0:昔の妹と違うので理解するのが大変です(3)
「お兄ちゃん、おはよう!」
目の前には、呼び方の異なる少しおっとりした妹が座っていた。
部屋の時計を見ると、丁度2つの針が12を指していることに気づいた。
そう言えば、24時になれば私ではなくなるってこと言っていたような……
そんなことを考えていると、真結が自分のはだけたバスタオル姿に気づいたのか、顔を赤らめてこちらを見てきた。
「お兄ちゃん/// 私が寝ている間に何しようとしてたの?!」
「いやっ、違う! 真結が別の真結になっていて、それで襲われて……///」
「何言ってるの?」
きょとんとしている。
まじで、自分でも何言ってるか分らん。
嘘はついていないが、どう伝えれば良いのか……てか、
「真結、さっき俺を襲おうとしてたこと覚えてないのか?」
「まったく覚えてないし、お兄ちゃんを襲うことはしないよ。襲われるような格好をしてた私が悪いのかもしれないけど、そういうのはまだ早いような…」
早口で慌てているのが分る。
昨日の真結と比べると、全くの別人にしか思えない。
「俺が悪かったところもあるからな!寒いだろ、何か服を着た方が良いと思うぞ。」
こくりと頷くと、俺はそれを合図に立ち上がり、逃げるように廊下へ出て、着替えるのを待つことにした。
***
「入って良いよ」
そう言い、ドアからちょっこんと顔を覗かせる真結。
ピンク色のパジャマで揃えた服装、正直に言って自分の妹ながら可愛いと思ってしまった。
本当に、昨日の妹とは打って変わって顔以外、特に、あの丁寧口調が標準的な口調に変化している。
後、かなり暴走的なところもなく、雰囲気からも分るとおり、おっとりとしている。
「あまり、じろじろと見ないで……恥ずかしよ……///」
「すっ、すまん///」
後、恥ずかしがり屋なのかも知れない。
妹でなければ、容易に惚れていただろう。
「さっきは、すまなかった。いろいろ聞きたいこともあるだろうけど、まず、俺の質問に答えてほしい」
「全然大丈夫だよ。分った。」
了解を得られたことを耳にしながら、ふと壁一面と机を見ると、俺の写真とアウトなグッズは片付けられていた。
思春期の女の子の秘密だしな、それよりも……
「もう一度聞くけど、本当にさっきのことは覚えてないのか?」
「私が襲おうとしてたことだよね? 覚えてないよ。そんなにひどかったの?」
覚えてないか。
24時になったら、変化する性格……昨日の真結は「私ではなくなる」と言っていた。
再現性はないが、もしかすると、日付が変わると同時に人格が変化するのかもしれない。
「いや、大丈夫だよ。ちょっと、カッターナイフで斬り合いごっこしてただけだから。」
そう言いながら、昨日の真結に傷つけられた頬に手をやる。
かすり傷だけど、やっぱい痛いな。
後で消毒でもしておこう。
「えっ? ていうか、お兄ちゃん! 頬、怪我してるよ。大丈夫?」
上目遣いで、心配そうに頬を見つめてくる。
「大丈夫、大丈夫。後で、消毒しておくから」
すると、妹は立ち上がり、鞄を開けてポーチを取り出した。
その中から、絆創膏と消毒液などを手に取り、こちらに近づいてきた。
「ダメだよ、ちゃんと手当てしておかないと……ちょっと痛むかもしれないけど、我慢してね。」
「おう……///」
良い香りがする。女の子特有の匂いだ。
意外に深い傷だったみたいで、消毒液をコットンに浸し、俺の頬にぽんぽんと軽く当て、絆創膏を貼ってくれた。
「ありがとう。」
「いえいえ。」
ニコッと微笑む。
俺の妹は天使だったらしい…
妹は消毒液を片付けて、カッターナイフを手に持ちやってきた。
「そういえば、2本あったんだけど、お兄ちゃんの物?」
「いや、違う。どちらか分らないが、そのナイフで頬を切られて、襲われそうになったんだ。」
「そうなの?!ごめんなさい!」
深々と頭を下げてくる。
まじのほうで、覚えてはなさそうだ。
「大丈夫だって! 真結がやったんじゃなくて、昨日の真結がやったことだし……手当もしてくれたしな。」
「ごめんなさい。でも、そう言ってくれると助かるな……。でも、やっぱり……」
肩を落としている。
何か言いたくないことでもあるのだろうか。
「どうしたんだ?」
予想通り、少し言いにくそうにする真結は、自分のポケットから薬の入った小さな袋を取り出した。
そこには、精神安定剤と記述されていた。
「5年前からかな?目を覚ますと、1週間前の記憶がない状態なんだよね。いつも、起きると長い眠りについていた感覚があるの。そのことをおばさんに相談して、精神科を進められたんだけど、怖くて行ってないの……でも、手元には薬がいつもあるの……」
自分の両親が死んだときからなのか?
