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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第1章 見えない君を見つめてる
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出逢い

 オフィスで後輩の美智子が、かなえに話しかけた。

 

「先輩、じゃあ合コンセッティングしますよ! 出会いのチャンスですよ!」

 

「いいよ別に。わたし合コンに良い出会いがあると思えないんだよねー」

 

 頼んでない。

 まるで、結婚がこの世界のすべて。女の幸せのすべてだとでもいうのか。

 だとしたら、そのお前の考えの方が古くて、とてもおばさんである。

 これは、別に強がっているわけではない。

 

「そんなこと言わないでくださいよ。ラストチャンス掴んでください!」

 

「ラストチャンスって……」

 

 より不快な一言を付け加える。

 

 

 この日、かなえは残業があったため、いつもより遅い帰宅となった。

 

「遅かったね」

 

 リビングにはひとみの姿があった。

 

「ちょっと残業がね。ご飯って残ってる?」

 

「え、食べてないの?」

 

 どうやら、かなえの分の夕食、いや、夜食は無いようだった。

 かなえは、どうしようかと考えつつ、ふと玄関を見た。玄関に置かれた傘立てには、少しぼろい傘が立てられている。

 

 

 そういえば、先週の金曜日、借りた傘があのままだ。

 

「ちょっと外出てくわ」

 

 ひとみに言い残し、傘を手にすると、かなえは家を出た。

 

 しばらく歩いていると、暗闇の中に、明かりがついた一軒の店が見えてくる。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『ことだま』とある。

 どうやらそれは、ラーメン屋らしかった。

 先週と同じ光景で、奇妙な店は昔からあったように同じ場所に存在していた。

『ことだま』の店前には空っぽの傘立てが置かれていた。かなえは借りた傘を戻すと、店の戸を開けた。

 

 数人の男性客が黙々とラーメンを食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 店内には一台のテレビがあり、テレビの横には一冊のノートとボールペンが置かれていた。

 奥では店主らしき人物が麺を湯切りしている手が見える。

 かなえは、券売機で醤油ラーメンのボタンを押す。食券を厨房のカウンターへと出した。

 食券を出すなり、顔が見えない店主からすぐに醤油ラーメンが出てきた。

 どうやらこれも、先週と同じ光景だ。

 かなえはテレビの横の席に座った。テレビでは、ドラマらしきものが放送されているようだ。

 

 ×  ×  ×

 

 若い男、シオンが改造人間になっている。

 

 シオン「これで今日から俺は正義のヒーローだ! 愛するアルマを怪人エモーションからこの手で取り戻すのだ!」

 

 ×  ×  ×

 

「なにこれ。この店で見る人いないでしょ」

 

 テレビでは戦隊モノのような何かが放送されている。

 ついているテレビを見ている者はおらず、皆黙々とラーメンを食べていた。

 テレビの横にあるノートに目が行く。古くぼろいノート。その横にはボールペンがひとつ。ラーメン屋の油でも吸ったのか、ノートは少し波打っていた。

 誰かの忘れものとしては考えにくい。

 

 そういえば、先週来た時もこの場所にこんなノートが置かれていたような。

 視界にぼんやり入っていた気がする。

 

 かなえは、なんとなくノートを手に取り開いてみた。

 そこには、“文字”が書かれていた。

 

『愛する人を失ったという。でも、愛する人がいただけでも君は十分幸せだったんじゃないのか?』

 

 !!!

 誰も愛せないわたしは、残念な人だ。

 でも、誰からも愛されないわたしは、もっと残念な人なのかもしれない。

 そう心の中で叫んだ先週のわたしの声が、また聞こえてきそうになった。

 

 ×  ×  ×

 

 ウエディングドレスを試着する若い女、アルマの写真にシオンの涙が落ちる。

 その様子を違う世界から水晶玉越しに見ている怪人エモーション。

 

 エモーション「これが人間にしかない感情か」

 

 ナレーション「果たしてシオンは恋人アルマを救い出せるのか。次回『求められてこそヒーロー』ご期待ください! 金曜ドラマ『その感情に名前をつけたなら』お昼に再放送もやってるよ」

 

 ×  ×  ×

 

「これ、ドラマなの?」

 

 テレビで放送されていたのは『その感情に名前をつけたなら』という見たことのない戦隊モノのドラマだった。

 かなえは“文字”が書かれたノートに、まるで返事でも返すように続きを書いた。

 

『誰かを心から愛せたら幸せなのだろうか? 結婚することが幸せなのだろうか?』

 

 かなえはノートを閉じると、ため息をひとつついた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノートでのやり取りは会話とはまた違う楽しみがありますよね(*´꒳`*)
2022/01/26 14:19 退会済み
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