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野球バカ異世界  作者: ブリキのギター
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第2話<嵐とモンス>

第2話<嵐とモンス>


農耕具や収穫した農作物を急いで納屋にしまい、牛や山羊、ニワトリなんかの家畜が逃げないように厩舎に入れ、扉をしっかりと閉めた。


農園の正面ゲートを大人達が閉じようとしたところで、丘の方から馬車が近づいて来るのが見えた。

馬二頭引きの黒い立派な馬車が2台も、だ。

あれは貴族様が乗る馬車だな。以前も見たことがあった。


大人の奴隷が館の方に向かって走っていくと、しばらくしてから俺達の主人が出てきてゲートの前で貴族の馬車を出迎えている。

「ロビン、急ですまんが雨宿りさせてくれ、モンス狩りの帰りなんだが」と馬車のドアを開け、貴族が声を出した。

”モンス狩り”とは、モンスターつまり魔獣を狩ることだ。領地の民を守る貴族の重要な仕事の一つである。ロビンはこの農園の主人の名前だ。


あの方はたしかこの領地を支配されているユークリフ公爵様だぞ。

この農園の主人とは古い友人みたいで、年に1回ほど滞在することがあった。会話や態度からおそらく若い頃は公爵様の下で働いていたのかもしれない。主人は元冒険者とのことだ。


「おい、お前達、急いで公爵様の馬車を納屋にしまえ」と主人から奴隷達に指示が出た。

公爵とその長男のケビン様、二女のマロン様が馬車から降りて屋敷に向かって歩き出した。

3人とも冒険者風の服を着ており、マロン様は魔法使いのような紫の服に、三角の黒い帽子、体格に比べてすこし大きい杖を持っていた。

肌の色が白く、金髪で碧眼だ、ロールした髪が貴族の娘という感じがする。ドアを開けた奴隷なんか空気の扱いで、ろくに見ることすらしない。


「ユークリフ公爵、嵐はこれから酷くなりそうです。どうぞお好きなだけごゆっくりしていってください」と主人、

俺が遠くから貴族達を見ていると、マロン様と眼が合った。ヤバイとオレが思うと。

”見つけたわよ。キース”みたいな顔をされた。

そう言えば、半年くらい前もモンス狩りに付き合わされて酷い目に遭ったんだった。

たしか、あの時、

「わたくしが魔法を詠唱するまで、モンスの囮になりなさい」とか無茶なこと言われたんだった。

恐らく貴族から見た奴隷は言葉の通じる猟犬程度の”モノ”なのだろう。


「おーい、お前達よく聞け!!嵐の時は結界師が張ったモンス避けの効果が弱くなる。雨や風以外にもモンスにも注意が必要だ、男の奴隷は武器を持って納屋で夜通し待機だ。女、子供はモンスから逃げられるように服を着たままで家から一歩も出るなよ」と一番奴隷のクリフさんから奴隷達に指示が出た。


一番奴隷とはこの農園の農奴の中で一番偉い奴隷である。であるはずだが、クリフさんは奴隷では無いと言う噂だ。とっくの昔に主人が奴隷契約を解除しているが奴隷として今でも使えているのだと言うことらしい。

元冒険者の主人がこの農園を始める前から、クリフさんは奴隷として雇われていたらしい。歳は50歳前後だろうか、胸板は厚く腕も太い。元冒険者だけに農園の周辺に出るモンスなんか簡単に倒せるし、奴隷と主人の間に立ち交渉してくれたりもする俺達のリーダである。家族はいない。


「キース、母さんを頼んだぞ」父さんが俺に声をかけた。

「父さん安心して、弱いモンスなら平気さ、オレが退治してやるよ」と俺、でも本当は少しモンスが怖い。

ゴブリン1匹なら平気だけど、2匹同時に相手できる自信は無い。オレはまだ14歳でジョブも得ていない、ただの子供でしかない。


納屋から自作した棍棒と革袋を取ってきた。畑の脇にある小石捨て場から投擲に向いた丸い石を適当に拾って革袋に入れた。

棍棒は俺が農園の周りで弱いモンスを狩る時に使用している武器で、投擲用の石は覚醒して前世の知識を得た俺には強力な武器となるはずだ。

 確か高校球児の時にスピードガンで計測した時、ストレートで145キロぐらいは出ていた。今の俺に筋力は無いが何万回も繰り返したフォームは体で覚えていて、肩を壊してからピッチングに関する本を沢山読んでいるからピッチング理論には自信がある。

