0:昔の妹と違うので理解するのが大変です(6)
帰宅後、俺と真結は話をすることなく、時間だけが流れていた。
現在、俺はダイニングの椅子に腰をかけ、適当にスマホをいじっている。
ガチャ
お風呂場へと続く洗面所のドアが開く音がしたので、そちらを見る。
「お風呂……空いたよ。」
「……分った。」
どう話を切り出して良いか分らない。
自分の頭の整理もできていない。
とにかく、風呂場に向かう。
真結に目を合わせることなく、隣を通りすぎて行く。
洗面所に入り、服を脱いでお風呂に浸かる。
「はぁ――――――、どうするべきか……」
上を向いておばさんからの電話の内容をまとめる。
真結は、多重人格障害のため、学校で上手く行っていなかった。
いじめられていたのは、すでに知っていたことだったが。
でも、まさか、おばさんから見捨てられていたとは知らなかった。
『悪魔の娘』と言っていた。
おそらくだが、性格が変化していくことを指しているのだろう。
俺を預かってくれた親戚のおばさんは、とてもいい人だった。
今でも、困ったら頼って、話を聞いて貰ったり……真結もそうだと勝手に思い込んでいた。
なんやかんやで、幸せな生活を送っているものだと……
「どんな顔して、真結を見ればいいんだ……」
タオルで目を覆い隠す。
でも、話さなければ、たった1人の兄であり家族……
何かを溜め込んでいるに違いない。
いろいろ考えていると、お風呂場のドアがいきなり開いた。
「えっ!」
見上げると、そこにはバスタオル姿の真結が立っていた。
髪を上で束ねており、透き通った白い肌が良く見える。
慌てて、自分の大事なところをタオルで隠す。
あっぶね――――、こんなところで生理現象かよ!
妹で立つとか、俺、まじで超絶変態シスコンやろうじゃねぇーか……
「そんな慌てないで……後、こっちもあまり見ないで……欲しいな///」
「ごっ、ごめん!///」
真結は身体を流し、お風呂に入ってきた。
このお風呂は、大人2人ぐらいならギリギリ入れる。
「後ろ向いてるよっ!」
なんで、恥ずかしがり屋なのに、こんな時は大丈夫なのか疑問である。
ふにっ
真結の足だろうか、太股だろうか、柔らかな肌の感触が背中に伝わってくる。
やばい……いろいろと……
「お兄ちゃん……話したいことがあるんだよね? 話してみて……」
そうか、真結は俺のために気を使ってくれて……
これは、言うべきだろう。
「先に謝っておく。おばさんとの関係に気づいてあげられなくて、ごめん……」
「全然、大丈夫だよ! 言ってなかったしね……でも、ありがとう……」
真結は、俺の背中に頭を置いてきた。
「居場所がなかったんだよね……だから、目を覚ましたときにお兄ちゃんが目の前にいて、焦ったけど安心したの……」
「そうか……」
「それに、昔と同じで優しい部分は変わってなくて、だから、お兄ちゃんに嫌われたくなかった……」
「なるほどな……精神科に行っていたことや多重人格障害のことを黙っていたのは、それが理由だったのか。」
「うん。おばさんみたいに、言ったら見捨てられるんじゃないかって思ってて……でも、お兄ちゃんの推測が当たっていたのはびっくりしたけどね(笑)……だから、いつかは話そうと思ってた……」
真結は、5年間苦しんでいた。
両親が死んで、俺らが別々の親戚に引き渡されることになってから……
俺は、甘えてのうのうと生きてきた。
苦しかったこともあった。
でも、周りに助けてくれる人達がいた。
真結は、助けなしに自分と向き合ってきて……
そして、真結は、いつの間にか心の中に、または、物理的に引きこもるようになってしまったのだろう。
「見捨てない……見捨てるわけがないっ!」
俺は、真結の方に方向転換し、肩を掴み、真っ正面から、心の叫びを伝えた。
「真結は、5年間1人で戦ってきて、すげーよ! 俺なら、自殺していたかもしれない……」
真結は、こちらの顔を真剣に見つめている。
「怖かったのは分る。でも、多重人格だって知ったぐらいで、見捨てるわけがない! それに、俺らは兄妹で、家族だ! そんなことで、簡単に……捨てれない……」
真結の目から頬へと、水がしたたたる。
「これからは、俺を頼れ! もう1人で抱え込まなくて良いだ……これからは……もう……」
「ほんと……に?」
「当たり前だ。」
真結は、俺の胸に顔をうずくめると大声で泣き始めた。
もしかすると、お隣まで聞こえていたかもしれない。
でも、今は、今だけは、心に溜め込んでいたものを吐き出させてあげたかった。
***
5分、いや、それよりも長く泣いていただろうか……
真結は、全てを吐き出して楽になったのか、笑顔になっていた。
「ありがとう! お兄ちゃん! 少し、楽になったかな……」
目をごしごしとバスタオルを掴んで拭く。
少しはだけたバスタオルから、チラッと胸が見えているが、それを見て見ぬふりする。
「てか、別に、お風呂まで入って来ることは無かったんじゃないか?」
「ほんとだね……でも、お兄ちゃんの前でだけ……だよ?」
はいっ、可愛い!
