教え子と弟子の差④
「はぁ!」
シュナはマオへと槍を突き出し、それを回避するたびに突きを繰り出す。
その攻撃は全てマオの体を左右半分にして左側を徹底して狙っている。
おそらくはマオが右側に避けるように誘導しているのだろう。
「ふっ!」
現にマオが右側に避けると同時にキリカの攻撃が迫ってくる。
マオはこれを問題なく受け止めて防いだが、それは実力差によるもので他の者だったら大ダメージを負っていたはずだ。
「今のは良いな。少しだけ問題はあるけど」
「そうですか!!」
すかさず下から槍を振り上げるように薙ぎ払わえ、そしてそれを回避するように後ろからキリカが剣を振り下ろしてくる。
常にマオを挟んだ位置にいることに感心を覚えてしまっている。
だが今回は失敗をしてしまっている。
「さっきも失敗していただろうが。もう少し互いの位置を考えろ」
それはシュナとキリカの二人の距離が近すぎるということだ。
もっと言えば互いに武器で直接攻撃したこと。
それは位置や距離においては逆に味方を攻撃してしまう危険性がある。
現にマオが回避する途中で横にズレただけでキリカの剣がシュナに当たりそうになっている。
初めて組んだから連携も何も無いとは言えあまりにも危ない。
「それで?」
「っ!?」
マオは一気にキリカに近づき振り払われる前にまた離れる。
「もしかして今度は巻き込んでしまわないように離れて魔法で攻撃するのか?………いや違うか」
その言葉と同時に魔法がマオへと襲ってくる。
そしてその影響で煙が舞い、視界が塞がれた。
更に一瞬遅れて響いた甲高い音。
金属同士がぶつかったそれにシュナが煙に隠れてマオに攻撃したのだとキリカは理解する。
「そこっ!」
片手がシュナの攻撃を防ぐのに使ったのなら、片方はガラ空きになっているはずだ。
すかさずにキリカは少しづつ晴れてきた眼の前の光景に使っている手の方向へと進む。
「なっ!?」
「確かに片手はふさがっているし、その方向から攻撃するのも悪くないけど逆に言えば盾にも使えるだろう?」
そして既に使っている腕の方から渾身の攻撃をぶつけようとして直前で止まる。
その理由はシュナだ。
マオは使っている腕をそのままにシュナを捕まえキリカの前に置くことで盾として使ったせいだ。
「惜しかったな」
それだけを言ってマオはシュナをキリカへと向けて蹴り出す。
直前にシュナは両腕を使ってガードをしたが威力を殺し切ることはできず吹き飛び、その勢いのままキリカへとぶつかり互いに倒れ込む。
「直ぐに立ち上がれって」
そこへ更にマオは追撃をする。
足を地面に叩きつける勢いで振り下ろし、シュナとキリカの二人は互いに絡み合いながら横に転がって回避する。
今度は蹴り上げようと近づいたら互いに押出してしまい片方はマオに接近し、もう片方は離れる。
近づいた方はあまりにも急にマオに近づいたせいで逆に攻撃を防いでしまっていた。
「速く立ち上がって離れてください!」
その言葉が聞こえるとマオは反射的に腕を上げる。
それと同時に腕に衝撃が奔る。
どうやら離れた位置に移動した方が魔法を放ったらしい。
自分の言葉に直ぐに反省し行動に移したことにマオは気分を良くする。
「っ!」
更にその一瞬後に今度は接近してしまった方が、倒れたまま攻撃をしてくる。
闇雲に放った一撃ではなく確実に足を狙った攻撃。
転がり込んだのは偶然でも絶好の機会を見逃さなかったことにマオは評価を上げる。
「キリカさん!私が突撃して時間を稼ぎますのでチャンスを見つけたら見逃さずに攻撃してください!」
「わかったわ!お願い!」
威力の高さではキリカの方が優れている。
そして技の連携や隙を作るのはシュナの方が優れている。
それがマオに一緒に挑むことによって実感したのだろう。
当然のように役割分担を決めていた。
「先程と同じだな………」
だが、それは先程までと同じだ。
意識しているかどうかの差はあるかもしれないがマオからすれば大して変わりはない。
「なら……」
だから変化を加える。
先程までは相手が攻撃をしてから反撃をするのが基本だった。
自分から攻撃することに積極的ではない。
