城での生活②
「はぁぁぁぁぁ」
翌日の朝、マオはキリカを抱きしめながらため息を吐く。
毎日の日課をしようにも城の中だから、どうしても違うし赤の他人も巻き込まないといけない。
キリカを抱きしめて癒やされようとしても考えるだけで面倒くさい。
「…………面倒だな」
だが場所を変わっても日課をこなさいのは、なんとなく気分が悪く感じてしまう。
だから外に出ても大丈夫なように着替えて部屋を出る。
「どうしましたか?」
そして部屋を出たすぐ側にはメイドたちがいた。
「毎日の日課をこなすつもりです。何もしないのも気分が悪いので。それと問題がないのなら一緒に鍛えたいという者は起こしてくれませんか?」
「かしこまりました。ただ起こすのに少々時間がかかりますのでお待ちしていただけるとありがたいのですが?」
「わかりました」
マオは何人来るのかわからないが、それまでは自由に鍛えていようと決める。
相手は騎士たちなのだ。
自分が特に何もいなくても自主訓練の仕方はわかっているはずだと考えていた。
「………すごいな」
マオは鍛えるのに使う訓練所へと向かう途中、感心をする。
まだ、かなり早い時間だと言うのに通路には多くの執事やメイドが歩き回っている。
四六時中働いているのだと考えて自分では無理だと思う。
「どうされましたか?」
向かっている途中に疑問をぶつけられることもあるが目的を告げると納得してくれる。
見慣れない相手だからか、出会うたびに警戒されているが下手な騎士や冒険者たちよりも実力が立っているように見える。
「鍛えるのに訓練所を使うつもりですので。後から一緒に鍛えてほしいと他の騎士たちも来る予定です」
「…………。あぁ、あなたが。怪しいことはしないでくださいね?」
「えぇ。気をつけさせてもらいます」
怪しい行動をしたら覚悟しておけと言わんばかりに強い視線を送ってくるメイドや執事たち。
たとえ敵わなくても仕える方の為なら命を賭けて挑んでやるという覚悟をマオは感じてしまい哀れな気持ちを抱いてしまう。
そして同時にそれほどまでに王族のカリスマは強いのかと興味を持つ。
もしかしたら自分も王族のカリスマに当てられたら同じ様になるのかと疑問を持った。
「もしかしたら対策する必要があるかもしれないな」
特別な技術ではなく生まれ持った能力だから対策するのも難しい。
その対策としてはそもそも会わないことしかない。
目の前にいるメイドや執事たちのように自分の命を誰かにマオは授けたくなかった。
「起きてください!マオ様は既に訓練に向かっていますよ!」
マオたちの隣の部屋でメイドは騎士たちを叩き起こす。
既にマオは訓練所へと向かっているのだ。
それだけで色々と遅れてしまっている。
「は?……………やばっ!!?」
一人の焦りの言葉を皮切りに絶叫を上げる騎士たち。
起こしに来たメイドは耳を抑えても衝撃で体をふらつかせてしまい、城にいる者たちの殆どを起こしてしまう。
騎士たちは自分たちの絶叫がどれだけの被害を与えたか気にすることも出来ずに着替え始めてさえいる。
「何事だっ!!」
そして、あまりの声の大きさに執事長とメイド長、そして騎士長までもが部屋へと集まってくる。
彼らの登場に騎士たちは動きを止めて敬礼し、ふらついていたメイドは倒れてしまう。
「どうしましたか!?」
すかさず受け止めて確認するが何も問題はないように見える。
おそらくは間近で絶叫を浴びたせいで目を回し倒れただけなのだろうとメイド長たちは判断した。
そして絶叫を上げた騎士たちへと視線を向ける。
「それで何で悲鳴を上げた?」
「「「「「はい!既にマオ殿が訓練所に向かっており遅れたせいであります!」」」」
「なるほど。それで絶叫を上げたのか」
「「「「「はい!」」」」」
「馬鹿か貴様らは!だからといって絶叫を上げるな!他の住んでいる者たちの迷惑になるし実際にここにいたメイドは倒れているだろうが!朝なんだから、もう少し気をつけろ!それにマオ殿も寝ぼけた状態で来られても身にならないから、しっかりと目を覚ましてから来いと言っていただろうが!」
「「「「「申し訳ありません!!」」」」」
騎士たちの声に冷たい目を向けるメイド長と執事長。
ハッキリといって煩い。
もう今更だが城内では迷惑だ。
「はぁ。もういいから行きたいやつはさっさと行け。あまり待たせるな」
「「「「「はい!」」」」」
騎士長の言葉に頷き、騎士たちは訓練所へと走る。
そしてマオとの訓練が終わり、いつもどおりの訓練の時間になったら厳しくしようと騎士長は決める。
朝から鍛えているからと言って普段の訓練を休むわけではないのだから当然だった。
「ふむ。ところで騎士長殿。私達も見学に行って良いでしょうか?」
「構いませんが、どうしましたか?」
「いえ。メイドとして最低限の戦闘能力は持っていたいので。もしもの時のために少しでも時間を稼ぎたいのです」
「そうですね。私も一緒に見学させてほしい」
メイド長の言葉に執事長も乗りかかってくる。
騎士長も最低限の戦闘能力は持っていたいという意見に納得し、そして頷く。
それに騎士たちが参加することになっているが余裕があり強くなりたいのなら誰が参加しても構わないだろうと騎士長は考えていた。
「………来たか」
マオは正拳突きを繰り返しながら呟く。
正直、初日から来るとは思えなかった。
「えぇ、来ました。普段の行動から貴方の強さを学ばせてもらいます」
騎士たちの瞳には強さに貪欲な光が宿っている。
なんとなく自分のやり方を教えても無意味な者もいるだろうなとマオは考えていた。
