0:昔の妹と違うので理解するのが大変です(5)
今回は、いつもより少し長いです。
それでは、どうぞ!
「お兄ちゃん。相談部って、具体的にどういったことをするの?」
学校の校門を出たところで、相談部についての質問をしてきた。
「まぁー、場合によるけど、学校の職員室の前に相談箱があるから、そこに『合って相談したい』と記述されている相談者にだけ、週に何回か相談するって感じだな。」
「へーなるほどね。」
「後、様々な先生の雑務の手伝いやイベントでの雑用とか雑用とか。」
「なるほど、雑用なんだね。」
相談部は、雑用ばかりである。
たまに来る相談者は、恋愛話が多数であり、重い話はこれまで一度もない。
また、今日の相談部は、顔出し挨拶だけだったので、早めに解放された。
「他人に対する人見知りを直すのには、良い練習になるんじゃないか?」
「うん。そうだね。お兄ちゃんは、大丈夫なんだけどね。」
「日本文化的にも対人恐怖的な心性を持っている人多いし、あんまり気にすることないと思うぞ。」
「ありがとう。でも、変えたいんだ。私自身のためにも……」
自分を変えるか……俺は、普通になりたい。
中学時代から、思い続けている俺の信念みたいなものである。
皆に共通する普通意識みたいな世界を見つけられさえすれば、普通になれるのかなー。
でも、そもそも普通なんてあるのだろうか?
「どうしたの?」
「いや、俺もできる限り協力するからな。」
「お兄ちゃんは優しいね。」
手で、口元を押さえながら小さく微笑む真結を見て、これから共に学校生活を送れる嬉しさが湧き上がってきた。
「そう言えば、人見知りはいつからなんだ?」
そう言うと、真結は困ったような顔をし、「いつからなんだろうね?」と答えた。
少しの沈黙の後に、また真結が発言する。
「多分なんだけど、お兄ちゃんと別れた後だとは思うよ。理由は、あまり覚えてないかな……」
うつむいて、目を合わせようとしない。
親しい人だからと言って、話したくないことくらいあるよな。
無理に言うことでもないし、ここらで別の話をしよう。
「そうだ、教員からこの学校に入れた理由とか、なんか言ってたか?」
「うーん、私が学校の試験と面接を受けたのが、水曜日だったってことかな。」
「水曜日?」
「うん。私にその記憶はないから、前のお兄ちゃんの考えの通り、多重人格の線が怪しいかな。」
やっぱり、多重人格障害の可能性が高いか。
もしかすると、水曜の真結は、また別の真結になるのかもしれないな。
「あっ、後、試験は、私の得意な絵だったらしいの。」
なるほど、特別試験では、真結の得意な絵を使ったんだな。
昔から、良く家に帰ってきては、紙とにらめっこしてたしな。
納得である。
「昔から得意だったもんな……どうしたんだ?」
真結は小走りで、自分の前にやってきた。
こちらの顔を覗き込むように、後ろに手を組み見上げてきた。
「少し寄りたいところがあるんだけど、付き合ってくれないかな?」
「どこだ?」
「秋葉原なんだけど……」
「何か、欲しいものでもあるのか?」
真結は「それもそうだけど……」と言い、大きく深呼吸をし、恥ずかしそうにこちらをまた見上げてくる。
「お兄ちゃんと……一緒に……デートしたいな///」
秋葉デートなんて、オタクにとって最高のシチュエーションである。
俺は、あまりの可愛さに軽く頷くことしかできなかった。
これは、シスコンルート確定である。
***
久しぶりの秋葉原に来た。
時刻は、午後16時。
現在は、ラジ館でグッツや本を閲覧中である。
もう来てから2時間は経つが、真結は真剣な眼差しでBLコーナーを徘徊している。
そう、腐女子だったのである。
何かを買うことに決定したのか、嬉しそうにこちらにやってくる。
「初めて来たけど、こんなに種類があるんだね!なかなか、地元だと買えなかったから……」
