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教え子と弟子の差③

「あれ?ここは………」


「起きた?体は大丈夫?」


「ひょえっ」


 シュナは意識を取り戻すと聞こえてきた声に変な悲鳴を上げてしまう。

 声を掛けてきた相手が誰なのか理解したのも理解してしまったせいだ。


「キリカさん…………?」


「そうよ。起きたばかりなのに、よく反応できるわね」


 気絶でも眠りから覚めた後でも直ぐに状況を把握できるのは、すごいとキリカは感心する。

 自分もそうだし、マオも意識が覚めて直ぐに状況を把握するのは難しい。

 だからマオも弟子にしたのかと考えてしまう。


「え………えへへ」


 褒められて嬉しくなるシュナ。

 だがシュナからすれば当然のことだ。

 推しの一人に心配そうに声を掛けられたのだ。

 どんな答えでも直ぐに返せるように、まずは意識を取り戻すことが大事だ。


 そして同時に申し訳なさも覚える。

 マオに話しかけられただけで気絶してしまったのだ。

 それだけでもかなり失礼なのに、目の前にキリカがいることから同じ女性として呼んだのだと考えると迷惑を掛けてしまっている。

 

「あの、もしかしてマオさんがキリカさんを呼んだんですか?」


 そして確認のために質問をぶつける。

 間違えて本人が理由のわからない感謝をしても迷惑になるだけだ。


「違うわよ。たしかに頼まれたけど、もともと家にいたし」


 キリカの言葉にシュナは顔を赤くし、そして顔を青くする。

 もともとマオの家にいたということは若い男女が二人きりでいたことでヤることはヤッているんだと顔を赤くし、そしてその邪魔をしてしまったのだと顔を青くする。


「?……違うわよ!?」


 顔を変わっていくことにキリカは首を傾げたが何を想像したのか察して否定する。

 実際にシュナが想像していることはしていない。


「はい。わかっています」


 だがシュナはキリカの否定を照れ隠しだと思って受け流す。

 男女が二人きりなのだ。

 何もしないというのはあり得ないと考えてしまっている。

 仲が良い二人を幸運だとすら思っていた。


「…………一応、言っておくけど本当にシていないからね?一昨日、戻ってきたばかりで疲れていたし!」


「?はい」


 長い移動時間で疲れているのだからシていないのは十分に予想できる。

 だからシュナが顔を赤くしてシているのだと考えたのは、もう経験済みだと考えたからだ。

 そしてキリカの言葉に一昨日戻ったばかりだからシていないないだけで経験はしているのだと察することが出来る。

 まだ経験していないのなら、まだ早すぎるとか経験したことすらも否定するはずだとシュナは考えている。


「……………あ」


 そしてキリカもシュナが自分の否定を当然のように受け入れたことに自分は失敗したのだと悟ってしまう。

 シュナが顔を赤くしたのは昨日や一昨日に致したことではなく、男の部屋に泊まって二人きりで当然のように泊まっていること。

 何度も泊まっているのなら経験はしたことはあるのだろうと考えてもおかしくはないし、キリカも話を聞いたらそう思ってしまう。


「そんなことよりお腹が減っていない!?どうせなら一緒に食べましょう!?」


 話を誤魔化すつもりだなとシュナは思い、自分も性経験を聞かれたら誤魔化すだろうなと思いながら頷いて誤魔化されることにする。

 それに普通は他人の性事情に踏み込むのはアレだが、それ以上に二人の仲が良く進展していることに興奮してしまっていた。




「気絶させて悪かったな」


「え………あ…………は…」


 キリカとシュナが一緒に食卓へと行くとマオがご飯を盛りながら謝罪をしてくる。

 シュナは突然の謝罪とマオがご飯を盛っていること、先程のキリカとの会話での興奮とマトモな反応ができない。

 特にマオがご飯を盛っている姿を見られるなんてレアだとしか思えなかった。


「何かあったの?」