だから今度は逆に積極的に攻撃することに決める。
当然、一撃で終わるようなヘマはしない。
一撃一撃は思いかもしれないが決して意識を奪わないように慎重に手加減をして攻撃する。
そうでないと防戦一方の場合での行動が見ることができない。
「本格的に攻撃していくからなー」
更にマオは事前に攻撃することを宣言する。
まさかマオの方から積極的に攻撃することが予想できずに無防備に攻撃を受けてしまったなんてことになったら笑えない。
「舐めるなごふぅっ!?」
マオの余計なおせっかいに文句を言おうとするキリカ。
だが、その途中で腹を殴られ、うめき声を上げてしまう。
「攻撃すると言っただろう?」
更にそれだけでなく回し蹴りで蹴り飛ばす。
目で追えないくせに何で警戒しないのかマオは疑問に思うが、次はシュナへと視線を向ける。
こっちはどこから攻撃が来ても対処できるように身構えていた。
「やっぱりキリカより優れているな」
「っ!?」
思わずため息を吐くマオ。
後ろから攻撃しようとするが、すぐに反応して手に持った短剣で反撃をしてくる。
肉を切らせて骨を断つではなく、骨を断たせて肉を斬るという覚悟のそれにマオも思わず攻撃を途中で止めて距離を取る。
シュナが反応できたのは攻撃の直前に声を出したのもあるが、それでも咄嗟に反応できることが素晴らしいとマオは感じてしまっていた。
「ありがとうございますっっ!?」
だから今度はマオは声を出さずに攻撃をする。
キリカより優れているという褒め言葉に感謝の言葉を返すあたりにまだ余裕があると考えマオは更に速度を上げるが、それもギリギリで腕を重ねて防ぐ。
反射で防いだことをマオは察し、直感にも優れているなと思う。
「そこっ!!」
そして感心している隙を突いてキリカが突撃してくる。
あとは剣を振り下ろせばマオを切り裂ける。
その瞬間にマオはシュナを腕を掴み、シュナ自信を武器としてキリカを攻撃する。
そしてキリカに当たると同時にシュナを手放し一緒に吹き飛んでいった。
「今度は避けたか」
吹き飛んだ先ではキリカとシュナは重なり合って倒れている。
だからマオは踏み潰そうとして足を振り下ろす。
だが直前に互いに反対方向に回転して避け、更にその勢いのまま立ち上がってマオへと反撃した。
「さっきよりは良いな」
つい先程と同じようなことをしたが改善して攻撃までしてきたことにマオは見ていて気分が良い。
他人の成長を間近で実感できて嬉しくなるのは、それに少しでも関わっているからだと自負しているからかもしれない。
だけど王都の騎士達にはそんな感情をマオは抱かなかった。
成長した姿を間近で見ても何とも思わない。
その差は弟子と大切な相手に比べて、王族の命令で強引に鍛えることになった興味のない相手との差のなのかもしれない。
「だが決定的に威力が足りない」
そしてマオは二人の攻撃をそれぞれ刃を掴んで止める。
二人の力がもっと強ければ、もっと二人の刃が鋭ければ掴んで止めることもできなかっただろう。
だが実際は圧倒的な力の差で止められてしまっている。
「次だ」
更にマオは掴んだ刃を振り回す。
もし二人が手を離したら勢いよく飛んでいく勢いで激しく振り回す。
だがキリカとシュナの二人は手を離さない。
当然だ。
もし手を離したら勢いよく飛んで行くし武器も手放してしまう。
そんなことになるのなら多少危険でも武器を掴んでいたほうが良いと考えていた。
「……………手を離すか」
全く手を離して飛んでいこうとしない二人にマオは自分が武器を手放すことに決める。
一瞬迷ったのは、このまま壁か何かにぶつけようと考えたからだ。
だが、それは流石に危険だと考え直して手放すことに決めた。
「っこの!」
「ふっ!」
風切り音を鳴らしながら飛んでいった二人は体を回転させて勢いを吸収する。
そして更に飛ばされた勢いをエネルギーとして利用したキリカは地面へと接した瞬間にマオへと突撃し、シュナは回転して吸収しながらもマオへと魔法で攻撃する。
シュナはマオを中心としながら四方八方に魔法で攻撃して逃げ場を封じ、キリカはそこへ攻撃を繰り出す。
