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彼女へのプレゼント①

「マオ!」


「どうした?」


「彼女へとプレゼントしたい物がダンジョンで回収できるんだ!パーティを組んで一緒に探してくれないか!?」


「えぇ………」


 マオはカイルの頼みに難色を示す。

 どうせ今回も彼女を奪われるだろうから無駄だと思ってマオは拒絶する。


「頼む!!」


 カイルは今度こそ大丈夫だと思っている。

 そして最高のプレゼントを贈るためにマオと協力してダンジョンに収穫できる材料を手に入れようとしていた。


「………まぁ、良いか」


 マオも必死に頭を下げて頼みこんでくるカイルに折れる。

 いい加減にソロで挑むのは辞めろとも言われているし丁度良いかもしれないと考えている。

 一時的にでも偶に組んでいれば文句も言われないだろうと考えている。

 しかも目の前にいるカイルは勇者だ。

 猶更大丈夫かもしれない。


「本当か……!」


「は?」「え?マジ…?」「あのマオが……?」「相手はカイルか……」「それならおかしくないか?」「でも今更?」「多分、一時的にじゃないか?」


 マオが頷いたことにカイルどころか話を聞いていた者たちも驚く。

 まさか受け入れられるとは夢にも思っていなかったのだろう。


「ただしパーティを組むのは一時的にだ。パーティの仲間になるわけじゃないからな?」


「あぁ!大丈夫だ!っし!!」


 一時的でも良かった。

 偶によく知らない相手と一緒にパーティを組むから、それと同じようなモノだと思えば良い。

 もしかしたらマオは自分達とは固定でなければ偶に組んでもらえるのではないかと想像する。

 姉にもそのことを教えてやろうと考える。


「それで何時からパーティを組んで挑むんだ?」


「準備もあるし明日で良いか?収穫するのに必要な道具は俺が持っていれば良いしマオはいつも通りに来てくれ」


 その言葉にマオは頷く。

 何も準備する必要は無いというのは有難かった。


「なぁ、マオ?」


 そしてミルクを飲んでいると話しかけてくる者がいる。

 カイルは既に帰っている。

 機嫌よくスキップしそうな調子で帰っていた。

 その様子にマオも話を聞いていた者たちもどれだけ嬉しく思っていたのかと呆れてため息を吐いていた。


「どうした?」


「お前って一時的にはパーティを組んでくれるのか?」


「ギルド長とかうるさいからな……。それに基本的にはソロだ」


 ギルド長がうるさいというのにあぁ、と納得する者達。

 何度かパーティを組めと言われていたのは知っている。

 マオが折れたのだと理解した。


 だからマオを自分達のパーティに勧誘しようと考えた。

 マオほどの実力者なら独断でパーティに入れても文句を言われないだろうと予想する。

 むしろ賞賛を受けそうだ。

 何故なら自分ならそうする。


「いっそ、どこかのパーティに入ったらどうだ?お前なら何処でも歓迎するだろし俺たちだって歓迎するぞ?」


「基本ソロだって言っただろうが……。俺はパーティに入らないよ」


 どうしてもソロであり続けようとするマオに少しだけ不満を持ってしまう。

 パーティを組むのなら何を求めるのか疑問だ。


「お前はパーティを作るとしたら何を求める?」


「そもそもソロだって言ってんだろ。俺は気楽なのが好きなんだよ」


「気楽か………」


 そんなものを求めてソロでいるのは普通は危険すぎる。

 だがマオは良くも悪くも普通では無かった。

 少なくとも一つのパーティを機嫌が悪かったとはいえ容赦なく壊滅する実力がある。

 自分の好きなようにやれる実力がマオにはあった。


「わかった。じゃあパーティを一時的に組む依頼って受けれるか?」


「…………そのぐらいなら、まぁ良いけど」


 そういう依頼なら気分によるが受け入れても良いかもしれないとマオは思っていた。

 とはいっても基本的にはやっぱり受けるつもりは無い。

 それで一人の時間が減っていくのは嫌だった。

 あくまでも受けるのはギルド長の説教を避けるため。

 必要以上にはパーティを組む気は無かった。


「なら早速だけど………」


「それミルクの代金!!」


 パーティを組まないかと誘われるのだろうと察知してマオはミルクの代金をカウンターに置いて立ち上がる。

 そして一気に酒場の出入り口まで走る。


「待て!!」


 パーティに誘おうとしていた者たちは逃げ去ろうとしてるマオを妨害しようと手を伸ばす。