「…………聞かないで」


 顔を赤くしてマトモに返答できなくなっているシュナを心配してキリカに質問するマオ。

 それをキリカは顔を赤くして返答を拒否する。

 まだ先程の会話によってシュナにバレたせいで顔が赤い。


「………本当に大丈夫か?」


「大丈夫だからお願い………」


 恥ずかしそうに聞かないでくれと頼んでくるキリカに女同士の会話で恥ずかしいことを聞かれたのかと予想するマオ。

 聞いても聞かれても困るだろうなと判断して聞かないことにする。


「わかった。………それでシュナ」


「はいっ!?」


 シュナはマオに話しかけられたことに驚いて声を上げてしまう。

 何を言われるのかと警戒してしまっていた。


「お前の実力を確かめたいから手合わせするけど大丈夫か?その後に鍛えようかとは考えてはいるけど」


「お願いします!」


 マオから鍛えてやると言われシュナは喜んで頷く。

 折角の強く慣れるチャンスだと逃したくない。

 今からでも文句はない。


「あとキリカも」


「私!?」


 そしてキリカも声を掛けられて驚いてしまう。

 まさか自分も呼ばれるとは考えてもいなかった。


「ついでだしお前も鍛えようと考えていたけど大丈夫か?無理そうなら諦めるから正直に言ってくれ」


「私もやるわ」


 マオの確認に即答するキリカ。

 先日のこともあるし、寝ぼけていたのが原因だとしても二人きりにするのは信用ができない。いざという時は止めるために近くにいたいと考えている。


「じゃあ、これ食べ終わって休憩したら始めるけど大丈夫か?」


 マオの疑問に頷くキリカたち。

 それならとキリカたちは食事を手早く済ませようと食べ始める。

 だが出されている朝食を全て食べきるつもりはない。

 普通に吐く姿が予想できるし、食べすぎて体が動かないという状態にはなりたくない。

 残したものは昼食か夕食にでも食べるつもりだ。


「…………」


 その様子を見てマオも食べ始める。

 だが、その食事の量は普段と変わらない。

 常にお腹いっぱいに食べているわけでないことも理由の一つにあるが、それ以上に調整しなくても問題ないと考えているのが理由だった。




「さてと………」


 マオたちは街の迷惑にならないように街の外へと出る。

 もしマオが暴れまわったら街の被害がバカにならない。

 そのこともあってキリカやシュナも町の外に出ることに異論はない。


「それじゃあ始めるか………」


 マオの言葉に二人は気を引き締める。

 なにせ一瞬でも気を抜いたら姿が見えなくなって殴られて意識を奪われるのだ。

 その結果、呆れられて期待外れだという視線を向けられたくはない。


「やっ!!」


「はぁ!!」


 だから二人は開始の合図を決めず、そして待たずにマオへと奇襲を仕掛ける。

 キリカは剣を振り下ろし、シュナは魔法で攻撃してキリカの攻撃を援護する。


「…………まぁ、良いか」


 開始の合図を決めていないのに奇襲を仕掛けてきたことにマオは文句を言いたくなるが実力差を考えるとしょうがないのかと考えて、それ以上の文句は諦める。

 そして同時に感心を覚えていた。

 キリカはともかくシュナは自分よりもキリカの攻撃が鋭さや速さが優れていると判断して、少しでも攻撃が確実に当たるように補助に回った。

 直ぐにそこまで考え行動に移せるところに他の者達より優れているように感じてしまう。


「………どうなるかな?」


 予想通りならキリカをメイン、シュナはサポートに回って挑んでくるかもしれない。

 だがマオとしては逆の立場の二人の戦いも見てみたい。

 どうやって立場を逆にさせてみるか二人の攻撃を捌きながら考えていた。





「ぜぇ………ぜぇ………」


「はぁ……っ。げほっ………」


 マオはいちいち考えなくても提案すれば良いと考えているが、同時にどうやって自然に立場を逆転させるか考えながら二人の攻撃を捌いているといつの間に二人は息を荒げてマオを睨みつけてくる。