やはりシュナは優れているなとマオは感心する。
彼女がいなかったら直ぐに終わっていたはずだ。
「やっぱりシュナは弟子にしようと考えて正解だったな。これからどう強くなっていくのか楽しみだ」
マオの心底楽しそうな言葉にキリカは目を鋭くさせる。
自分ではなくシュナが対象として見られているのが心底気に食わない。
マオの心が自分ではなくシュナに向きそうになり取られるんじゃないかと不安もよぎってしまっていた。
「っああああああああ!!」
キリカはシュナにマオを取られたくないと、そして自分だけを見てほしくて攻撃を激しくする。
先程までとは全く違うそれにマオも目を白黒させた。
急にどうしたのかと疑問でしか無い。
「…………へ?」
そしてシュナは何となくキリカが急に動きが変わった理由を察して顔を青くする。
シュナ自身は二人の仲を邪魔する気は無いのに勘違いされて仲違いをされるのは考えたくも無い。
中の良いカップルは見たいがすれ違う二人を見たいわけではない。
むしろ自分が原因でそんな事になったら自殺したくなる。
「急にどうした?」
恋人の豹変にはマオも困惑を隠せずに疑問を口にする。
だがキリカは何も答えずに激しい攻撃を繰り返す。
もしかしたら嫉妬で暴走しているせいで耳に入っていないのかもしれない。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
「……………」
マオは目の前のキリカを見て攻撃を捌きながら何か考えているし、シュナは自分のせいでキリカが暴走していると考えてオロオロしてしまっている。
誰も止められる者はいない。
「やっぱり怒りは厄介だな。上手く怒らせれば絶好のチャンスを作れるけど、同時に隙も作らずに自分の納涼を完璧に使いこなせるようになる者もいるし」
ようやく変化が訪れると思ったらマオは口を出すだけで攻撃を捌き続けるだけ。
シュナはこんな時に何を言っているのかと呆然とし、キリカは余裕のあるマオに更に苛立ちを覚える。
「っ!?」
そしてマオはキリカの攻撃に合わせてカウンターを取り吹き飛ばす。
距離を取られたことと好きなだけ攻撃できたことに冷静さを少しだけ取り戻したキリカはマオへと文句を言う。
「どうせ貴方は強いヒトなら誰でも好きなんでしょ!?」
「そうでないとちょっとした小突き合いでも死ぬからな。ある程度の実力がないと意外と関わるだけでもストレスが溜まる」
「…………あっ、うん」
「えぇ………?」
キリカはマオの実力を知っているからこそ思わず納得してしまう。
話を盛っているとも考えているが、それは少しだけで結構な割合で事実だと考えている。
そしてシュナは話を盛すぎだろうと考えていた。
強いのは知っているし、こうして実力を見るために戦っているとはいえ小付き合いで殺してしまうのはあり得ないだろうと考えていた。
「…………なんか萎えたな。一応聞くけど、まだ続けるか?」
「…………そうね。もう少しだけお願い」
マオの答えを聞いてキリカは落ち着き攻撃も一旦止まる。
その流れで戦う雰囲気ではなくなるが、マオの確認にキリカは続行を望む。
「わかった」
そして続行を望む声にマオは答え、一瞬で後ろに回った。
「へぇ?」
だがキリカを攻撃する前に自分に飛んできた魔法を防ぐ。
そのせいでキリカへの攻撃は中断し、キリカはマオから距離を取る。
「もしかして後ろに常に回るのは手加減ですか?」
シュナはマオが攻撃をする時は基本的に後ろに回っていたことに気づき、そのことを指摘する。
マオはそれに笑みを浮かべシュナの後ろに回り込む。
「甘い!!」
「そっちがな」
シュナはキリカを視界から見失うと同時に後ろへと攻撃する。
だがマオはそれを受け止め反撃する。
それだけでシュナは吹き飛び意識を失う。
「丁度良いし、終わらせるか」
マオの言葉にキリカは身構える。
そして同じようにマオが視界から消えたのと同時に後ろへと攻撃する。
「今回はここまでだ」
マオのその言葉と同時にキリカは目の前が暗くなる。
その直前に頭に衝撃が奔った気がする。
殴られたのだと理解してキリカは地面に倒れた。