 父さん達は納屋に向かい、俺と母さんは住んでいる家に入った。

俺達が暮らしているのは主人が暮らしている母屋とは別の建物で粗末な長屋のような作りをしている。

去年までは兄も一緒に住んでいたが、15歳になり冒険者向けのレアなジョブを得たことで、主人の知り合いの冒険者に売られてしまった。それ以来、兄には会えていない。

奴隷やその子供の所有権は主人にあり自由に売買できるのだ。


粗末な家は雨や風が強いとミシミシ音を立てて激しく揺れた。

「キース、大丈夫だから安心して」と母、俺はよけい不安になった。

ランタンの炎の揺れを半分寝ているような状態でぼんやり眺めていると外が騒がしくなってきた。


「野菜畑の方でゴブが数匹出た!!森の方からもモンスだ!!」


「手分けして対応するぞ」と一番奴隷のクリフさんの声だ。


森の方は果樹園近くだ。野菜畑には俺が植えて育てている芋がある。自分が育てた野菜をモンスに食い荒らされることを想像すると怒りがこみ上げてきた。じっとしていられず棍棒を持って立ち上がり狭い部屋の中を歩き回った。


「キース、外に出ちゃダメよ。危険だわ」と母、

「分かってるけど、野菜畑を荒らされたくない」と俺、

窓の隙間から外を見るが、暗闇が広がっているだけで何も見えない。部屋の中が明るすぎるのだ。

「母さん、ランタンの火を消して。外が見えない」

「フッ」と母さんがランタンを消すと、部屋の中が真っ暗になった。

「キース何か見える?」と母、暗闇に目が慣れてだんだん見えてきた。

納屋の脇で何人かゴブリンと戦っているのが見えた。ゴブの数が多くて、手が足りていないように見える。苦戦しているようだ。

雑魚モンスでも複数匹いると手に負えなくなることはよくあることだ。

「母さん、モンスの数が多くて手が足りていない。俺、外に出て手伝ってくるからここに居て」と言うと、家から飛び出した。


納屋に向かって走る。

「キースです。手伝いに来ました」と俺、

「キースお前!!でも助かるよ。ゴブの数が多くて手が足りてないんだ」とエリーの父であるゲルガーさんの声がした。

棍棒でゴブリンの頭めがけて振り下ろす。

「ゴブ」と言いながらゴブリンが倒れる。

ゴブの気配を感じる。俺達はゴブリンに囲まれているようだ。

もしかしたらこの農園全体がモンスに囲まれているのかもしれない。

「キース、あまり前に出過ぎるな!!囲まれるぞ」

「分かりました」と答えると、革袋から石を取り出してゴブめがけて投げつける。

元甲子園球児をなめんなよ。と心の中で叫びながら丸い石を投擲する。

「ゴチャ」とゴブの頭が潰れる音がした。

「へへ、ストライク」と思わず口に出た。野球でボロボロに壊した肩やヒジではなく、リフレッシュされた若者の腕に痛みはなく、すこぶる調子が良い。

「キース、お前の石投げは百発百中だな」と隣にいた大人に言われた。

俺は、どんどんストライクを捕り続けた。すると革の袋に入っていた石が底をついた。

でもまだゴブリンは数匹残っている。

「キースでかした、一気にたたみ込むぞ」とゲルガーさんから指示が出た。

「オリャー」と周りの大人がゴブに向かって走り出した。

俺も負けじと正面のゴブに向かって走り出し、棍棒を振り下ろす。ゴブはサビ付いたボロ剣で棍棒を受けようとした。

”ガキン、ボコン”俺の棍棒はボロ剣をたたき折ってその勢いのままゴブの頭を叩き潰した。

「奥に赤ゴブがいる、強いぞ注意しろ!!」大人の声がして右奥を見ると、頭に角が1本生え、緑ではなく赤茶色のゴブリンが斧を持っているのが見えた。通称”赤ゴブ”こと、正式名称はたしかゴブリンチーフだ。