「…………どれだけ時間が経っているんだ」


 思わずマオは時間を確かめたくなる。

 少しだけ考えているはずだったが思った以上に二人が汗を掻いているせいで想像以上に時間が経っていると考えたからだ。


「そこっ!!」


「っ!!」


 そして実際にマオが時計を確かめようとした瞬間に二人は攻撃を仕掛けてくる。

 シュナは正面から襲い、それと同時にキリカは後ろに回り込んで攻撃をしてくる。

 それらをマオは相手の攻撃を受ける直前に、その場を離れて回避する。


「あっ」


「っ」


 そのせいで二人は互いの攻撃が互いに襲いかかってしまう。

 キリカはシュナの攻撃を回転しながら受け止め位置を反対にする。

 そしてシュナは位置が反対になったのと同時にマオへと挑んでいった。


「ラッキー」


 それを見てマオは思わず嬉しくなる。

 さっきまでずっと悩んでいたことが解決したのだ。

 有り難くてしょうがない。

 これでシュナをメインとした二人の連携を見ることが出来る。


 それに攻撃を避けられ互いの攻撃が互いに当たりそうだった際の咄嗟の行動も評価出来る。

 もしかしたら王都にいる騎士達よりも優れているかもしれないとマオは感じていた。


「あぁぁぁぁぁぁ!!」


 シュナは足技を主体に魔法を織り交ぜて攻撃を繰り出してくる。

 隙間なく魔法と足技が襲ってきていて基礎的な能力はキリカに劣っているが、センスはキリカより上だとマオは感じている。


 そしてキリカは的確にマオへと攻撃しているがシュナと比べて雑に感じる。

 隙きを見つけては攻撃しているがマオの行動を妨害したり、シュナの補助に回るような行動はしていない。

 もしかしたら勇者だからこそメインとして立ち回ることが多く、サポートに回る経験が少ないことが考えられた。


「キリカにはサポートに関しても鍛えたほうが良いか……?」


 基礎的な能力の高さでゴリ押ししているから、まだ問題は起きていないがシュナとは比べ物にならないぐらいに雑だ。

 そしてシュナはキリカの方が攻撃の威力が高いと判断したからか積極的に前に出て確実にキリカの攻撃が通るように隙きを作り出そうとしている。


「もしかしたらキリカよりシュナのほうが強くなるかもしれないな」


 今は基礎的な能力がキリカのほうが優れているから勝っているだけだ。

 互角の能力を持ったらセンスの差でキリカが劣ることになるかもしれない。


「………やっぱり勇者よりもそれ以外の者の方が素質に優れているのか?」


 勇者が優秀なのは優先的に国を挙げて教育しているからなのではないかと考えてしまうマオ。

 もし全ての者が同じような教育を受けたら、どんな結果になるのか興味を持った。

 だが同時に自分が受けるとなると面倒くさいと思っていた。


 なにせ話を聞く限り自由が無い。

 自分が学びたい事よりも他人の決めた事を他人の決めた時間で学べさせられる。

 しかも学びたいことを学べる時間が来ても少ない時間と少ない範囲しか学ぶことができないし、詳しい話を聞こうとしても教えてくれる本人もわからないことがあるらしい。


 更に日によっては学びたいことを学ぶこともできないようだ。

 それで調べようとしても、まだ教えていないからと違う範囲を学ぶようにも強制される。

 学びたいことを絞って学びたいマオにとっては遠慮したかった。


「勇者が万能か器用貧乏が多いのも、それが理由か………?」


「何をぶつくさ言っているのよ!?」


「はぁっ!!」


 マオは二人の攻撃を捌きながら、そんなことを考える。

 目の前の攻撃に集中しなくても二人の攻撃を捌けることが、逆に攻撃を当ててやると二人に火を付けていた。

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