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教え子と弟子の差⑤

「あっ」


「うん?」


 マオはキリカを片手に抱きシュナを肩に担いで家に帰る最中、朝に警戒された冒険者に再開する。


「ひっ人が増えてる!?」


「さっきまでずっと組手をしていたからな。途中で意識を失っただけだ」


「な…なるぶっ」


 マオに対して親しげに話している冒険者に近くにいた男性が頭を叩く。

 一緒にパーティを組んでいるのだろうか、どことなく親しげに見える。


「この人と親しいのか?」


 それどころか少し睨んでくる姿にマオは面白く思った。

 もしかしたら好意を持っている相手が知らない間に別の男と知り合っていたことに嫉妬しているのかもしれない。


「朝に偶然出会って女を攫う不審者だと思われただけだ」


「…………マジ」


 マオの答えに確認をするが頷かれ、そして怪しんだ冒険者も気まずそうに顔を逸らす。

 そのことに事実だと理解し、男だけでなく近くにいたパーティメンバーらしき者たちも頭を下げる。

 どうやら女の冒険者以外の者たちはマオのことを知っているらしい。

 圧倒的な力の持ち主を不審者として扱って不快に思われていないか、かなり不安になっている。


「別に本気で心配していたし、話せば直ぐに理解してくれたから気にしていない」


 マオのフォローに目を逸らす女。

 その行動に実際は嘘だなとパーティメンバーたちは察してしまう。


「本当は?」


「嘘は言ってませんよ」


 誤魔化してくれるマオに女の冒険者は感謝の視線を送り、他の者達は誤魔化しているなと察してしまう。

 そして更に詳しいことを聞こうとするが、その前にマオに逃げられそうになる。


「それじゃあ、俺はもう家に帰るな。いつまでも話していたら、こいつらも風邪を引くし」


「え………。あ………」


 引き留めようと考え、同時に気の失った女性をいつまでも外に置くわけにはいかないという考えも引き止めるには弱々しくなる。

 その間にマオは去っていき見えなくなっていた。





「………さて、どうするか」


 家に着くてマオは困った表情を浮かべる。

 理由は未だに意識を戻さない二人のせいだ。

 汗だくのまま置いても風邪を引きそうだし、全然意識を戻しそうにない。


「もうシャワー室にでも置いて水でもぶっかけるか?」


 そこまですれば起きるだろうと考えてマオはシャワー室へと連れて行く。

 服は用意していないがバスタオルを巻いてキリカが部屋まで歩いていけば良いし、シュナの服もキリカが貸せば良いとマオは考える。


「そうと決まれば早速やるか」


 ちなみにマオはバスタオルぐらいは出すが、それ以外は準備をするつもりはない。

 流石に服はともかく下着などタンスから引き出すのはキツい。

 それなら中途半場に準備をするよりは最初からほとんど準備しないほうがマシなんじゃないかと考えたのが理由だ。


「えい」


「ぷあっ!?」


「ぶぶぶっ!?」


 そしてマオは早速二人の顔にお湯を掛ける。

 一度で意識を取り戻したことに満足するが、キリカからは睨まれてしまう。

 どうやら強引に起こされたことが不満らしい。


「とりあえずシャワーでも浴びて汗でも流せ」


「服は?」


「バスタオルで隠して部屋まで行けば?」


「ふざけているの?」


 着替えの服がなくバスタオルで隠して服を用意しろと言われて苛立ちを覚えるキリカ。

 だが下着や服まで準備をされるのは複雑に感じてしまう。


「女性は準備で必要なモノがあるんだろうけど俺はわからないしな。中途半端に準備するよりは良いと思っただけなんだけど。それでも下着とか持ってきたほうが良かったか?」


「…………」


 マオの言葉に何も言えなくなるキリカ。

 いっそのこと女性の着替えに必要なものを教えてやろうかと考えてしまう。


「あとシュナの服も準備してやれよ?男が恋人でもない女のサイズを知るのは嫌だろうし、そこも任せた」


「うん?」


 マオの言葉にキリカは横を見る。

 そこには苦笑いをしているシュナがいて、ずっと隣にいたのにマオへの不満で気づかなかったことに顔を赤くする。


「………そうね。今日は服と下着を貸すから、それで我慢して貰っても良い?」


「えっと………ひゃいぃ」


 汗とマオに掛けられたお湯で下着もビシャビシャだ。

 借りれるのならぜひ借りたいと考えていた。


「それと今日は何も無いのなら泊まる?」


「えっ」


「その方が下着も乾いたら直ぐに返せるし、どうする?」


 更に泊まらないかと提案されて思考が泊まる。

 折角の恋人同士の家なのにお邪魔じゃないのか不安だし、邪魔になっていたら自己嫌悪をしてしまいそうだ。


「じゃ、邪魔にならないんですか?」


「?何を言っているのかよくわからないけど安心しなさいよ。これからは意識を失うたびにマオの家に連れて来られるんだろうし」


「…………はい」


 これからもマオとの訓練で意識を失い、恋人同士の邪魔をすることになるのだという絶望とそれだけ厳しい訓練を受けるのだと理解して弟子になったのは間違いだったのかなと少しだけシュナは後悔していた。




