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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第2章 見えない君を探してる
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鋤柄手法

 火曜日がやって来た。

 かなえの足は、あの店に向いていた。

 鋤柄さんの件で舞い上がっていたが、わたしには鋤園さんの件があった。

 

 暗闇の中に、明かりがついた一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『ことだま』とある。

 奇妙なラーメン屋は、今日も同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々とラーメンを食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 店内には一台のテレビがあり、テレビの横には一冊のノートとボールペンが置かれていた。

 奥では店主らしき人物が麺を湯切りしている手が見える。

 かなえは、券売機で醤油ラーメンのボタンを押す。食券を厨房のカウンターへと出した。

 食券を出すなり、顔が見えない店主からすぐに醤油ラーメンが出てきた。

 かなえはテレビの横の席に座った。

 

 テレビでは、今週も『真剣怪人しゃべくり場』が始まった。

 

 ×  ×  ×

 

 エモーション「この番組は人間の生態を調べる実験を繰り返した怪人が、現代を生きる人間と対談し、疑問を解消していく番組だ。司会はわたし、怪人エモーションだ! そして、怪人代表はアルマ。人間代表は、改造人間シオンでお届けする」

 

 シオン「どうも、人間の感情をちゃんと持っています。シオンです」

 

 アルマ「感情とは一体なんでしょうか。アルマです」

 

 エモーション「さぁ、それでは今週の議題といこう。今週はお一人様について考える。人間は単独行動する人間に対し“お一人様”と呼び名をつけているようだ」

 

 アルマ「そもそも、一人であることは当たり前のことでは? 怪人も一人です。人間は集団行動を推奨しているんでしょうか? 気持ち悪い習性ですね」

 

 シオン「だって、一人なんて寂しいじゃないか。大人数は楽しいよ」

 

 エモーション「“様”をつけるあたりに、一人でいることに対し、よろしくない感じが見え隠れしている」

 

 アルマ「人目を気にして一人でラーメンを食べられない女がいるらしいですね」

 

 シオン「まぁ、確かに、女性一人では、油がギトギトしたラーメン屋には入りにくいかもしれない。ノートがパラパラというより、パリパリとめくれるお店とかは特にそうだ」

 

 アルマ「諦めたその店のラーメンが美味しかったらどうするの? 出会いを一つ捨てていることになります」

 

 シオン「それでも、一人で行くのが億劫な人だっているでしょう。誰もが怪人のように心が強くないんです」

 

 エモーション「では、一人でどこにも行けないという人間に、怪人がいいことを教えてやろう。いいか、本格的なカメラを持って行け!!」

 

 シオン「カメラ!?」

 

 エモーション「カメラさえ持てば、人間はどこへでも一人で行くことができる。カメラを極めるための行動だと、世間様に猛アピールをするのだ。これは男女問わず効果を発揮するだろう」

 

 アルマ「さすがです! 是非ファミレスにもカメラを持って行きましょう!」

 

 エモーション「わたしは、カメラを構えれば誰でも撮れる絶景より、偶然撮れた奇跡の一瞬が好きだ! これこそもっと評価されるべきだ! そう思わないか!」

 

 シオン「議題がずれてませんか?」

 

 ×  ×  ×

 

 本格的なカメラか……

 わたしにはどうやら必要なかった。

 わたしは今や、無敵の“お一人様”だからだ。

 そして、この男性客ばかりの『ことだま』にも何も感じていない。

 麻痺したと言った方が近いのかもしれない。

 このラーメン屋に入らなかったら、わたしに鋤柄さんとの出逢いはなかった。

 だから、『ことだま』は、わたしにとって大切な場所だ。

 

 かなえは、テレビの横にあるノートとボールペンに手を伸ばした。

 ノートを開くと、そこには、続きの“文字”が書かれていた。

 

『鋤園さん、はじめまして。今度、一緒に怪人の討論番組を見ませんか? このノートがあるテレビの横の席で。』

 

 えっ……!

 これって、まさか、会いましょうってこと……!?

 

 なんてことだ!

 というか、距離縮めるの、早くないですか?

 自分の名前は名乗らずに。まぁ、わたしも本当の名前を名乗ってないですけど。

 わたしはもっと、当時は鋤柄さんとやり取りしたし、婚活パーティーのこととかいろいろ相談もしたし。もっとどんな人生を過ごしてる人とか、傘を差す、差さないとか、雨の日にビニール袋を被るかどうかとか、いや今はエコバッグ被ってるよとか……

 聞くこといっぱいあるでしょうよ!!

 

 かなえは返事に困った。

 こんな時は、どうしたら……

 

 かなえの出した答えは、“白紙”だった。

 ノートから消える。

 それは、“鋤柄直樹(仮)”と同じ手法だった。

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