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城での生活④

「ハニル様」


「何でしょうか?」


「キリカを人質に取らないのでしょうか?王都にいる間なら、いつでも出来ると思いますが」


「色々なリスクがあるのでダメです」


 キリカを人質にしてマオを従わせようと提案されるがハニルはそれを否定する。

 もしバレたらマオにどんな逆襲をされるかわからない。


 個人で国相手に勝てることを確信させるのだ。

 敵対をしたくはない。


「逆らったと同時に死ぬ呪いでもですか?」


「たしかに効果がありそうですけど、呪いが解かれたり、それがわかって逆らったら殺されますよ?私なら自分のせいで恋人が奴隷にされていると知ったら自殺でも考えますが」


「なら自殺を防止するように呪いも掛けたら?」


「それに国民にバレたら反感を買ってマオさんとは関係なくに国が滅びますよ?もしかしたら自分たちも意に従わなければ奴隷にされるんじゃないかって考えるでしょうし」


「それは………」


「あと敵対する気がなくても力加減を間違えて殺してきそう」


「…………そんなドジなことはしないでしょう」


 国民に反感を持たれクーデターを起こされると言われた時は騎士は真剣な顔をし、力加減を間違えてと言われた時は真顔になって否定する。

 あれだけの実力者なら手加減なんて出来て当然のはずだ。


「それに彼女は勇者です。教会に相談するという手段も取れます。勇者を呪いに掛けたということを知られたら、勇者をこの国から離脱させてダンジョンが溢れかえっても破壊することが出来なくなりますよ?」


