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教え子と弟子 王都で②

「さすが貴方の選んだ弟子ですね。我が国でも選りすぐりの騎士たち相手に連続して勝てるなんて」


「ありがとうございます。この者もそれを聞いたら喜ぶでしょう」


 マオがシュナを担いで部屋へと運んでいる最中、ハニルが王女として労りの声を掛けてくる。

 それに対してマオは頭を下げて礼を言い立ち去ろうとする。


「待ちなさい」


「何のようでしょうか?」


 王女相手に平然と立ち去ろうとするマオにハニルは慌てて引き止める。

 今まで自分を前にして、あっさりと立ち去ろうとする者はいなかった。

 だから驚きながらも少しだけ新鮮さを覚える。


「私達の騎士にも力を入れて鍛えてくれませんか?」


「優先するのは、こっちの弟子ですので」


「貴方が鍛えてくれれば私も民たちも安全に暮らせるのですよ?」


「俺がいないと護れないのですか?今まで護ってきていたのに?」


「それはそうですが……」


「それに誰かを護るというのは専門ではないので、個人の技量を上げることしかできません」


「それでも、もう少し力を入れて鍛えてください。頼みますよ」


 何を言われてもマオに騎士たちをもう少し腰を据えて鍛えてくれと頼み去っていくハニル。

 マオはそれを聞いても面倒だとしか思えなかった。




「面倒だな……」


 シュナの使っている部屋へと入りベッドの上に置くとマオはつい不満を口に出してしまう。

 鍛えてくれと言われているが、やはり面倒だとしか思えない。

 それなら少しでも自分の利益になるように行動しても文句はないだろうと考えていた。


「そもそも俺が鍛える必要がないんだよな……。何年も王都を護ってきたノウハウがあるんだし」


 それでもマオはそのノウハウを全て無駄にして侵略できる自身はあるが。

 なにせ個人個人が弱すぎる。


「個人の能力の弱さを補うために俺を頼ってきているんだろうけどなぁ」


 だからマオは自分を頼ってきいるのだろうと考えているが、そもそもマオ自身はほとんど独学で学んできたのだ。

 王都のエリートが同じことはできないとは言わせるつもりはない。

 なにせ王都と比べて知識も含めた環境が全て劣っているのだ。

 それでも圧倒できる実力を持っている。

 環境も恵まれているのだし同じことぐらいやってみせろとマオは思う。


「俺だって個人でここまで強くなったんだ。環境にも仲間にも恵まれているんだから自力で強くなれば良いだろうに」


「それは無理ですよ?」


 マオの文句にシュナは思わず否定の声を上げてしまう。

 ベッドの上に置かれてから少しして目を覚ましたが、起きることはなく倒れたふりをしていた。

 下手に意識が目覚めたことがバレて更に戦わされるのはキツイ。

 それでもマオの愚痴にはツッコミを入れたくなってしまった。


「何故?」


 それに対してマオは驚くこともなく聞き返す。

 その様子に起きていたことも気づいていたのだと察しながら答える。


「独学ではありえない強さじゃないですか。環境も王都より劣っていますし。それでも騎士たちよりも強いんですから、その理由をわかるまで離さないじゃないかと思いますけど」


