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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第2章 見えない君を探してる
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約束の場所

 金曜日、かなえは、気になり過ぎてあの店へと向かっていた。

 しばらく歩いていると、一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『おあいそ』とある。

 奇妙な寿司屋は、今日も同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々と回転寿司を食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 奥では店主らしき人物が寿司を握っている手が見える。

 かなえは、あいているカウンター席に座った。

 今日も、回転レーンに乗った寿司が目の前を通過していく。

 

 店の戸が開く音がした。

 

 まさか、鋤柄さん!?

 

 かなえは慌てて戸の方を振り返った。

 しかし、現れたのは小鯖だった。

 小鯖は、かなえを見つけると当たり前のように隣に座った。

 

 今日はいつもより来るのが早いじゃないか。この鯖男!

 

「約束しなくても逢える関係って素敵ですよね?」

 

「約束?」

 

「そう。毎週金曜日、約束してないのに僕は『おあいそ』で、かなえさんに逢える」

 

「!!」

 

「僕は、かなえさんに逢うために、毎週ここに来てますよ」

 

 小鯖は、かなえに真剣な眼差しを向けた。

 

 これは人生最後のモテ期か? モテ期到来なのか!?

 寿司屋『おあいそ』の顔の見える鯖男の君。

 ラーメン屋『ことだま』の名乗らぬ文字だけの君。

 みんなわたしに逢いたい……だと?

 

 だけど、わたしは……

 鋤柄さんに逢いたい!!

 今すぐ、鋤柄さんに逢いたい!!

 鋤柄さんは見えないけど、鋤柄さんしか見えない!!

 そう、わたしは鋤柄さんに逢うためにこの店に来ているのであって、決してこの鯖男と会うためではない!!

 

 約束……

 そうだ。鋤柄さんは約束を取り付けても現れない人だ。

 わたしが来る日を伝えたって現れてくれない。

 いや、もしかしたら、とっくに現れてるのかもしれない。

 ただ、鋤柄さんが誰なのか分からないから、永遠に出逢えないんだ。

 もしかしたら、いつも擦れ違っているのかもしれない。

 だけど、鋤柄さんはわたしを探してくれない。探そうともしていない。

 それはノートの“文字”からでも伝わってくる。“文字”だけなのにだ。

 

「わたしは、いつもこんなに探してるのに!!」

 

 思わず声が出てしまった。

 

 周囲は黙々と寿司を食べている。かなえの声にも無反応だった。

 一人だけ反応したのは、隣にいる小鯖だった。

 

「何を探してるんですか? もしかして、わさびなすですか? 注文しましょうか?」

 

 そんなわけないだろ! この鯖男!

 

 すると、まるでかなえの声を聞いたかのように、回転する寿司レーンの中に一冊のノートとボールペンが乗った皿が現れた。

 やがてそれは、かなえのもとへと回ってくる。

 そこには、『書いたらお戻しください』とあった。

 かなえは動いているレーンから、ノートとボールペンを手に取った。

 かなえは、ノートを開く。

 そこには、“鋤柄直樹(仮)”からの続きの“文字”が書かれていた。

 

『人間はもともと愚かな生き物です。でも、怪人エモーションは、人間のお一人様に優しい一面もあるようです。』

 

 鋤柄さん!!!

 あなた、今も『ことだま』に行ってるんですか!?

 絶対これ、行ってるってことじゃないですか!!

 こうやって伝えてくれる感じ、オシャレです!!

 これはもう、わたしも通うしかありません!!

 というか、そもそもあの怪人の討論番組、他にどこで放送してるんですか!?

『ことだま』でしか見たことないんですけどー!!

 

 

 小鯖は、かなえが手にするノートの存在に気がついた。

 

「それって、寿司と違って無料なんですね?」

 

 こいつは、何を言っているのか?

 今更このノートの存在に気がついたというのか?

 

「『ことだま』って店、知ってますか?」

 

「ことだま?」

 

「知らないなら別にいいんです」

 

「美味しいんですか? 何屋さんですか? もしかして僕へのお誘いですか?」

 

 知らないならそれでいい。

 知らないに越したことはない。

 これ以上絡んでこないでくれ。

 やはりこの人は鋤柄さんではなかった。

 分かっていたことだ。

 鋤柄さんであってほしくもないけれど。

 やはりこの鯖男は邪魔だった。

 割とイケメンかもしれないのに。

 

 ノートにある“鋤柄直樹(仮)”の“文字”に返信でもするように、かなえは続きを書いた。

 

『鋤柄さん、『ことだま』にも行かれてるんですか!?』

 

 かなえはノートを閉じると、回転するレーンにノートとボールペンを戻した。

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