「……………そうですね」


 人質にしようとした彼女が勇者だということを騎士は忘れていた。

 そもそも勇者も同じ勇者でない限り呪いもほとんど効かない。

 それに勇者を擁する教会とも敵対する可能性もある。

 そこまで考えて騎士もハニルの否定に納得しため息を出る。

 あれだけの戦力を手に入れることが出来ないのは正直に言って惜しい。


「だから私はそのためにマオを少しでも引き止めて強さの理由を知りたいのです。貴方達も頼みますね?」


 ハニルのその言葉に騎士は黙って頷くことしか出来ない。

 逆らうなという圧を感じてしまったのもある。


「わかりました………」


 王族の命令でマオは王都に滞在している。

 その間にありとあらゆる情報を掴んでやると決死の覚悟を決めていた。



「あぁ、うざい」


 マオは突撃してきたモンスターの頭を裏拳で吹き飛ばしながらぼやく。


「マ……マオ?」


 期限が悪そうなマオにキリカは怯えながら話しかける。

 朝、部屋に戻ってきた時は普通だったのにギルドに向かう途中からだんだんと機嫌が悪くなっていた。

 そして歩いている途中から機嫌が悪くなっていったことに、もしかしたら遠くから見られているんじゃないかと察して周りを見渡すが誰も見つけられない。


「思った以上に視線を向けられるのはイライラするな……」


 今度は蹴りでモンスターの胴体を引き裂く。

 中身の内臓が飛び出してきて見た目がグロくなる。


「え……。見られているの?」


「あぁ?あ〜、そう。そこら変に隠れているから見つけてみたらどうだ?」


 マオの言葉に予想通りに隠れて見られていることが発覚し、そしてマオに見つけてみろと挑発される。

 だが、いくら探してみてもキリカには見つけられない。


「無理なら無理で良いだろ。敵意はないし、それよりもモンスターを警戒していた方が遥かにマシだ」


 そんなことをマオに言われても探すのは止められない。

 今は敵意がなくても、もし敵意があるような者がいたら警戒も出来ずに攻撃を受けてしまうのだ。

 そうならないためにも警戒して探してしまう。


「まぁ、がんばれ」


 マオにとっては簡単に見つけてしまえる。

 だから、もし攻撃してきたとしても対処できるように備えていることが出来る。

 それもあって余裕を持って行動することが出来ていた。



「………お前らは同じことを出来るか?」


「………わかりきったことを聞かないでください。隊長こそ出来ないんですか?」


「………無理に決まっているだろ」


 騎士たちは一撃でモンスターを粉砕しているマオを見て同じことが出来るかと互いに確認をして否定し合う。

 一撃で殺すことは出来るかもしれない。

 だが、それは気合を入れた一撃であって何気ない一撃で当たり前のように殺すことはできない。


「それに確実に私達のいる位置も気づいていますよね?」


 最初は上手く隠れて気づかれていないと思っていた。

 だが途中から不機嫌になりながらキリカと会話していたマオの言葉に最初から気づいていたのだと理解する。


「だよなぁ………。最初から気づいてたんだろうな」


 おそらく最初は無視しようと考えていたのだろう。

 もともとマオの強さを知りたいからと王都に滞在させているのだ。

 普段から強さの秘密を知るために監視されることは予想していたのだろう。

 実際に味わって、どれだけストレスが貯まるのかまでは理解していなかっただけで。


「気づいているのなら、私達も合流しますか?正直に言って隠れてみているよりは近くで見ていたほうが勉強になる気がしますし」


「………そうだな。バレているし隠れて見ているよりは近くで見ている方がマオ殿の心象も良くなるか」


 間近で見るという意見に隊長も頷いて隠れていた場所から立ち上がる。

 更に他の騎士達にも立ち上がってマオの元へと移動しようと促す。


「あっ」


 そして立ち上がったことでキリカも隠れていた騎士達を見つけることが出来た。

 本気で探していたのに見つけることが出来なかったことにキリカは流石、騎士達だなと感心する。

 同時に隠密といった隠れて行動することを専門とした者たちであることを祈る。

 そうでないのなら専門でもない相手に隠れられたら気付けないということになる。

 つまり、隠れられたら誰が相手でも奇襲を仕掛けられるまで気づかないということだ。


「ねぇ、マオ」


「何?」


 目の前にいるモンスターの首を引きちぎって絶命させるマオ。

 何で残虐な殺し方をしているのか頭を抱えそうになりながらキリカは頼みごとをしようとする。


「今度、私に周囲を警戒する方法を教えて。このままじゃ奇襲を仕掛けられたら対処することもできない」


「………たしかに危ないな。…………街に戻ってからする?」


 街に戻ってから鍛え直すという言葉に騎士達は絶句の表情を浮かべる。

 自分たちは強くなりたいから遠くから見ており、王都にも滞在してもらっているのだ。

 街に戻ってからでなく自分たちも一緒に鍛えてほしいと目で訴える。


「そう…………ね」


 そしてキリカはマオの言葉に頷こうとしたところで騎士達の視線に気づく。

 危機感から忘れていたが、そもそも今王都にいるのは騎士達も強くしたいからという意図があることを思い出す。

 自分だけでなく騎士も鍛えなければ意味がない。


「私だけでなく騎士達にも鍛えてあげない?じゃないと王都に滞在させてもらっている意味はないし」


「………?あぁ、そういえば」


 キリカの言葉に最初は赤の他人の騎士にも鍛えないといけないことに不満を持つが続けられた言葉に納得する。

 たしかに鍛えないといけなかった。

 そうしないといつまで経っても街に戻れないかもしれない。


「はぁ………。本当に面倒くさい」


 どうでも良い奴らに一から十まで教えるのはやる気が出ない。

 これがキリカやカイルといった親しい相手なら、まだやる気にはなれた。


「で、いつから教えれば良いんだ?」


 鍛えるために王都に滞在させられているとはいえ急な予定に対応することは難しいだろう。

 そう考えてマオは予定を確認するが何も問題はないと答えられてしまう。


「なら今からお願いします!丁度、今はダンジョンにいるので何も問題はないはずです!」


「は?」


「確かに準備もしていませんが問題はありません!もし重傷を負ったとしても回復を得意としている者たちもいるので大丈夫です!」


 もし重傷を負ったとしても回復できるから問題ないと隠れていた騎士達は告げる。

 そこまで言うのならとマオは諦めた。



「はぁ………。回復が得意な者たちは手を上げろ」


 マオはまず回復が得意だという者たちに手を上げさせる。

 誰が回復できるのか確認したかったのもある。

 同時に回復できる者たちを参加させる気はなかった。


「まずお前たちは今回は参加させる気はない。回復要因として待機してもらう」


「「えぇ〜〜」」


 マオの言葉に不満を漏らしてしまう回復が得意な者たち。

 それ以外の騎士達は得意げな顔をしており、それが更に苛立ちを覚えてしまう。


「それと、もし体力が尽きて倒れてしまったら運んでもらうから」


 更に続けられた言葉に不満な表情を隠しきれなくなる騎士達。

 理性ではわかっている。

 ダンジョンにいる以上は危険だし温存しておくべきだろう。

 だが、それでも自分たちも参加したかった。


「さて……と。お前らは全員、まずは片目を目隠ししてもらう」


 不満そうな表情をしているのを無視してマオは次に訓練をする騎士達に指示を出す。


「ちゃんと見えないように隠せよ。まずはその状態でダンジョンを挑んでもらう」


「これだけですか?」


 周囲の気配を探れるようになるための訓練がこれだけのことに流石に参加している者たちは疑問に思い口に出す。

 それは回復要因として温存されている騎士達も同じだ。


「それだけ。最初は片目が塞がれていることによって補うために色々な部分が敏感になるから、その感覚を大事にしろ。わかりにくいかもしれないけどな。ある程度の日にちが経ったら今度は逆の目だ。個人差もあるし交換するのは自分たちで決めろ」


「つまり目が見えているからこそ普段使わない、もしくは鍛えられない感覚を鍛えるということですか?」


「そう。誰も気づかない音や僅かな違いを感じ取れたり、ちょっとした変化が見えるようになる」


「………!」


 これが、強さの秘密の一つだと理解して騎士達は目を輝かせる。

 回復要因の騎士達もそれなら自分たちも待機しながらできるんじゃないかと考える。

 片目を瞑るだけなのだ。

 何も問題はないはずだ。


「それなら私達も参加できるんじゃ………」


「できるけど命の危険がある眼の前の奴らよりは効果は低いよ」


「なら、やります」


 効率が低くても効果があるのならヤる。

 当たり前のことだ。


「そうか」


 好きにすれば良いとマオは思う。

 マオからすれば誰が強くなろうが、どうでも良い。

 むしろ、さっさと強くなって開放してくれとすら思っている。


「そしてさっさと強くなって、貴方を超えさせてもらいます」


「がんばれ」


 超えると宣言した眼の前の騎士にてきとうに応援するマオ。

 目の前にいる騎士達が自分を超えるのは絶対に無理だろうと考えていた。

 なぜならマオもまた目の前にいる騎士達以上に鍛えている自信があるからだ。


 マオのてきとうな返しに悔しげに思いながら宣言した騎士は早速、目を瞑る。

 何をやっても勝てないだろうとマオが思っているのが理解できる。

 だから、それを覆したくてしょうがない。


 そして、それを察知したのは宣言した騎士だけではない。

 ダンジョンでモンスターに挑もうとしている騎士達も近くにいた温存している騎士達も気づいている。

 だからこそ強くなるために気合が入っている。


「あっ、そうだ」


「?」


「ちゃんと視界に映らない方を意識しろよ?見えている方だけ意識しても効率が悪いし」


「はい!」


 気配を探るための助言だと理解し騎士達は助言を意識してダンジョンで行動した。

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