教え子と弟子 王都で③
まだまだ続けられるはずなのに、どうしても新しいネタが浮かんでそれを元に新しい作品を書きたくて我慢できなくなる。
すいませんが別の作品に注力します。
「ようやく二人と食事を共にできて嬉しいです」
「そうだな。食事をしながらでも色々と話してくれるとありがたい」
「あなた達のお陰で我らを護ってくれる騎士たちが強くなっているのです。ぜひ気楽にしてください」
ハニルが王族としてマオたちと食事を共にしたいと考え誘おうとしたが何度も邪魔が入ったり逃げられたりしたせいで、結局最後の日しか一緒に食事を共にすることはできなかった。
そして王族たちはマオと敵対しないために友好的に接しようとしていた。
「………ありがとうございます」
「……私も一緒に食事に呼んでくれて嬉しいです」
マオは面倒くさく思いながら礼を口にし、キリカは緊張して声が震えている。
できれば放置してほしかったが相手は王族だし仕方がないと諦める。
「あ……あの、なんで私まで?」
そして、この場で最も緊張しているのはシュナだった。
マオの弟子とはいえ、ほとんど王族とは関係なのに一緒に食事をすることになり緊張で動きがかたい。
「マオ殿の弟子だろう?それなら配慮するのも当然じゃないか?」
「そうですよ。これからも付き合いがあるのかもしれないですし」
ニコニコと笑いかける王族たちにマオは思わず視線を逸らしてしまう。
意図していなかったが、このままいくと自分の代わりの生贄になりそうだと感じたからだ。
悪いと思うがマオに助けるつもりはない。
その代わり、いざとなったら逃げれるように鍛えるつもりだ。
「ところで今回は基本的に模擬戦をしてばかりでしたが、基礎訓練をしないのですか?」
「一番強くなるのに効率的なのが実際に組手なので。そのほうがより使う筋肉を鍛えることができますし経験も積めます」
「なるほど………」
これからは訓練には模擬戦を増やそうかと考える王族たち。
戦いのプロではないため、ただ指示を出しても納得はしないだろうがマオの説明だといえば理解してくれるはずだと考える。
「一応言っておきますけど、その分一生の怪我をする可能性が高くなりますからね?やるとしても柔軟をしっかりこなしてからにしてください」
「「「「わかりました」」」」
マオの忠告に深く頷いたのは王族だけではない。
近くに控えていたメイドや執事たちもだ。
「知っていると思いますけど柔軟で体を温め柔らかくすることで怪我の可能性は低くなりますから、それだけはちゃんとやれ」
「「「「「「はい!!」」」」」」
今度は王族やメイドたちだけでなく、キリカやシュナといった者たちも返事をした。
「美味しかったです。それでは明日には街に戻りますが、また鍛えに来ます」
マオの言葉にキリカとシュナは合わせて頭を下げて退出する。
王族たちも退出して部屋から離れていったのを確認し一息をついた。
「ふぅ………。やはり彼の前に座るのは緊張するな」
「そうですね……。これが圧倒的な実力差を持つ者と対峙するということなのでしょう。彼ほどではないにせよ実際に戦っている騎士たちやあなた達には尊敬をします」
「いえ!こちらこそマオ殿相手に前にたって交渉しようとするあなた達には尊敬の念がたえません!」
王族たちを見てから同じことができるのかと聞かれたら即座に否定できる。
自分たちなら圧倒的な強者だと理由で怯えてしまい排除のために行動してしまいそうだ。
多少なりとも戦う力を持つ自分たちがこうなのだ。
それよりも弱い実力しかないのに対等に渡り合うどころか利用しようとしている王族たちは尊敬の念しか抱けない。
「ところでマオには勝てるようになりそうか?」
「………申し訳ありませんが今の所全く勝てるとは思えません」
「そうか。弟子や恋人はどうだ?」
「そちらは問題ないでしょう。確かに我々の中でも特に強い者たちと互角かそれ以上ですが、だからこそ勝てます。マオ殿よりは理不尽でもありませんし」
「なるほど………」
そもそもマオと同程度の実力者がそうそう出てしまうわけがないし、出てこないのも当然だと考える。
もしいたら今頃こんなには悩んでいない。
中には簡単に手に入る者もいただろうし、実際にはそうでないからこそ珍しく感じ手に入れたいと思うのだ。
「マオ殿本人はともかく二人は味方にすることはできそうですか?」
「そこは問題ありません。特に弟子の方は問題なく仲間にすることができるはずです」
「なるほど。では恋人の方は?」
「………そちらの方は警戒心が強いです。おそらくは自分がマオ殿の弱みになると自覚しているのでしょう」
「なるほど」
マオ本人が難しいのならその周りを落として味方にすれば良い。
そうすれば周りが説得して味方になるかもしれないと考えるが、弟子はともかく恋人は難しいらしい。
だけど問題はない。
「マオ殿本人を味方にするのは棚ぼただと思いなさい。それよりも彼の強さを学ぶことを最優先にしましょう」
「はい!!」
彼本人はいずれ寿命で消えてしまうが、その実力は語り継がれもおかしくない。
そして、その秘訣もだ。
彼から多くのものを盗み、そして時代に繋げていくことが責務だと王族たちは感じていた。
「明日の朝には帰ろうと思うけど、二人共準備はできているか?」
「わかっています」
「え?」
マオの言葉にキリカは頷き、シュナはもう帰るのかと信じられないものを見るようなマオを見る。