赤ゴブは量産型の緑色ゴブリンよりも動きが速い、だが三倍も早いわけでは無かった。

先ほど投擲しまくった、丸い石が足元に転がっているのが見える。

チャンスだ。素速く拾い、棍棒を地面に置くと、ピッチャーのようなフォームで振りかぶり赤ゴブに向けて石を全力で投擲した。

「あばよ、赤ゴブ。俺の速球を脳天に食らいやがれ」と俺がつぶやく。

丸い石は危険球のように真っ直ぐ赤ゴブめがけて飛んでいく、そのまま赤ゴブの頭にストライクするかのように見えた。しかし、

「ゴキン」と言う音がし、赤ゴブは斧の腹で石をはじき返していた。


「クソ、カットしてファールにしやがった」チョット違うかなと思いながらも、俺の脳内ではそのように判断していた。

赤ゴブを見ると、口元が上に上がり笑っているように見える。

赤ゴブは俺をにらむと、片手で斧を俺に向け、斜め上に突き出してきた。

「舐めやがって、予告ホームランかよ!!」

どうやらゴブの知能では予告ホームランがどんだけ恥ずかしくて、99%失敗するということが理解できていないらしい。

ある意味、フラグをぶっ立ててきやがった。


少し離れたところに転がっている。別の丸い石をダッシュして拾うと、素速く振りかぶって同じように投げつけた。

同じフォームで球速はほぼ同じだ。


「今度ことストライクだぜ、この世界から退場させてやる!!」と俺、

「ゴブ、ゴブ、フフン」と赤ゴブ、何言っているのか分からん。

が、赤ゴブが余裕をかましていることはなんとなく分かった。


俺の投擲した石が赤ゴブの顔めがけて真っ直ぐに飛んで行く。

さっきと同じように赤ゴブが斧の腹で弾こうと”ブンッ”と振り回した。

が”スカッ”と空振りをして石は赤ゴブの腹に”ドスッ”と直撃した。

「チェンジアップだ、バカめ!!」当たり前だが、赤ゴブには変化球に対応できるバッティングスキルは無いようだ。

激痛なのか地面を左右に転がって呻いている赤ゴブ。

俺はそいつに素速く近づくと、赤ゴブの頭に棍棒を叩きつけた。


「キース、やったな」後ろを振り返ると、父さんと公爵の息子であるケビン様が立っていた。

「なんとか倒せました」と俺、

「まだ若いのに投擲の技術も高い、棍棒の振りもなかなの物だな」とケビン様、俺の戦いを見ていたようだ。俺が褒められた事が嬉しいのか父がにんまりと笑った。

「キースが戦ってくれたおかげで本当に助かった」とゲルガーさんが褒めてくれる。

鍛冶仕事の師匠に褒められるとなんだか照れくさい。

気がつくと嵐は収まり、東から朝日が上ってきている。

嵐があけた朝、他の奴隷とモンスの死骸を片付けて、家に帰ると昼過ぎまで寝ていた。


「ゲルガーさん、鍛冶仕事手伝えって何作るんですか?」と俺、

「主人からキース用のメイスを作ってくれと言われてな」ゲルガーさんはエリーの父親で、俺の鍛冶仕事の師匠でもある。

「本当ですか?、嬉しいです。俺の希望する形で作れますか?」と俺、武器は重さや長さ、体に合ったモノが一番だ。

「希望か、大丈夫だぞ。それでどんな形で長さや重さはどうする?」

「この鉄棒の太さで、持つところはこれぐらい絞ってもらって、その端はすっぽ抜け無いように丸くして、そこに穴を開けることって出来ますか?」俺は、不要になった馬車の軸と思われる鉄パイプを持ちながら、地面に枝で図を書いて説明した。