「それにしてもマオって意外と貴方に甘いわよね」


「え?そうなんですか!?」


「えぇ。王都にいた時は男も女も関係なくに意識を失った者たちは放置していたし、それと比べれば格段に扱いが良いわよ」


「えぇ?」


 嬉しいが王都にいる騎士達に比べて、どうして優しくしてくれるのかシュナも疑問を抱いてしまう。

 もしかしたら自分が忘れているだけで昔の知り合いで仲が良かったのかと考えてしまう。


「とりあえずシャワーから出たら、どうして王都の騎士に比べて優しいのか確認しない」


「はいっ!お願いします!」


 キリカの確認はシュナもぜひ知りたいことだから是非にと頷く。

 それにキリカの嫉妬のような敵意の視線は向けられたくない。

 マオが優しくしてくれる理由がわからないから敵意を向けられているのであって、マオが優しくしてくれる理由がわかれば安心して敵意の視線も送ってこないだろうと想像していた。


「それでマオ!何でシュナには優しいのよ?」


「………?キリカの方が特別扱いしているつもりだけど?」


「そ……そう」


 キリカはマオの言葉に照れて何も言えなくなり、そしてシュナはマオの言葉によって顔が赤くなったキリカと二人の間に流れている空気を堪能している。


「っは!そうでなくて王都にいる騎士達とは扱いが違うじゃない!」


「当たり前だろ?」


「えぇ?」


 当たり前だと返されてキリカたちは困惑する。

 何で扱いに差があるのか理由がわからず、もしかして騎士達が嫌いなのかと考える。


「えっと、何で当たり前なんでしょうか?」


「誰かに鍛えてやれと頼まれた者と自分で鍛えると決めた者に対するモチベーションは違って当然だろ?」


「…………そうね」


 マオの答えに少しの納得とやはり王族の命令で騎士達を鍛えるのは嫌なのかと呆れる。

 こちらにもかなり配慮してくれているのだし、もう少し乗り気になっても良いんじゃないかと考える。


「それと今度、王都に行くときはシュナも連れていくつもりだけど大丈夫か?」


「へ?」


「俺の弟子とあいつらで戦わせたい」


「え………」


 マオの言葉に困惑するシュナ。

 そしてキリカは趣味が悪いと呆れてしまう。

 おそらくだが適当に相手をしてしか鍛えていない騎士達と本気で鍛えているシュナではかなりの差が出るはずだ。

 なぜ結果のわかりきった勝負をさせるのかわからない。


「とりあえず勝てるように鍛えるから頑張ろうな」


「え」


 マオにとっては格下かもしれないがシュナにとっては選りすぐりのエリートたちだ。

 そんな簡単に勝てるわけが無いだろうと考えていた。


「勝てるようにって王都にいる騎士達にですよね!?選りすぐりの騎士達ですよ!?無理ですって!?」


「「…………」」


 シュナの言葉にマオもキリカも生暖かい視線を向ける。

 少なくともキリカと肩を並べて戦える女が無理なわけが無い。

 むしろ互角以上に戦えるはずだ。


「自分の実力がわかっていないだけだ。どちらにしても戦わせるから覚悟はしておけ」


 自分の正確な実力を把握させるためにも丁度いいためマオは戦わせることは決める。

 そしてキリカもそれには賛成で文句を言うつもりはない。


「そんな………」


「一応言っておくけど色んな相手と戦って経験を積む目的もあるからな?勝てる勝てない関係なく、いつかは戦うんだから遅いか早いかの違いだけだ」


「それは……」


 マオの言葉に騎士達と戦うこと自体は遅いか早いかの違いだけだと言われてシュナは納得しそうになる。

 多くの者と戦うのはそれだけ多様性があり経験になるというのは理解できるからだ。


「いえ、やっぱり無理です」


「お前の意見は聞いていない。絶対に騎士達と戦ってもらう」


 だが王都の騎士達とは実力差があると考えているために無理だとシュナは弱音を吐く。

 それに対してマオはシュナの意見は聞いていないと弱音を切り捨てる。

 弟子なのだ。

 強くなるために、まずは俺の指示に従えとマオは考えていた。

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