始めてきた王都。
どうせなら観光したいと思っていた。
「観光とかしないんですか?」
「………王都に来るのは始めてか?」
「そうですけど………」
シュナが観光したいという気持ちはマオにもキリカにもわかる。
始めてきた土地を色々と見て回りたいと思うのは普通のことなのだろう。
「また来る機会があるから、その時にしろ。今度は観光できる余裕がある程度の休みも入れてやる」
「え〜」
マオの言葉にキリカは頷き、それを見てシュナも不満を抑える。
同じように王都を周りたいはずなのに我慢している上目の者を見て、これ以上わがままを言うのは恥ずかしくなってきた。
「一つ言っておくわよ」
「はい?」
そんなシュナを見てキリカは忠告をしようと考える。
マオの関係者である以上、王都は気楽に観光ができる場所ではない。
最低でも変装する必要がある。
「私はマオの恋人だから弱点だと思われているし、私を味方に引き入れればマオも言うことを聞くんじゃないかと考えられているわ。そして貴女もマオの弟子だからこそ、どうやって鍛えられたのかどうして強いのか詳しく知るために多くの者たちから声を掛けられるでしょうね」
「え」
「マオの弟子になったからこそ逃げられないわよ。私達に対して嫉妬している者たちもいるし最低限の心構えだけはしておきなさい。中にはハニートラップを仕掛ける者たちもいるし」
「へぇ」
「はい?」
ハニートラップと聞いてマオは目の色を変えるし、シュナは何を言われたのか理解ができずに困惑した表情になる。
そんな中、マオはキリカの肩に手を置いて掴んだ。
「大丈夫よ。それに忘れたの………?」
キリカは肩に置かれた手に自分の手のひらを重ねてマオへと笑いかける。
その笑みは視界に入った者たちの顔を思わず赤くしてしまうもので、実際に理解できずに困惑していたシュナも顔を赤くしてしまっていた。
「…………そうだな」
キリカの言葉にマオも思い出し安心して肩から手を離す。
その様子に何故かシュナもほっと一安心していた。
「準備は終わったな?」
そして翌日の朝、マオの問いかけにキリカたちは首を縦に振って頷く。
まだ朝が早くまだ寝ている者もいるような時間。
なんで、いちいち逃げるような行動をするのかシュナは疑問を抱く。
「あの?もう少し時間を遅くしても大丈夫だと思うんですが………」
「下手に遅くすると強引に引き止められるからダメだ。王族たちと腹の探り合いとかやってられない」
「あっ、はい」
マオの真顔で告げた理由にシュナは納得してしまう。
それだけ圧が強かった。
「まぁ、貴方の強さの秘密を知るために毎日のように観察されるでしょうしね。他にも勧誘されたりとか。それが少なくなる田舎のほうが良いんでしょう」
「なるほど!」
先程よりも深く理解するシュナ。
マオの強さに惹かれるのは同じでも数が少ないほうが断るにしても受け入れるにしても楽なのはわかる。
だが、それなら王都に来て騎士たちに来てるのはどうなんだと思う。
しかも騎士だけでなくメイドや執事たちも鍛えているのだ。
あれだけの数となると多少増えても変わらないんじゃないかと考える。
「あれ?でも王都の騎士やメイドたちも鍛えていますから、それから弟子が増えても多少の変化でしかないですよね」
「弟子はお前だけ。あとは全部、教え子だ」
「それ何が違うのよ」
キリカの呆れた目にシュナも頷く。
どちらにしても鍛えているのは同じだ。
何が違うのかさっぱりわからない。
「俺はシュナには彼女個人にあった鍛え方や技を教えようとしているけど、教え子は適正とか全く考えず同じようにしか鍛えていないが?極論すれば俺じゃなくても誰でもできる教え方しかしていないし。今回だって、ただ組手をしただけだと言えるだろ?」
「「……………ホントだ」」
マオの言葉に今回騎士たちにしたことを思い出せば、たしかにそうだ。
組手しかしていない。
「前回来たときだって基本の素振りと実際に俺と乱取りしかしていないしな。まぁ、それだけでも強くなれる奴はいるんだけど」
マオの言葉にシュナはキリカを見るが、深く頷いている。
どうやら事実らしいとわかって呆れてしまう。
見方を変えれば手抜きなんじゃないかと考えてしまう。
「何度も言うが王都で地位を持っているやつは基本的にエリートなんだ。それも城で働いている奴らは」
それはわかる。
何気ない仕草でも街にいる冒険者よりも格段に優れているのだと理解できる者たちが多い。
そして城の外でも最低でも街のトップクラスの者たちが王都では山程いる。
「自分の鍛え方を知っているんだから、俺が鍛える必要はあまりないんだよなぁ。ただ世界の広さを実際に味あわせれば、それを目指して鍛えるだろうし」
だからマオが騎士たちに教えるのは基本だけで、あとは実際に組み手がほとんどなのだと二人は理解した。
たしかに鍛え方がわかっているのなら特に教える必要はないのかもしれない。
あとは高みを実感させればそれを目指して鍛えるだけだ。
「おっ、来たか」
そして目の前に馬車が来る。
これに乗れば、また次の機会まで王都とはおさらばだ。
「じゃあ乗るか」
そう言ってマオは先に馬車の中へと入る。
それに続いてキリカ、シュナと中へと入っていく。
シュナは馬車の中に乗りながらも次に来る時は観光する時間も一緒に入れてほしいと頼むことを考えていた。