お風呂場で、火照っている頬、髪の艶、可愛い顔、はだけかけのバスタオルが相まって、最強の童貞殺しスキルをお見舞いされる。
「バスタオル……はだけてるぞ。」
「えっ?!」
ばっ、と胸辺りのはだけたバスタオルを直す。
「エッチ……///」
「すまん……///」
青年期なら誰だって見てしまうんじゃないだろうか。
でも、普通、妹には無いか。
俺は、シスコンなんだなー。
「そろそろ上がるね……あっ、そうだ。」
「どうしたんだ?」
「多分、明日になれば、また、私の人格は、別の人格になってると思う。その私が、いきなりお兄ちゃんの家に居たらびっくりすると思うから、今までの話を伝えておいて欲しいの。私は、前もって、おばさんから聞いていて、知っていたからいいけど……」
確かにそれは一理あるな……
「でも、あの日曜のやばい真結の可能性もあるかもな……」
「そうだね……」
「まぁー、別の人格の可能性はあるし、異なっていれば、報告しておくよ。」
「ありがとう。」
そうだ。
前、精神安定剤のことも話たし、俺からも一つ聞いておこう。
「精神安定剤は、飲んだりしていたのか?」
「あー、あれは嘘じゃなくて、本当に飲んでないよ! 多分だけど、日曜の私のじゃないかな……」
「そうか。疑って悪いな。」
「良いよ。私が悪かったの事実だしね。また来週、精神科に行って聞いてみようね。」
「そうだな。」
それより、明日か……どんな人格になっているか、少し楽しみではある。
やばいやつで無ければいいのだが……
「じゃあ、行くね。」
そう言って、真結は、お風呂から上がろうとした。
その瞬間……
「あっ!」
「危ない!」
滑ってこけそうになった真結を抱きかかえた。
柔らかい肌が、自分の肌と密着している。
頭とか打ってないよな……
「真結、大丈夫か?」
返事がない。
まじで、頭打ったのか!
やばい、救急車……
「うーん……」
「真結!」
どうやら、思い違いだったらしい。
こんなタイミングで、怪我でもされたら、天国の両親に殺されかねない。
すると、真結が目を覚ました。
「兄……貴?……えっ、なんで、どういう……」
どんどん顔を赤らめていく真結。
「てかっ、なんで、お風呂場で兄貴が私を抱いてるの! 離してよ!」
さっきと口調が違う……まさか……
「おい、暴れるなって……」
ふにっ
何か柔らかいものを掴んだ。
しっとりしていて、柔らかい。
ずっと触っていたくなるような……
「なっ/// 何してるのよ! この変態、痴漢、死ねぇー!」
思いっきり、腹をワンパンされる。
その破壊力はすごく、洗面所まで飛ばされた。
どこから、そんな力が……
ふと、洗面所の時計を見ると、夜中の0時になっていた。
真結の方をもう一度見る。
腕を組んで、こちらを睨んでいる。
視線が痛い……
「いろいろ質問あるんだけど、それよりも、妹襲うとか最低ー。なんで生きてんの? 早く死ねば……」
さっきの真結とは違い、恥ずかしさやおっとりさの欠片もない。
今回、まじで面倒くさいことになりそうだ……
ここまで、見て頂きありがとうございます!
今回で、一旦、ハズデレ型人格の真結ちゃんの話を終えます。
次回からは、ツンデレ型人格の真結ちゃんの話になります。
ツンデレは馴染みの深い人が多いので、楽しんで頂けるように頑張ります。
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執筆の励みになります!では、次回もお楽しみに!