あと初日だからマオ自身が起きれない可能性もあると伝えたから来ないかとも想像していた。
だから少しだけ多くの騎士たちが来たことにマオは驚く。
「とりあえず俺は毎日、正拳突きをしているけど同じことをしなくても良いから」
正直に言って、これはマオ自身にしか意味がない。
自分の最も得意な武器の基本技の訓練をしているのだ。
剣が得意な者が同じことをしても無駄だ。
「いえ!私達は強くなるために来たのでそれは受け入れません!」
「意味ないから武器を持てって」
そう言って、それぞれが持ってきていた武器を下ろして正拳突きをしようとする騎士たち。
だがマオはそれを止める。
「俺は拳で戦うから正拳突きをしたりするけど、お前らは違うだろう。剣を持っているものは剣を振れ。槍を持っているものは槍で突け。斧を持っているのなら斧を振り下ろせ。自分たちの最も得意な武器の基本を繰り返せ」
続けられた言葉に騎士たちは下ろした武器を即座に取って言われたとおりに基本技を繰り返す。
「無意味に繰り返すな。どうすればもっと威力が出るのか。もっと速度が出るのか。それを考えて武器を振れ。じゃないと無駄な時間を過ごすだけだ」
更に続けられた言葉に闇雲に繰り返し振っていたのを止める。
そして一振り一振りごとに悩みながら武器を振り始める。
「あと武器を素振りしているからといって目の前に何もないと思うな。ちゃんと目の前には空気がある。風がある。空間がある。それを壊してみる気持ちで武器を振れ」
更に力強く武器を振り始める騎士たち。
その様子にマオは満足げな表情を浮かべ自分の訓練を再開した。
「なるほど………」
それを見て騎士長は感心をしてしまう。
そして自分もただ漫然と武器を振っていたことに恥ずかしくなる。
「これからの訓練は彼の言葉を参考にしよう」
基礎訓練だからとただ繰り返すのではなく、その前にマオと同じことを言おうと騎士長は決めた。
それに同意してかメイド長と執事長も頷く。
騎士団よりは短い時間しか鍛える時間はないが参考に出来る。
「そうですね。私達も彼の考え方は広めましょう。もしかしたら訓練の時間が余っている騎士たちより限られた時間しかない私たちのほうが効果がありそうですし」
「たしかにな」
「「…………」」
最も効果がありそうなのはメイドや執事たちだという言葉に頷く騎士長。
当たり前のように頷かれたことに気を悪くする。
おそらくは、どれだけ伸びしろが上がっても騎士たちには勝てないと考えているのだろう。
執事やメイドと違い騎士は戦闘の専門職だ。
それを考えれば当然のことかもしれないが、それでも勝てないと言われるのは悔しい。
「今度、一緒に訓練をしませんか?」
「そうだな。もしものときの為に腕試しをするのも悪くないし。何よりも一番最後に王族を護るのは貴方たちだしな。それで貴方達が強くなるのなら文句はない。だが………」
見返すために一緒に訓練をすることを持ちかけるが、特に疑問に思わず受け入れてくれた。
そして一番最後に王族を護るのは自分たちメイドや執事だと言われて気も良くした。
だからこそ最後にだが、と最後に付け加えられたことに疑問を持つ。
「どうしましたか?」
「俺達よりも余っている時間が少ないんじゃないかと思うが、そんな暇はあるのか?」
「あぁ、そういうことですか」
騎士長の疑問に納得する。
たしかに騎士たちよりも余っている時間は少ない。
だが問題はない。
「時間がないのなら作れば良いだけです」
「そ……そうか」
騎士からすれば執事やメイドは最後の防波堤だ。
だから戦闘能力を身につけるのは文句はないが、積極的に力をつけようとしているのは微妙な気持ちになる。
なぜなら自分たち騎士は王族の他にメイドや執事たちも護るために鍛えているのに信じられないと言われている気持ちになるからだ。
頼りにならないと思っているから鍛えているんじゃないかと考えてしまう。
「なぁ」
「何でしょうか?」
「お前たちは俺達が信用ならないか?鍛えているのも俺達が頼りないからだと思っているが?」
「「え」」
騎士長の言葉にメイド長や執事長は一瞬何を言われたのか理解できずに混乱する。
そして言葉を理解し慌てて否定する。
「「違う!」」
「そんなことを言われても、そこまで力を入れて鍛えられると少しな……。どうしても王族を守りたいのなら何よりも逃げる手段を考えてほしいし」
バカ正直に戦うために鍛えるよりも逃げ足を鍛えてほしいという騎士長に否定できなくなる執事長たち。
確かに戦闘能力を鍛えるよりは逃げ足を鍛えた方が生き延びれる。
だが、それでも最低限の戦闘能力は身につけるべきだと思っている。
「それでもです。たとえ無駄になったとしても取れる手段は多いほうが良い」
だから取れる手段は多いほうが良いからと騎士長にいう執事長。
メイド長も頷いており、とれる手段は多いほうが良いという言葉に騎士長も理解は示す。
「そうか。それなら、これからは定期的に腕合わせをするように予定を組み込むべきか?それなら互いに関わり合いが出来るし、もしものときの連携もスムーズに行く」
「………そうですね。とりあえず私達だけで話し合って計画を立てましょう。それから詰めて行って実行に移すのが良いと思います」
「いえ。ある程度の形が決まったら、それぞれの副官を呼んで相談しましょう。私達だけで決めたら不満が出るでしょうし、もう少し話し合うための数がほしい」
それぞれ意見を出し合う三名。
それでも王族のために協力することは前提として話し合っているために、この場での話し合いはスムーズに終わった。