喜んでくれて何よりだが、俺はこの場が気まずい。
「この本とこれ買おうと思うけど、どうかな?」
裸の男同士の表紙を見せられても困るのだが……
当たり前だが、俺にこっちの趣味は持ち合わせていない。
「てか、いつからそういうのにはまったんだ。」
「うーん、2,3年前ぐらいからだと思うよ。」
「そうなのか……分った、買ってきて良いぞ。金あるのか?」
頷いて、そそくさとレジに進んで行く。
まさか、BL探索デートだとは思わなかったが……本当に5年もすれば人は変わるんだな。
そう考えていると、会計を済ませた真結は、こちらにやって来た。
「良い買い物ができたよ。付き合ってくれてありあとう!」
満面の笑みである。
まぁー、喜んでいるなら良いか。
「少し早いが、飯にしないか。上手いラーメン屋さん知ってるんだけど……」
「いいよ。お兄ちゃんがおすすめする場所なら何処でも」
「おけ、じゃー、行くか。」
そう言って、エレベーターに向かおうとすると、後ろから引っ張られたような感覚になり進めなかった。
後ろを確認すると、俺の服の裾を、真結が白く透き通った手で掴んでいることに気づいた。
真結は、言いづらそうに、こちらを見上げてくる。
「どうしたんだ?」
「手を繋ぎたいな……嫌ならぜんぜん大丈夫だよ!」
「いや、別に……」
ふと、目の前を見ると、楽しそうに話しながら手を握るカップルが目に入った。
妹は、俺の視線の先に気づいたのか……
「そういう分けじゃないよ!そういう分けでもあるんだけど……どう……かな?」
この可愛すぎる純粋な反応は、童貞殺しである。
俺は、「良いよ」ともう一度承諾し、手を握る。
迷子になられても困るしな。
嬉しそうにする真結を見て、自分も少し照れくさくなる。
俺が、兄でなかったら、勘違いマンに代わり果てていただろう。
にしても、この純粋さが恐ろしい……いつか、教育した方が良いかもな。
変な奴に狙われないためにも……
真結の柔らかな手を握りながら、そして、周りからの痛い視線を受け流すように、エレベーターの方角へと向かうのであった。
***
「とても美味しかったね。」
「だろ!ここの豚骨は絶品だ!」
アニメやゲームの話、妹の趣味の話などで盛り上がってしまったため、かなり長居してしまった。
時刻は午後18時。
この時間あたりになると、飲食店を出入りする人が増え出した。
早くに行って正解だったな。
ブゥーブゥー……
自分のポケットから、スマホの振動が足に伝わる。
取り出し確認すると、真結のおばさんからであった。
何かあったのだろうか?
「悪い真結のおばさんからの電話だ。少し、待っててくれるか?」
そう言うと、真結は「えっ」と驚いて、暗い表情になってしまった。
しかし、すぐに、笑顔で「電話してきて、待ってるから」と言った。
少し真結の挙動がおかしい。
何かおばさんとあったのだろうか?
「ありがとう。」
俺は、人気の無い場所へ移動し、緑のボタンをタップし、スマホを耳に当てた。
「はい。おばさんどうしたんですか?」
「悠翔さん、真結の調子はどうだい?」
「真結は元気ですよ。今は、一緒に買い物に出かけているところです。」
「そうかい。それは良かったね。」
なぜか他人行儀である。
こんな人だったか?
5年ほど合ってなかったが、もう少し明るい人だったと思うのだが……
長い沈黙が流れる。
「はぁー、そろそろ本題に入るよ。黙ってても仕方がないことだしね。」
なんでちょっとキレ気味なんだろうか……
「あの子は小学5年から中学2年までいじめられていた。障害が原因だろうね。」
障害のことを知っている!
「いじめられていたことは知っています。確か、それが心配でこちらの学校に転入させたんですよね。」
「いや、それは詭弁だよ。」
どういうことだ?