 だが捕まえることが出来ない。

 マオの方が圧倒的に速かった。


「誰が逃がすか……!」


 だがマオを捕まえることは諦めれなかった。

 酒を飲んでいた者たちを中心に酒場の外に出る。

 そしてマオを捕まえるために全力を出し始める。

 多くは酒を飲んでいて代金を払っていないのが殆どだった。


「…………代金を払わずに出ていきやがった」


 当然、酒場のマスターはそのことに気付いて怒りを抱く。

 ギルドに所属しているほとんどの冒険者が無銭飲食で酒場を出て行ったのだ。

 ギルドに文句を言ってやろうと考えていた。



「鬼ごっこかな?」


 マオは自分を折ってくる冒険者たちを見て思わず、そう口にしてしまう。

 見たところ、ほとんどの顔が走ったからではなくお酒が原因で顔を赤くしており、ため息が出る。

 無銭飲食をしてしまったんじゃないかと予想してしまう。


「俺が原因かもしれないし、潰れたら酒場に置いていくか……」


 無銭飲食をした原因としてマオは怒られたくなかった。

 他の者たちを犠牲にして生き延びようとする。


「適当に見つかる位置で走り回っていたら倒れるだろ。後は捕まらない様に油断しなきゃな」


 油断さえしなければ捕まらないと確信をしているマオ。

 完全に自分以外の者たちを隠した扱いをしていた。


 そして数分後、走り回って酒が回ったのか酒場にいた冒険者たちは道端で倒れている。

 その姿にマオはため息を吐いて回収をした。


「はぁ……。酒が回っている癖に動き回りやがって………。誰も吐いていないのが幸運だな」


 もし吐いている奴がいたら、無視して捨てようとマオは考えていた。

 そこまで面倒を見たくなかった。

 倒れたのを回収して酒場というある意味安全な場所に放置するだけ有難いと思って欲しい。

 酒場のマスターも迷惑料としてこいつらの金から絞り出せば受け入れてくれるだろうとマオは考えている。


「取り敢えず、まだ酒場は空いているかな?」


 空いていなかったら、どうしようかと悩みながらマオは酒場へと酔っ払い共を運んでいく。

 結構な人数がいるため、何度も往復する必要があるのが面倒だった。





「キリカ」


 カイルが家に帰宅すると既にキリカが帰っていて自分の名前を呼ばれたことに反応する。


「何?」


「明日、俺マオとパーティを組むことになったから」


「は?」


 カイルの言葉にキリカは聞き返してしまう。

 マオがパーティを組むなんて信じられなかった。

 何で急にパーティを組む気になったのか疑問だ。


「羨ましい?」


 カイルの疑問にキリカは苛つき、ぶん殴ろうと握り拳を作る。

 それを見てカイルは殴られない様に距離を取り始める。

 挑発が効き過ぎていた。


「何?自慢?」


 じわじわと距離を詰めてくるキリカにカイルは冷や汗を流し、必死に首を横に振って自慢では無いと伝えようとした。


「あら?自慢でも無いのに羨ましいかと聞いたの?」


「ごめんって!!本当はマオと一時的にパーティを組む方法を伝えようとしたんだって!」


「一時的に?」


 どういうことかと振り上げた拳を降ろすキリカ。

 さっさと答えろとカイルに視線を向ける。

 カイルはキリカのガチの睨みに怯えながら説明する。


「多分だけどマオは一時的にという条件さえあれば組んでくれると思う……。ギルド長にこれ以上、説教されるのも嫌みたいだし」


「………なるほど。基本的にソロでいるつもりだけど頼めばパーティを一時的にだけど組んでくれるのね」


 それなら自分もパーティを組めそうだとキリカは期待を胸に膨らませる。

 自分もパーティを組んでもらおうと考えていた。


「………待って。カイルは明日パーティを組むのよね?」


「………そうだけど」


 カイルはこれは明日、キリカもパーティを組むことになるな、と思った。

 正直、恥ずかしいから絶対に嫌だった。


「私もパーティに組みなさい?」


「ごめん。明日だけは許して」


 キリカの予想通りの言葉にカイルは即答する。

 マオと一緒にダンジョンに挑んで収穫するアイテムを知られるのが恥ずかしかった。


「は?何で?」


「お願いします。もともと二人だけで約束していたのに勝手に増やして迷惑を掛けたくないし、少し恥ずかしいので……」


「ふぅん………」


 勝手にメンバーを増やすのは確かに迷惑を掛けるかもしれないとキリカは納得する。

 だが恥ずかしいという言葉が気になる。