「グリップエンドに穴を空けて何するんだ、紐でも通すのか?」

「そうです、石を投擲する時、棍棒を地面に転がしますが、しゃがんで拾うのに時間がかかるんです」

「なるほど、モンスに打ち付ける部分にトゲトゲみたいな突起は不要か?」

「なるべく軽くしたいので不要です」

「そうか、普通は付けるんだけどな」

「はい、不要です」と俺、鬼の棍棒のような物は必要ないのだ。

「なるほど、それじゃ始めるか。火を起こそう”ファイヤー”」とゲルガーさん、炉に生活魔法で火を付けた。

「生活魔法が使えるとべんりですよね」

「簡単だ、今度教えてやるよ。炭が足りんぞ、取って来てくれ」とゲルガーさん。

「了解です」鍛冶場から外に出て、炭を運ぶ。

”トントン、ガンガン”熱して真っ赤になった鉄パイプを二人がかりで叩き整形する。どうにか形にできた。

「こんなモノだろ、持ってみろ」

「ああ良いですね。大丈夫です」細かいところはヤスリで削り整形する。

さび止めの酸に付けると、青みがかった黒い色になった。その後で綺麗に水洗いをして火であぶり乾燥させた。

グリップに松ヤニのような物を塗り牛の革を巻いて完成となった。

メイスは金属バットのような外見だ。それを工房の外で振り回してみる。

”ブンブン”何度も振ってみる。

これは良いな。木製の棍棒と比べて攻撃力がかなり上がった気がする。

「輪っかに紐通すんだろ、この細いロープ使いな」とゲルガーさん、白いロープを放ってきた。

「ありがとうございます。凄く気に入りました」と俺、鉄製のメイスがとても頼もしく見えた。


「サビ易いから、使ったら綺麗に拭いて使えよ」

「分かりました、大切にします。少し試してきます」魔物避けの結界の外に出て森の端まで歩いてきた。

森の地面に落ちている食べられない木の実や松ぼっくりのような種を拾うとバットでノックをするようにトスしてメイスで”カコーン”と弾き飛ばしてみた。

「ハハハ、面白い」木のメイスだと割れたり折れたりするので遠慮していたが、鉄のメイスだと思いっきり振ることができる。

”ガサゴソ”と少し遠くで音がした。サッと木の陰に隠れて様子をうかがうとゴブリンだ。

緑色のゴブだ。量産型ゴブが1匹だな。

俺には気付いていないようで、武器も構えずに近づいてきた。

木の陰から飛び出しすとゴブの頭めがけてメイスを振り下ろした。

”ゴシャ”とゴブの頭が砕けた。

「こいつは凄い、これが本物の武器の攻撃力なのか」鉄製のメイスの威力に驚く。

ゴブの胸をナイフで開いて小さな魔石だけは回収しておく。魔石は売るとお金になるらしい。捨てて置くことは無い。

俺は内緒で魔石を貯めているんだ。いわゆる魔石貯金だ。

他にゴブはいないかな、としばらく索敵してみたがゴブに出会うことは無かった。

新しい武器の威力も確認できたし、家に戻るか。

帰り道、丸い石を拾い革袋に仕舞う。拾って形がいまいちなのは”ビュン”と木の幹に向かって投げつける。肩の調子がすばらしく良い。

「この肩ならもう一度甲子園で活躍できる。プロにもなれるな」とつぶやいてから、

「フフフ」と笑う、ボールすら無い、この異世界では野球なんか存在しない。

この新しい身体では、変化球を投げることは控え、投球数もきっちり管理したいな。前世のように肩を壊したくない。

肩を壊した後でピッチングの本を何冊も読んで気付いたが、俺の投球フォームはまだ改善できる。

家に戻ると、公爵さまと主人、一番奴隷のクリフさんが俺の家の前で話をしていた。近づくと無礼なので、離れて立ち去るのを待っていると主人に手招きされた。手に持っていたメイスは納屋に立てかけてから近づくいた、武器を持ったままは失礼だ。

「何かご用でしょうか?」と俺、あまり主人と眼を合わさないように、クリフさんの方を見て尋ねた。

「これから公爵さまが周辺のモンス狩りにゆく、お供しろ」と主人から指示をもらった。

「ご主人さま、かしこまりました」と俺、言いながら頭を下げる。

主人には逆らえないし、機嫌を損ねると殴られる。一番最悪なことは奴隷商人に売り払われることだ。この農園はかなりマシな所で奴隷も大切に扱われているが、鉱山なんかだと奴隷は使い捨てらしい。

