0:昔の妹と違うので理解するのが大変です(8)
「ほいよ」
「ありがと」
真結に、お茶の入ったペットボトルを渡す。
喉が渇いていたのか、もうすでに3分の1を飲み干した。
現在、午後18時
綾瀬さんの彼氏の浮気調査として駆り出された俺と真結は、現在、グラウンドでミーティングをしているサッカー部の活動終了を待っていた。
先輩と明は、別に用事があるらしいので、参加はしなかった。
情報資料によると、彼氏の名前は、木本 将平と言うらしい。
俺と同じ高校2年生であり、サッカー部のキャプテンでエースだ。
そして、綾瀬さん曰く、困ったら助けてくれるとても優しい人みたいだ。
「兄貴と違ってイケメンね。」
「余計なお世話だ。」
俺は、普通を目指してるんだ。
イケメンでなくても……いや、そう生まれてきたかった。
真結の顔は可愛いのに、俺はいったい何処で遺伝子変異が起こったのか……
「左足に義足付けてる。」
「あれで、サッカーのキャプテンでエースなんだから、かなりの努力をしてきたんだろうな。」
「浮気をするような人だとは思えないね。」
「人は見かけによらないからなー。……て言うか、浮気は浮ついた気持ちのことを示すから、別に浮気はしても良いんじゃないか? NTRがダメなだけだろ?」
「はぁ? キモ。」
一言で論破された。
「あっ、木本が動いたな。」
「追うよ。」
浮気調査と言うよりは、ストーカーに近いことをしている。
相談者こと綾瀬さんが言うには、サッカー終了後に別の子とデートしている可能性が高いらしい。
もう一度、グラウンドの方を見ると、綾瀬さんは、まだ陸上100mの自主練をしていた。
大会が近いと言ってたし、心の中でエールを送っておいた。
***
学校の正門
そこには、綾瀬さんの彼氏である木本と知らない女性が話していた。
「浮気ね。」
「いや、まだ決めつけるのは早いだろ!」
俺らは、コソコソとストーカーを続けている。
「由井さん、待っててくれてありがとう。」
「ぜんぜん、待ってないよ。」
お互いに笑顔で話し合っていた。
放課後に女性と帰るなんて、俺からしたらあり得ないことだが、あのイケメンであればあり得なくもない。
「もしかすると、相談とか妹とかのオチなんじゃないか?」
「いや、あれは完全に浮気ね。 お互いに愛し合ってる顔をしているし……」
なんか楽しそうだな……
てか大体、異性関係ってあんな感じなんじゃないですかね?
俺の人生では、全く身に覚えがないけど……自分で言ってて悲しくなってきた。
「あっ、2人が動いたよ。追う……兄貴なんで泣いてんの?」
「いや……俺もあんな感じで可愛い女の子と話してみたいなって……」
「ここにいるじゃない……」
「えっ? 何か言ったか?」
声が小さくて聞き取りずらかった。
なぜか、真結は顔を赤くして、足を蹴ってきた。
「いてっ、何すんだよ!」
「アホな顔してたから蹴っただけ! 追うよ!」
それは、酷くないか?
***
そうして、20分ほどストーカー(浮気調査)を続けていたが、それっぽい行動は見られていない。
「綾瀬さんの勘違いだったのかもな……」
「まだ、決めつけるのは早いくない? 多分だけど、あの女の家に向かっていると思うし。」
確かに、決めつけるのは早いかもしれない。
情報によると、木本の帰路はこの方角じゃない。
真逆である。
ただ、決めつけのことを真結に言われたくないが……
「送り迎え的な奴なんじゃないのか?」
「待ち合わせをしておいて、それは意味が分らないけど……」
「マネージャーとかの可能性があるんじゃないか?」
「それはそうだけど……」
そんなことを話していると、ある家の前で2人は歩みを止めた。
そして、立ち話を始めだした。
「あの女の家じゃない? 声が聞き取りずらい……もうちょっと近づいて……」
「いや、待てっ……」
その時だった。
木本は、女性の身体に腕を回してキスをした。
数秒だけ時が止まる。
まじかよ……
そして、笑顔で別れの挨拶をした木本が、こちらに向かって歩いてくる。
「やばい、見つかるぞ。 早く逃げ……」
その判断は時すでに遅しであった。
真結は、木本の元へと走って行き、蹴りをかましていた。
木本は吹き飛ばされて、倒れている。
真結は女性とは思えないほどの力を秘めているようだ。
「あんたは最低の男ね!」
「誰なんだ。 いきなり……君は!」
「綾瀬さんは、あんたのことすごく尊敬してたし、相談にも乗ってくれる良い人だとも言ってた。でも、あんたは今、それを裏切るようなことをした。」
「お前、見てたのか……その制服、綾瀬の友達か?」
「違う。相談部の部員で、廣上 真結、綾瀬さんから浮気調査をしてと頼まれて来ただけ!」
真結は、個人情報と相談者だけでなく、相談内容もばらしてしまった。
忠告しておくべきだったな……
「相談部? あーなるほどな、そういうことか……」
ふらふらと立ち上がった。
様子がおかしい。
「はぁー、黙っとくつもりはないんだな。」
「当たり前じゃない。」
「じゃあ……」
真結の胸ぐらを掴み、手を振りかざす木本
真結は、焦って守りの姿勢に入っていた。
やばい、助けないと……
俺は、間に合うとか間に合わないとかを考えず走りだしていた。
「くそっ、もう1人いたのかよ。」
こちらに気づいた木本は、真結を突き飛ばして逃げようとした。
その時……
「将平? ここで何してるの?」
ここにいるはずのない人物の声が、後ろから聞こえてきた。
木本は、立ち止まり、俺の後ろにいるであろう人物に視線をやる。
俺も声のした方に視線を向ける。
そこには、体操服姿の綾瀬さんが立っていた。
ここまで見て頂き、ありがとうございます!
現実世界の事情で執筆が遅れてしまいました。すみません。
次回は、ある意味修羅場回になることが予想されます。お楽しみに!
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