 何となく女の勘に引っかかってカマを掛けてみる。


「なに?恋人にプレゼントでもするの?綺麗なクリスタルがあるダンジョンで回収して加工してもらうの?」


「なっ!?」


 キリカのカマ掛けに顔を赤くして反応するカイル。

 それにキリカは顔をにやけさせる。

 たしかに、それは恥ずかしい。

 実の姉と恋人へのプレゼントを手に入れるためにダンジョンに行きたくない。

 からかわれるのが分かっているから嫌だった。


「ふぅん。からかわないけど一緒に行くのはダメ?」


 それなら、からかわなければ良いだろうと考えキリカはもう一度頼む。

 急に人数を増やされてマオも迷惑かもしれないが、一緒にダンジョンに挑みたかった。

 こういう機会は逃したくない。


「それは……」


「なら私も待ち合わせ場所まで一緒に行く。その後、マオに一緒にダンジョンに挑んで良いか質問する。良かったら一緒に挑むし、ダメだったらその場で帰るわ。当然、カイルもからかわない。お願い!!」


 姉の頼みにカイルも、それならと頷く。

 自分をからかわないし、マオが駄目だと言ったら帰るのなら一緒に連れて行っても良いかなと考える。


 だがカイルは案外、三人でダンジョンに挑みそうだなと思っていた。

 マオもキリカも付き合っていないだけで好き同士なのだろうと考えている。

 キリカが一緒と聞いたらあっさりと受け入れそうだなと予想していた。


「ところでキリカは二十代後半までマオと付き合わないのか?」


「………そうよ。悪い?」


「まぁ、相手がいるなら良いんじゃない?誰にも貰えないよりはマシだろ」


 カイルはキリカに気になっていたことを確認する。

 どちらも自分にとって身近な相手だ。

 マオは聞いたことがあるがキリカに直接聞いたことが無かった。


「うるさいわね。そういうカイルこそ結婚できるの?好きな相手を何回奪われているのかしら?」


「キリカこそ何度も信頼しているという仲間を何度、奪われたんだよ?人の目を見る目が無さすぎるだろ?」


「それはそっちも同じ。これで女の子を奪われたのは何度目?同じパーティの男の子に奪われて何回パーティを解散したのかしら?」


「はぁ?そっちこそ何回目の冤罪でパーティを解散したんですかぁ?」


「「……………」」


「止めようか?」


「そうだね」


 お互いに痛いところを突き合って休戦する二人。

 最後には互いの肩を叩き合って慰めていた。


「それじゃあ確認だけどマオが駄目だと言ったら帰れよ?もし強引に一緒に行動しようとしたら二度とパーティを組まないかもしれないし」


「わかっているわよ。理詰めで説得して、それでも駄目だったら諦めるわ」


 最後に確認してお互いの部屋に戻る二人。

 どちらも明日を楽しみにしていた。



「あぁ~。終わった」


 そしてマオは自分を追って道端で倒れた者たちを全員、酒場へと運んで寝かせる。

 酒場のマスターも笑顔で倒れた者たちを受け取った。

 それもマオの提案のせいだ。


「お疲れ。ほれ」


 マスターはマオに袋を渡す。

 中身はお金が入っていた。


「急にどうした?」


「どうしたも何もお前がこの店に無銭飲食をしたものを連れてきたことで確実に金額を回収できるし、泊まらせた分も更に金を回収できる。それと比べたら軽いもんだ」


 連れてきた人数を軽く眺めてマオも頷く。

 泊めたことで回収できるだろう金額と比べたら確かに少ない金額だ。


「なら有難く受け取っておく。………それで今日も営業するのか?」


 こんなに多くの者が倒れていては仕事にならないんじゃないかと思ってマオは疑問を持つ。

 それに対して鼻で笑う酒場のマスター。


「流石に昼からは厳しいかもしれないが夜には確実に再開しているから安心しろ。心配ならお前も手伝うか?」


「カイルと約束があるから遠慮させてもらう」


「それは残念だ」


 マオも一緒に仕事が出来るように手伝わないかと誘うが断れて少し残念そうにする酒場のマスター。

 先約があるのなら仕方が無いと諦めている。

 だが、それでも出来るなら夜には言った通り酒場を開いているから見に来て欲しいとは思う。


「まぁ、それでも夜には出来たら来てくれ。予想外の収益が出たんだミルクくらいは奢ってやる」


 酒場のマスターにマオは笑顔で頷く。

 是非とも何も問題が無ければ夜には行こうと思っていた。

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