ただ、そんな素振りは無かったような……それに、一週間分の記憶がないこと、自分が薬を貰った記憶もないことは気になる点ではあるが……考えていても分らないな。
「俺の推測だと、日曜、つまり、昨日の真結と今日の真結は異なる性格になっているんだけど、複数の人格を持っている奴のこと何て言うんだっけ?」
「多重人格者のこと?」
「そうそう、それそれ。記憶がなくて性格が異なるって、それなんじゃないかと考えてる。例えば、昨日の人格の真結が、精神科に行っていれば薬は貰えただろうし、今の真結の記憶に薬の記憶が無くても当然だろ。」
「確かに、そうだよね。私もそうなんじゃないかって思ってたんだ……。」
「いや、分らないけどね……薬の話は、おばあさんに聞いておくよ。聞きづらかったんだろ?後、受診履歴があれば、こっちでも継続して相談して貰うことが可能になるから、一度、真結自身で行ってみるのも良いかもな。」
ただ言葉にした通り、あくまで多重人格や精神科の話は憶測に過ぎない。
つまり、本当か分らない。
まず、性格が変化したから多重人格者とは言えない。
統合失調症や認知症、記憶障害など、別の障害の可能性だってある。
また、薬に関しては、精神安定剤という文字を見る限り、精神科医が書いたものには見えない。
もしかすると、何処かで買ったものかもしれない。
何にせよ、一度、精神科に行くのは妥当だろう。
「ありがとう。そうだね。でも、他人と会うのは少し恥ずかしいし、怖いから一緒についてきてくれると助かるかな……」
恥ずかしがり屋みたいだし、そりゃ1人で他人に会うのは怖いよな。
「分った。一緒に行こう。でも明日、いやもう今日から学校が始まるから、来週の月曜で良いかな?休日だし。平日は部活の挨拶や活動とかで帰るの遅くなると思うから…」
「ありがとう!来週楽しみにしておくね。」
満面の笑顔である。そんなに、精神科の場所に行きたかったのか?
ああそうだ……もう一つ、
「薬は飲んでないよな?」
「うん。怖くて飲めなかったよ。」
わぁーと大きなあくびをし眠そうである。
「そうか。その方が、賢明だな。」
よし、そろそろ、夜も遅いから、今日はこのあたりで切上げた方が良いかもな。
まだ、聞きたいことは山ほどあるけど、追々聞いていこう。
「俺からは、以上だけど、何か俺に質問でもあるか?」
真結は少し悩んでから、何か思い出したかのように、頬を赤らめた。
もじもじとしながら、何かしらの決意をしたのか、質問を投げかけてきた。
「私の身体は良かった……かな?」
何か勘違いをしているようだ。
おそらく、バスタオル状態の時のことを思い出したのだろう。
ここははっきり言っておく必要があるな。
「昨日の真結には何もやってない。でも、確かに良かったとは思う。5年も立てば、人は成長するんだな……一部を除いてなっ!」
自分自身の胸に手をやる真結は、恥ずかしくなったのか、こちらを見上げて……
「エッチ……」
妹でなければ、容易に惚れていただろう(2回目)。
3つ目もご覧頂きありがとうございます!
最初、月曜は「デレデレ型」の性格のキャラを作成しようと思っていたのですが、ヤンデレ型よりになってしまうので辞めました。
そのため、新たに「ハズデレ」という、「恥ずかしがり屋でありながら、デレる(純粋な愛情表現を示す)」キャラを作成しました。
ツンデレと勘違いするかも知れませんが、「ツンデレ型」は「恥ずかしくなりながらも、それを隠し、純粋な愛情表現を上手く伝えられません。また、デレを純粋に表現するのも苦手です。つまり、よく怒ります(「~なんだからね!」)。」
7名も妹がいると、性格の弁別(区別)が難しいので、暖かい目で見て頂けると嬉しいです。
また、今回のハズデレ型人格が気に入って頂けたなら、評価などもよろしくお願いします。