 主人に反抗して売り払われた奴隷を見たことがある。もちろん家族の有無なんて関係無かった。この農園で主人に意見をして良いのは一番奴隷のクリフさんだけなのだ。

公爵家の3人と、一番奴隷のクリフさん、俺の5人で森に向かって歩く。

先頭は俺で、最後尾はクリフさんだ。

正面からモンスの気配だ、手を上げて後ろに知らせる。

先行してモンスを確認しに行く。

白いオークだ。3匹だな。量産型だ。静かに戻る。

「通常のオークが3匹です。どうされますか?」と公爵に聞いてみる。

「キースの投擲を見せてくれ、その後で私達3人で始末しよう」と公爵、後ろで長男のケビン様、二女のマロン様も首を縦に振っていた。

なるほど、俺が投擲で弱らせるのは良い作戦だな。

「では僕が3回投擲しますので、その後でマロン様が魔法を放ってください」

「そうしましょう」とマロン様、他の3人が剣を鞘から抜いて戦闘準備が整った。

革袋から石を三つ取り出し左手に2個、右手に1個持つと、投球フォームに入った。

3球連続で速い球を投げることは時間的にムリだから、1球目以外は通常の投擲になる。

指に唾を付けて石を握る。振りかぶり、ゆっくり深くテイクバックをした。足を軽く上げ振り下ろすと同時に、全身のひねりを加えて腕を加速させた。オークに向けて石を投げつける。

残りの2つも次々投擲する。その間にマロン様は詠唱を始めた。

”ドカドカドカ”俺が投げた石が3匹に的中すると、1匹は倒れ、2匹はフラフラの状態となっている。そこに、

「”ファイヤボール”」とマロン様の火の玉が飛んでいった。フラフラしているオークの一匹が倒れる。残りはオーク一匹だ。

ケビン様が剣を担いで走り出した。俺もメイスを構えるとその後ろをついてゆく。

公爵さま、クリフさんはあまり戦う気が無いようだった。

ケビン様はフラフラしているオークにスッと素速く近づくと鋭い突きを繰り出した。

剣先がオークの首に吸い込まれると捻りながら素速く引き抜いた。刺して捻りながら引き抜くと与えるダメージが増えると聞いたことがある。

既に倒れている2匹にケビン様は止めを刺した。

「ケビン様、お見事です」と俺、

「フフ」とケビン様が小さく笑った。

俺はオークの心臓付近にある魔石を取り出し、バッグからぼろきれを出して拭ってからケビン様に差し出した。

「んっ魔石か、いらんよ、お前が取っておけ」とケビン様、

「ありがとうございます」とバックにしまった。ありがたく頂いておきます。

ケビン様の後を追うように公爵様とクリフさんの所に戻る。公爵さまとクリフさんがなにやら俺を見ながら話をしているようだ。

「キースは来月で15歳だよな」とクリフさん、

「そうです、教会でジョブを頂けることになっています」と俺、

「冒険者向きのジョブが得られると良いな」

「戦士か鍛冶師が良いなと思っています」と俺、手に職がある者はそのジョブを得られる場合が多い。生き方なんかも影響する。俺はメイスと投擲が使えて、鍛冶師の手伝いをしているから期待しているのだ。

「投擲の技術も良いし、動きもすばしっこい、狩人やスカウター系のジョブかもしれんな」と公爵様、

「奴隷には狩人なんかの泥臭いジョブが向いているかもしれませんわね」とマロン様、全く悪意は無いだろうが、少し毒のある言葉をサラッと口にする方だ。

「はい、冒険者系のジョブを得られればと思っています」と俺、聞いた話では”ニート”や”家事手伝い”と言うほぼ無職のジョブや、”人殺し”盗賊””親不孝者””ギャンブラー”なんて言うハズレジョブを得ることもあるらしい。


「クリフさんのジョブは何なんですか、とてもお強いですけど」と俺、

「おっ、俺か、俺はそのあれだ」とクリフさん、あまり言いたがらないようだ。

「クリフはなあ、”道化師”だぞ」と公爵様、

「えっ、道化師!!」と俺、

「そう、俺のジョブは道化師だ。物心ついた時には既に奴隷で、両親の顔も知らん。つらいことがあると、心で泣いて全部笑い飛ばして乗り越えてきた。そんな俺にピッタリのジョブだよ、神様はよく見ていなさる。フフ」と今まで何度も繰り返したセリフのように滑らかに言った。

俺の中で”道化師 ”=”タフガイ”という定義となった。

それからゴブとオーク、コボルドと言う犬のモンスを何匹が倒し、モンス狩りは終了した。翌日、公爵様は朝早く自分の屋敷に帰っていった。


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