「才能とかで勝手に納得するだろ」


「それだけでは納得できない強さですから」


「連続して互角以上に戦えたお前もいるのに?弟子だとは紹介したけど、まだあまり鍛えていないだろ?」


「……………だからこそ少しでも個人の能力を上げたいとか?」


「………理由がわかっても面倒臭いな」


 シュナの言葉に納得しながらも面倒だと口にするマオ。

 聞かれていたら、どうするんだとシュナは顔を青くしていた。


「まぁ、良いや。それよりも明日も同じようなことを繰り返すからちゃんと休んで体力を回復しろよ」


「………はい」


 意識はちゃんと目覚めているが動く気力が全くわかないこの状態を明日も繰り返すのだと目が死んでしまう。

 そしてマオは部屋の外に出たのを確認してため息を吐いた。



「キリカのところに行くか」


 シュナの部屋から出たあとマオは王都に来るのに一緒についてきたキリカのいる部屋へと向かう。

 王族たちがマオからの印象を良くするために恋人用の部屋まで準備したのだ。


「今、いいか?」


「ちょっと待ちなさい!」


 早速部屋の前にたどり着き扉を叩くとドタバタという音と返事が帰ってくる。

 そのマオは苦笑し向こうから扉が開くのを待つ。


「入って良いわよ!」


 中に入ると部屋の中が綺麗に片付いている。

 だがドタバタとした音から入るまでは、ある程度は散らかっていたんだろうと想像できる。


「どっか飯を食べに行かないか?」


「別に良いけど………。王族たちは大丈夫なの?」


「別に誘われていないから大丈夫だろ。それでお前は大丈夫か?」


「…………えぇ」


 マオの言葉に呆れながらも頷く。

 どうせ誘われる前に逃げようと考えているのが予想がつく。


「これから誘われるかもしれないけど良いの?」


「まだ誘われていないから知ることはない。だから大丈夫だろ」


 その言葉にキリカは説得を諦め、一緒に城を抜け出すことにする。

 何も言わずに城の外に出ることはないだろうし、その際に引き止められるだろうが、その結果引き止められるのか、それとも抜け出すのかも興味もあった。


「すいません。これから城の外で外食してきます。三時間後には戻りますので」


 そう思っていると早速、マオは近くにいたメイドへと声を掛ける。

 そしてキリカを抱き上げて窓から城の外に出た。


「え?」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 有無を言わさずに要件だけを告げて城の外へと出たマオ。

 あまりにも急なそれに脳が理解できずにメイドは呆然とし、キリカは他人のいる前で抱き上げられ窓の外から脱出するために落下していくことに驚愕と困惑が入り混じった悲鳴を上げる。


