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文字だけの、見えない君を探してる。  作者: 佐藤そら
第1章 見えない君を見つめてる
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お愛想

 かなえはその日、ある場所へと向かっていた。

 そこは、初めて来る場所だった。

 しばらく歩いていると、一軒の店が見えてくる。

 どうやらそれは、寿司屋らしかった。

 店の戸には、のれんがかけられており、そこには『おあいそ』とある。

 

 かなえは、寿司屋の戸を開けた。

 数人の男性客が黙々と回転寿司を食べている。かなえに目を向ける者はおらず、店内は異様な空気が漂い静まり返っていた。

 奥では店主らしき人物が寿司を握っている手が見える。

 店主の顔は見えないが、この雰囲気からして『ことだま』の系列店であることは間違いなかった。

 

 客として迎えられている感じはしなかったが、もうそれには慣れたもんだ。

 かなえは、あいているカウンター席に座った。

 回転レーンに乗った寿司が目の前を通過していく。

 特にこれといって不自然な点はない。

 かなえは流れてきた寿司を手に取り、食べ始めた。

 それは、少ししてからのことだった。

 

 !!!

 

 かなえは自分の目を疑った。

 想いが募り過ぎて、ついに幻覚を見てしまったのかと震えた。

 回転する寿司レーンの中に、一冊のノートとボールペンが乗った皿があったのだ。

 

 えっ!?

 嘘でしょ……

 

 やがてそれは、かなえのもとへと回ってくる。

 『書いたらお戻しください』とあった。

 

 これは!!!

 

 かなえは動いているレーンから、ノートとボールペンを手に取った。

 寿司屋の酢でも吸ったのか、ノートは少し波打っていた。

 かなえは、ドキドキしながらノートを開いた。

 

『この店もなかなか美味しい。ここにも通いそうだ。 鋤柄』

 

「鋤柄さん!!」

 

 思わず大きな声が出てしまった。

 周囲は黙々と寿司を食べている。かなえのリアクションにも無反応だった。

 かなえはノートの“鋤柄直樹(仮)”の“文字”を見つめ、笑顔になった。

 

 たまらなく嬉しくなった。

 わたしは回転寿司だった。手軽につまめる回転するネタだった。

 

 

 店の外に出ると、店の戸にかけられたのれんの『おあいそ』の文字が風で揺れている。

 

 わたしは、君を愛そう。

 そしていつか、ここで君に逢いそう。

 

 人は、人の何を愛しているのだろう。

 顔? 性格? その人の何を見ていて、一体何が好きなのだろう。

 良い人と好きな人は違う。

 恋愛と結婚は違う。

 

 ねぇ、文字だけの君。あなたは一体誰なの?

 本当はどんな名前?

 何歳?

 顔はイケメン?

 声はイケボ?

 塩ラーメン食べ過ぎてまさか太ってる?

 わたしは、鋤柄さんの“文字”しか知らない。

 

 だけど、わたしは、“文字”だけの、見えない君を見つめてる。

 

 

 『おあいそ』の店主の口元は、厨房でニヤリと笑った。

物語は第二章へ。

中条かなえに、更なる出逢いが!?

果たして、鋤柄直樹(仮)に逢えるのか……

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