表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第2章 見えない君を探してる
23/35

悶絶案件

 金曜日、かなえは、それでもあの店へと向かっていた。

 しばらく歩いていると、一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『おあいそ』とある。

 奇妙な寿司屋は、今日も同じ場所に存在していた。

 かなえは、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々と回転寿司を食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 奥では店主らしき人物が寿司を握っている手が見える。

 かなえは、あいているカウンター席に座った。

 

 回転レーンに乗った寿司が目の前を通過していく。

 かなえは流れてきた寿司が喉を通らなかった。

 そして、ある一皿をずっと待っている。

 しばらくすると、回転する寿司レーンの中に一冊のノートとボールペンが乗った皿が現れた。

 やがてそれは、かなえのもとへと回ってくる。

 そこには、『書いたらお戻しください』とあった。

 かなえは動いているレーンから、ノートとボールペンを手に取った。

 緊張が走る。先週白紙だったノートを目の前にし、指が震えた。

 かなえは、恐る恐るノートを開く。

 そこには、“鋤柄直樹(仮)”からの続きの“文字”が書かれていた。

 

『かなえさんへの質問を考えていたら、時間がかかってしまいました。』

 

「鋤柄さん!!!」

 

 かなえは思わず立ち上がり、声をあげた。

 そして、我に返り、辺りをきょろきょろして静かに座った。

 周囲は黙々と寿司を食べている。かなえのリアクションにも無反応だった。

 

 鋤柄さーーん!!

 なんと、わたしの名前を呼んでくれた!!

 もうこれは、悶絶案件である。

 鋤柄さん、ずっと、わたしへの質問を一生懸命考えてくれてたんだ!!

 マジ、尊ーい!!

 そして、疑ったわたしの大馬鹿野郎ーー!!

 

 え? でも、待って……

 結局、わたしへの質問は?

 

 ノートをいくらめくっても、肝心な“かなえへの質問”は書かれていなかった。

 

 書いてないじゃん!!

 結局書き忘れたの? それともまだ考え中!?

 でも、いっか。

 わたしのことを、ずっと考えてくれてたんだもん!!

 

 

 流れてきた寿司が、突然喉を通るようになった。

 嬉しくて何皿も甘エビを食べた。

 味覚よりも嬉しさが増して、どうやら味が分からない気がした。

 それでも満足だった。

 

 ノートにある“鋤柄直樹(仮)”の“文字”に返信でもするように、かなえは続きを書いた。

 

『わたしに興味ないのかと思いました(笑)。人間はいつか死んで消えてしまうのに、今甘エビを食べています。人間は頭がおかしいと思いますか?』

 

 かなえはノートを閉じると、回転するレーンにノートとボールペンを戻した。

 甘エビに続き、アナゴを食べることにした。

 

 突然、店の戸が開く音がした。

 

 まさか、鋤柄さん!?

 

 かなえは慌てて戸の方を振り返った。

 しかし、現れたのは小鯖だった。

 小鯖は、かなえを見つけると当たり前のように隣に座った。

 

「あれ? 今日はなんだかご機嫌ですね? わさびなすじゃないし。おっ、アナゴですか?」

 

「美味しい食べ物は、全て茶色なんですよ」

 

「かなえさんって、やっぱり面白い人ですね」

 

 やっぱりって、なんだよ!

 

 かなえは、アナゴを口に運ぶ。

 

 味覚よりも嬉しさが増して、どうやら味が分からない気がした。

 それでも満足だった。

 鯖男が横で何かを言っている気がするが、今日はさほど気にならない。

 

 わたしは、やはりお金で幸せを買っている。

 ラーメン屋『ことだま』に異常に通っていた、あの頃と何も変わっていない。

 全ては、いつか鋤柄さんに出逢うため……

 人間はやっぱり、頭がおかしいのかもしれない。

 怪人の言う通りだ。

 

 わたしが迷うことなくお金を支払えるものは、間違いなく時間である。

 きっとお寿司ではなく、わたしはこの時間にお金を支払っている。

 どうせ死ぬのにだ。

 どうせ死ぬなら、全ていらないことになってしまう。

 でも、どうせ死ぬとしても、この時間は無駄じゃない気がした。

 とは言え、わたしは、人生のもとをとれているのだろうか?

 

 鋤柄さんは、今どうしているのだろう。

 まさか、今この店内にいたりして。

 え? 待って!

 なら、もし、これを鋤柄さんがどこかから見ていたら……どう思うの!?

 この横にいる鯖男!!

 めちゃくちゃ、邪魔じゃん!!

 こいつ、なんだと思われるの!?

 

 急激に鯖男が邪魔になった。

 割とイケメンかもしれないのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