「それじゃあ行くか」


 後ろから何か叫び声が聞こえるがマオは無視して地面に着地する際のエネルギーを吸収してダッシュし猛スピードで城から離れていく。

 キリカはそのスピードに落ちないようにすることしか考えることができず、思い切りマオへと抱きついていた。




「さてと、どこで食べるか………」


 正直に言って緊張とプレッシャーで味がわからなくなる城での食事でないのならマオはどこでも良いと考えている。

 どうせなら味のわかる美味いものを食いたいのだ。


「いい加減に降ろしなさい………!」


 そんなマオにキリカは怒りと羞恥で顔を赤くして降ろせと文句を言う。

 街中にも関わらず抱きしめられているのを見られるのは恥ずかしい。


「……そうだな」


 少しだけ名残惜しく思いながらもマオもキリカを丁寧におろす。

 その姿にどこからともなく感嘆の息が聞こえるが敢えて無視をした。


「それでどこで食べるのか決めてたの?」


「いいや。だけど城での味のしない食事よりは遥かにマシだろう」


「………まぁ、慣れないわよね」


 マオの言うことにも深く頷くキリカ。

 生まれも育ちも庶民な自分たちでは楽しむこともできない。

 やはり住んでいる世界が違うと感じてしまうのだ。


「周りの食べ方も綺麗だから私の食べ方が汚く感じて恥ずかしくなるし……」


「まぁ、そこは教えてもらえば問題ないけど。じっと見てくるのが本当にキツイ。食べ方が汚いなら、そういえば良いのにな」


「多分だけど、そういう教育を受けていないのは知っているから何も言わないのよ。そこまでわかっているのら見逃してくれれば良いのに」


「もしくはテーブルマナーの教師をつけてくれたりとかな」


 そこまで愚痴り合ってキリカはマオを睨む。

 マオもまたテーブルマナーがしっかりしていてキリカに自分のマナーの汚さを自覚させた一人だ。

 彼に教えてもらうのも良いかもしれない。


「ねぇ?どうせだし私にテーブルマナーを教えてくれない?」


「良いけど、いつからやる?街に戻ってからでも良いし、城にいる間部屋で教えるのも……それは無理か」


 弟子と教え子を鍛えに来ている以上、優先するべきはそちらだ。

 そうなると王都にいる間は教える余裕がない。

 マナーを教えるのは街に戻ってからになるだろう。


「教えるのは街に戻ってからだな」


「そうなの?」


「一応、王都には騎士たちを鍛えるために来ているからな……。そちらより優先させたら何を言われるか予想できないし」


「あぁ、そうだったわね………」


 マオがそうして鍛えているからこそ自分も城の中で生活できるのだと思いだしてため息を吐くキリカ。

 珍しい経験ができているのもマオのお陰だが同時に場違いから生じるプレッシャーを強く感じる経験をしたし、テーブルマナーの差に恥ずかしさを覚えた。


「街に戻ったらお願いするわ」


「わかっている」


 キリカの頼みにマオは頷いた。

 そして自分が教えるところを想像し、ある程度の実力がついたら自分が教わった相手へと教育を頼もうと考えていた。

 自分が教えるよりも、しっかりとした相手に教えてもらったほうが良いと考えたからだ。

 そういう意味では城にいる者たちでも大丈夫なのだろうが、それが借りとなって更に仕事を引き受ける羽目になりそうでマオは嫌だった。


「じゃあ帰ったらシュナも一緒にマナーを教えるつもりだけど良いか?」


「は?」


 勉強とはいえせっかく二人きりでいられるのに別の女も一緒にいると言ったマオにキリカはなまじを吊り上げる。

 シュナももしかしたら必要かもしれないというのはわかるのだ。

 一緒に王都に来ているし弟子として紹介をしてしまった。

 その縁から個人的に呼ばれることもあるかもしれない。

 だけど、それはそれとして二人きりの時間を減らすのが気に食わない。


「将来的に俺の弟子として個人的に呼ばれるかもしれないしな。それにシュナと二人きりで教えることになって浮気かと心配されたくないし」


「それは………」


 たしかにマオがシュナと二人きりでマナーを教えていたら嫉妬で浮気かと心配するだろうという確信がキリカには有る。

 それなら一緒にマナーを教えてくれたほうが、まだ安心できる。

 だから否定することは難しい。


「そうね………。だけど教える時は絶対に私も含めて三人いるときだけにして」


 キリカの言葉にマオは苦笑しながら頷いた。



「マオ様たちはいないのですか?」


「申し訳ありません。部屋から出たと思ったら城の外で食べると言って止めるまもなく出ていかれました」


「…………そうですか」


 一緒に食事をして話を聞こうと思ったが、その前にマオたちは城の外で食べるために出ていってしまい残念にハニルは思う。

 前に言っていたようにプレッシャーで味がわからないと言っていたし、それが嫌で逃げたのだと簡単に予想できている。

 それなら慣れで克服できるから誘っているのに逃げられて残念に思ってしまう。

 それにマナーの方も自信がないのなら教えてるぐらい良いのに遠慮しないでほしかった。


「訓練の間は逃げられないでしょうし、明日は訓練の邪魔をすることにしましょう」


 そうすれば逃げられないだろうとハニルは企む。

 せっかく貸しを作れるのだ。

 逃す手はなかった。


「貴女!」


「はいっ!」


「貴女もマオ様たちが逃げようとしたら次はひっついてでも止めなさい。少しでも多くの接点を持って愛着を持ってもらわないと」


 すぐ隣にいたメイドにもハニルはマオたちと食事ができるように引き止めるように指示を出す。

 今回のように逃げられたら食事を共にする機会がなくなってしまう。

 それよりは、どんな手を使っても引き止めるほうが重要だった。

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