その理由が嘘だったってことか。
おばさんからのメールには、心配と記されていたはずだ。
まさか……
「心配じゃなくて、障害で面倒くさかったからですか?」
「それもあるが、少し違うね。」
また、少しの間、沈黙が流れる。
「私が、引き取った理由から話すと、それは世間体を気にしていたからだよ。あのとき、引き取らなければ、様々な知り合いから責められた。君の死んだ父母、そのまた祖父母さん達にも世話になっていたからね。」
何を言っているんだ。
おばさんは、進んで真結を預かると言っていたじゃないか……
「そして、引き取った後……それからだよ。あの子はおかしくなり始めた。初めは、思春期の影響だと思っていたが、どうもそうじゃないらしい。あの変わり様は異質で恐怖だったよ。」
「それで、精神科に連れて行った。」
「そうだね。そこで、多重人格障害だと知った。」
「いつ、行ったんですか?」
「真結から聞いてないのかい? あのときは、月曜だったはずだよ……」
月曜日……
真結は、自分の障害がなんであるか知らないはずだ。
嘘をついてたってことか……でもなんでだ?
また、数秒の沈黙が流れる。
「その反応の無さだと知らなかったみたいだね。あのころころと性格が変化していく、あの娘は呪われているんだろうね。もう、関わる人間じゃない。暗くなったかと思うと、いきなり元気になったり、引きこもりだしたり、本当に恐怖でしかない!」
発言が攻撃的になっていく。
「あの子は、悪魔の娘だよ。悠翔さんにも分る日が来る。」
誰が聞いても分る。
もう、おばさんは見捨てたんだ……いや、あの時からもうすでに真結のことを……
「だから、もうこれ以上、私達に関わらないでくれ! 私の夫も怯えている。」
そうか……真結は学校だけでなく、家庭にも居場所がなかったんだ。
1人で5年間も、耐え抜いてきていたんだ。
それに、比べて俺は……
「今日は、これを伝えるために電話したんだよ。」
「分りました。真結の荷物、書類とか……まとめて、送ってきてください。」
「それは、もうすでにしている。」
なんなんだろう。この怒り感情は……
俺の人生に対してなのか、それとも、真結のおばさんに対してなのか、真結の嘘に対してなのか……
「それでは、連絡先などは削除してくれても構わない。もう、連絡も会うこともないだろうから……」
俺は、この冷め切ったおばさんの声を聞き、何かの線が切れた。
「もうっ、これ以上頼るわけねーだろ!今まで、預かってくれたことには感謝するが、あんたは真結に謝るべきだ!それで、それで最後にしろ!」
「はぁはぁ」、こんなに大声で叫んだのは何年ぶりだろうか。
かなり、喉が痛む。
周りの人達は、俺を見て「彼女にフラれたのか?」、「頭おかしくなったのか?」などと発言している。
俺は、周りからの視線を気にすることなく、息を整える。
少し経っても声がしないので、スマホを見ると、もうすでに通話は終了していた。
まじで、なんなんだよ。
「お兄ちゃん!どう……したの?」
周りの空気を気にしながら、真結がやってきた。
俺は、すかさず手を取り、歩き出した。
「痛いよ……何かあったの?」
手の力を緩める。
頭の中が、まだ混乱している。
いろいろ整理もしたいが、今はここから退却する方が先だ。
「真結、家に帰ったら話したいことがある。」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
早速ですが、読んで頂いた方に謝罪しなければなりません。
1つ目は、金曜の21時投稿なのですが、遅れてしまったことです。
2つ目は、今回でハズデレ型人格の真結ちゃんの話を終了する予定でしたが、次回になりそうです。
これからは、予定通りに進めて行きますので、暖かい目で応援よろしくお願いします。
次回で、ハズデレ型人格の真結のことが少し明らかになります。お楽しみに!
さて、今回のお話など、良かったと思った方は評価とブックマークをよろしくお願いします!
*謝辞:真結ちゃんがテストを受けた日は火曜日→水曜日です。もう、すでに訂正しています。