。

 やがてそれは、かなえのもとへと回ってくる。

 そこには、『書いたらお戻しください』とあった。

 

 そうだ、今日このノートで尋ねてみるという方法がある。

 鋤柄さんに、マグカップの絵柄はいつもどちらを向いているか、是非尋ねてみよう。

 

 かなえは動いているレーンから、ノートとボールペンを手に取った。

 かなえは、ノートを開く。

 そこには、“鋤柄直樹(仮)”からの続きの“文字”が書かれていた。

 

『そういえば、かなえさんに聞きたいことを書くのを忘れていましたね。あなたにはもう、素敵な方がいるのではありませんか?』

 

 !!!

 えっ……、鋤柄さん!?

 なにそれ!? どういうこと?

 てか、これが、鋤柄さんからのはじめての疑問文!?

 

 なんで知ってるの? 知ってるってのもおかしいけど。

 これって、横で鯖を食べるこの鯖男のこと?

 いや、それとも大河原さん!?

 違うの、これは!!

 待って、鋤柄さん、一体どこで見てるの!?

 まさか、今、この中に鋤柄さんがいる!?

 

 かなえは、立ち上がって辺りを見回す。

 周囲は黙々と寿司を食べている。かなえのリアクションにも無反応だった。

 

 ダメだ、もはや全員が鋤柄さんに見える……。

 もしかして、鋤柄さんは、わたしのことを知ってる?

 わたしが“中条かなえ”だって知ってる?

 でも、その可能性は十分にあった。

 何故ならわたしも“鋤園直子(仮)”だからだ。

 知ってて近くで見ている可能性だってあるんだ。

 鋤柄さんは、いつも身近でわたしを見ている人?

 急に怖くなった気もする……。

 

 え? というか、これ、鋤柄さん拗ねてる?

 もしかして、嫉妬? これ、嫉妬してるの?

 そんなことあるのかな……。

 いや、そんなことあるわけない!

 わたしはそんなイイ女じゃない。嫉妬されるような女じゃない。

 なら、逆に恋のキューピット?

 鋤柄さんは、この横にいる鯖男との恋のキューピットってこと!?

 そんなの、めちゃくちゃ嫌!!

 

「あーー! 鋤柄さん!!」

 

 店内にかなえの声が響いた。

 周囲は黙々と寿司を食べている。かなえの声にも変わらず無反応だった。

 一人だけ反応したのは、隣にいる小鯖だった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 わたしはこんな鯖男全く好きではありません!!

 わたしが好きなのは……

 わたしが好きなのは、鋤柄さんです。

 

 書けない……

 そんなこと、このノートには書けない。

 だって、鋤柄さんまた消えちゃうでしょ?

 

 ん? あれ? これ裏にも何か“文字”が書いてある!?

 

 かなえは慌ててノートをめくった。

 そこには、“鋤柄直樹(仮)”からの更に続きの“文字”が書かれていた。

 

『僕は、魚鋤なべをします。鋤柄なので。せっかくなので、今度は外に出て、河原で鯖でも入れて煮込んでみますか?』

 

 かなえは驚きのあまり、ノートを落とした。

 

 鋤柄……さん?

 突然、こ……怖すぎる!!

 “河原”で“鯖”でも入れて!?

 鯖って……この横にいる、鯖男のこと……!?

 鯖を煮込む!?

 河原で? 河原って……あの大河原さん!?

 

 怖い怖い怖い!!

 え、どういうこと!?

 こんな鋤柄さん、見たことない!

 まぁ、本当に一度も見たことないんだけど。

 

 鋤柄さんの、はじめての質問は恐ろしいほど怖かった。

 え、これ……。わたし、どうお返事するの?

 

 結局、お寿司は喉を通らなかった。

 あの、わさびなすですらも。

 

 “鋤柄さん、『ことだま』にも行かれてるんですか!?”

 その返事は、直接ノートには書かれていなかった。

 けど、ノートの“文字”が全てを物語っていて、鋤柄さんはわたしの全てを知っているかのようだった。

 

 かなえはしばらく考えた。

 そして、ノートにある“鋤柄直樹(仮)”の“文字”に返信でもするように続きを書いた。

 

『わたしは、ラーメンが鋤です。お寿司が鋤です。そして、目に見えないものが鋤です。わたしはやっぱり怪人じゃないみたいです。素直に生きられない。このノートの中でだけ、鋤柄さんの前でだけ、わたしは素の自分でいられるんです。』

 

 かなえはノートを閉じると、回転するレーンにノートとボールペンを戻した。

 

 かなえは、好きなのは“小鯖”でも“大河原”でもないと思わせることに必死だった。

 鋤柄の“文字”は怖かったが、これでまた鋤柄が消えてしまうことも怖かった。

 好きだとは書けない。逢いたいとも書けない。

 “好き”と書けないからこその、せめてもの“鋤”だった。

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